表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
体験 ホラー小噺  作者: せろり
1/10

喚び出したのは……

こっくりさん 誰しもが知る遊びですね。

ウィジャボードなどという専門的なものも世界にはあり、多分世界的にも一般に知られる【実は降霊術であり交霊術】のひとつです。


時折小中学生に流行るのはご存知の通り。

斯くいうわたくしの中学時代にも流行りまして。

放課後の教室で女子たちが数人集まり、こっそりとあいうえおの五十五音と、鳥居のマーク、そしてお帰りいただくマークを書いた紙と十円玉を囲む日々が続いておりました。

うまく行けばコインが動き、ちょっとしたドキドキ感と悪いことをしてるという背徳感、異界を覗き込むほんの少しの恐怖が楽しめる…そんな感覚に、ほとんどの参加女子たちが嘘だと思いながらももしかして…という好奇心とひそめる声に酔い痴れるように嵌っていくんです。


その日は今で言えばクラスカーストトップのちょっと尖った女子グループが参加してました。

茶髪にしてようともまだ中学2年生。

今思えばほんの子どもです。

誰それの好きな人は誰ですか?や、誰それはもうファーストキスは済ませてますか?など、どうでもいい…いや、当時の私達にしてみればドキドキする話題を出しながら、遊んでました。

とある女子を当時流行っていたアニメになぞらえてミナミちゃんとしましょうか。

学年一の美人で成績優秀、運動神経抜群な人気者がいました。

ヤンキートップの女子をナオミとしましょう。

このナオミ、恋に恋する少女でした。  

あの人がカッコいいとか、誰それのお兄ちゃんはクルマカッコいいの持ってるとか、常に男子生徒の動向や視線が気になるタイプ。本人も軽く明るい茶系に髪を染め、軽くパーマを充てていて、華やかでおしゃれなタイプでした。

ナオミの恋する少年が当時バレーボール部に所属していて、某体操選手の池谷さんに似ておりましたか。


その池谷某がミナミちゃんを好きらしい、二人は幼稚園が同じで幼馴染らしい、夏祭りに二人でいったらしい…と、らしいばかりの噂があり、ナオミは気になって仕方が無い様子でした。

「ねぇ、ミナミと池谷くんの事聞こうよ!」と、その場に居ない者の質問をしたがりました。


このこっくりさん、我々は別の名前でよんでました(がそれは地域特定になるので割愛しますね)ルールが一つありまして、【その場に居ない人間の質問はしてはならない】というものでした

それでも、スクールカーストトップのナオミに逆らえるものでもなく、渋々、その日の『おしらい様』いわゆる質問係の女のコとナオミ、そしてナオミの相方、あと誰だったかクラスの女のコ4人であいうえお表を囲みました。



私達クラスで流行っていたのは

質問係のおしらい様を正面にして、コインを囲む3人、この3人がおしらい様役の子の肩に手を置きながら、4人で紙を囲み、そのテーブルの周りに5人で囲むなんだっけなぁ、たしかキキョウさんと呼ばれる人を5人立てて、1つ質問するたびに、時計と逆回りにくるり、と隣の人がいた場所へと移動するんですよ。


それまでも誰それの好きな人とか、まぁ他愛もない質問をして当たっていたりもしたので、特にタブーをルール違反とも感じずに、なんとなく『この質問ってここに居ないミナミちゃんへの悪口とか陰口だよなぁ』と多分全員が思っていたとおもいます。

それでも、ナオミが次々と繰り出す質問が際どくて、全員ドキドキしながら、やっぱりねあの二人は付き合ってるんだ!とか、きゃーAまでしてるんだ!(ある一定の世代にしか通じない恋のABCってやつですね)とかで赤面しつつも、盛り上がりまして。

さて、質問がそろそろ佳境とでもいいますか、思いつかなかったのか、ナオミが『あの二人を別れさせることはできますか?』と質問をしたのです。


その瞬間、教室の温度というか、質感がぐっと重く感じたように思います。

こっくりさんという遊びの肝は4人の人差し指が乗っただけの十円玉です。

お互いに誰かが動かしてるんでしょ、と高を括りながら、してはいけない遊びをしている、そんな認識のただのコイン。

それが急に動き回りだしました。何してんの?ふざけてる?と、キキョウ側の誰かが聞きましたが、返ってくるのは『指が!熱い!』『やめてやめてやめて!!怖い!』『指が離れないよ!やばいって!ごめんなさい!ごめんなさい!』と泣き出す4人。異様な光景でした。

『指!離したら駄目!解答読み取って!お帰りくださいまでやんなきゃ!!』と、誰かがおしらい様へと早く、早く!と急かしまして。


おしらい様役の子が

『た・い・か を』

『よ・こ・せ 』と声に出した瞬間でした。

ナオミの相方、ノリカとしときましょうか。たしかそんな感じの名前だったと思います。

ノリカがガクガクと白目をむいたかと思うと泡を吹いて倒れたんですよ。

人間ってホントに泡を噴くんだー、と思ったのは内緒です。

大騒ぎです。

泣き叫ぶ女子が何人かいて。

おしらい様役の子が『お帰りくださいお帰りくださいお帰りください』と壊れたラジオのようにどこかピントの合わない目と声で繰り返し。

『だから止めようって言ったのに!』と誰かが責任のなすり合いを始め、軽くパニックの状況でした。


こんなに大騒ぎをしてるのにクラスの男子がいない事や、教師が来ない事など、何故?と今でも思います。


何人かはどうしたらいいのか、動けずにいたり、倒れたノリカへと、ノリカちゃん!と声を掛けたりしていました。


そんなときです。床に倒れたノリカが、なんというか一本の棒のようにピョン!と予備動作もなく立ち上がったんです。


まだ白目をむいたまま

いつものちょっとダルそうな可愛い女のコらしい声ではなく、

地を這うようなひび割れた声男性とも違う低い低い声で

『分レさせる契約はナサれた』 

と3回繰り返しました。



もう本気のパニックです。

ほとんどの泣き叫ぶ女子の中、先生呼んでくる!と走り出す女子もいたり、やっぱりいたんだ!こっくりさんはやばいって!と震える子がいたりで、いつ先生が来たのかも記憶にないんですが、まあその日は帰されまして。

翌日全校集会が開かれ、名前は出されませんでしたが、校長などからこっ酷く説教を頂戴し、こっくりさんは全校禁止となりました。



何日かはちょっとなんとなく居心地悪い状態でしたが、特に呪いの効果などもなく、なーんだこっくりさんってやっぱり嘘だわ、とか、集団ヒステリーだったんだ、などとそれっぽい事を言ってお互いにホッとしていました。



そんな幾日かの後の、確か5時間目の担任の授業中、理科だったと思います。

教頭先生が授業中なのに担任を呼び、教室の外へと連れ出してしまいました。

なんだ?なんだ?とざわつく教室。

廊下からバタバタと走る音がして『ミナミ、荷物まとめて。家に帰るぞ、先生送っていくから』と担任が駆け込んできて『自習になるけど、社会の山田先生が見てくださるから!』と教頭先生が山田先生を連れてきて。


疑問に思いながらも、どこか漫画や流行りのドラマっぽい展開にクラス全員が浮き足立ちました。

何か事件か?と。この時はただただミナミちゃんがヒロイン役とか似合う!みたいなほんとに浮ついた感情でした。



なんで帰ったんだろうねー、とか、オオゴトじゃないといいね、などとそのくらいであっという間に私達はミナミちゃんが早退したことを日常に流していきました。


翌日、ミナミちゃんはお休みで。

なんで帰ったのかへの解答がないことへの不完全燃焼ではありましたが、それでもやはり日常のルーティンは変わらず。


幾日かミナミちゃんがお休みのまま、そろそろ週末になろうかというときでした。


朝礼のときに、いつも朗らかな担任の悲痛な表情に、いつになくクラス全員ざわめくこともなく、朝の号令と共に担任の第一声を待ちました。


『ミナミのお父さんが、お亡くなりになった。明日通夜と明後日葬儀がある。行ける人は出来るだけ参列してほしい。行くときは制服で。中学生として敬意を表してほしい。詳しくはプリントを配るので、父兄にも必ず見せるように』


そう聞いた瞬間、ナオミが机に突っ伏し号泣しだしました。


複数の女子は一瞬あの嗄れた声を思い出したと思います。

【契約はナサれた】

まかさ、そんな…

そう脳裏に浮かんだのは、一人だけじゃなかったと思います。


悲痛な空気のまま、放課後を迎えました。


『ねぇ…こっくりさんに契約ヤメてもらうように言おうよ』と、ナオミと、ノリカが女子を集めました。


あの日、参加してた9人と、眺めていた幾人かがナオミに呼び出され、それ以外にもクラスの何人かの女子が残っていました。

経緯をざっと説明するナオミに対して、禁止されたのだからもうやるべきじゃない、とか、

そんな感じで何人かは反対しましたが、ノリカが『あれからずっと夢に見るんだよ。真っ黒な何かがちょっとずつそばに来るんだ』と『たいかって言ってたのは、対価なのではないか?その対価って自分なのではないか?』と。


ゾッ…としました。


実際に何か事件が起こっていること。

その渦中の人がこっくりさんに分かれさせると言われたミナミちゃんであること。

そして、対価とは何なのか。

『これって…ナオミのせいじゃないの?』

誰かが呟きました。

それを受け、ナオミがヒステリックに喚きます。

『自分のせいじゃない!』

『こんなことになるなんて思ってなかった』

『死んで欲しいなんて思ってなかったし、こんなのどうしたらいいのかわからない』

だいたいこんな内容だったと思います。


結局、押し切られる形で、再びこっくりさんを行う事になりました。

本来なら何日か前にあいうえお表を作ってやらねばならないルールでしたが、誰かが藁半紙に表を作り、バス通学の子が送迎の為の電話用に持っていた小銭を出してもらって


『○○さん○○さん、この○○へと具現○○○をしてください』

と最初の言葉を唱えました。


質問をする前に十円玉が動き回りました。

グイグイと動き回り、何を言ってるのかも全く解らない無軌道な動きが続きました。


(『)やだ!(』)

大きな声を上げて十円玉に指を乗せていた子が飛び退きました。

『どうしたの?!』と何人かで聞くと同時にナオミが首がグルングルンと不確かに揺れだし、綺麗にセットしてる自慢の髪を振り乱しながらケタケタケタケタ…!と笑いながら歯を打ち鳴らすような妙な音を立てて震えながら泣き出しました。

『ザマアミロザマアミロザマアミロザマアミロザマアミロザマアミロ』

ナオミから聞こえるのはこんな声でした。

いつものナオミのキンキラ声ではなく、嗄れた昏い声。

まさに人非ざる者の声でした。


『もうやだ!』ノリカが泣き叫ぶと、何人かの女子が教室から出ようとしました。


『ドアが開かない!』と泣き出し、世の中には触れてはならない世界があるんだ、と多分その時には全員が思いました。


『何をしてる!』


その時、ドアを開けて社会の山田先生が入ってきました。

普段とても穏やかで、土日には神父様を為さってる山田先生が、怒ってて。ズンズンと近づくと、こっくりさんの表を見てロザリオを背広から出して十字をきると、聖句を唱えだしました。


『天に在す我等が神よ願わくば御身の尊ばれん事を……』と。


フゥっと体が軽くなった気がしました。

教室のどこか重かった空気圧が軽くなった気がしました。


その後、その場にいた全員が山田先生から

『どこの国にもこういう交霊術がある。その時に何もなくただの遊びで終わることもあれば、その近くにいた低級悪魔…日本だと低級霊って言い方をするけど、良くないモノが寄ってくることもある。もちろん集団ヒステリーかもしれないし、キミ達の心の中の悪しき感情が表面に浮き出たのかもしれない。どれを信じるのも自由だけども、人を呪わば穴二つ。いつか何某かが返ってくる事があるのは覚えておくように。善い行いには良いことが。悪い行いにはそれ相応の罰があるよ』と。



全員泣きながら帰りました。


その後、お通夜にクラス全員が参列しました。



あとから聞いた話ですが

当時、NTT株で大儲けした親戚に次も儲かる!と全財産+銀行からも借りて投資したのが、大暴落し、お商売をしていたミナミちゃんのお父様はそれを苦に……ということでした。

何故かはわからないですが、ご遺体は人差し指がなくなっていたそうです。

なので他殺の可能性もある、と検死に時間が掛かったのだと風のうわさで聞きました。


そして

ノリカのお父様が、鉄を使う工場を持っていたのですが、買ったばかりの機械が誤作動を起こし、両手が無くなってしまった事故が起こり、色々重なり倒産。


ミナミちゃんはお母様の親類のいる土地へと転校していき、ノリカはお父様の実家のある土地へと転校していきました。


どこまでが原因なのかもわかりませんが…

もしかするとどこにも因果関係はないのかもしれませんが

…。

とても心に残っている事件です。




どっとはらい

ゾッとしたら、背後に向けて塩を肩から撒いてくださいね



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ