19.今日だけは言って欲しくなかった告白。
2年の交換留学期間が終わり、私は明日から白川愛との決戦場とも言えるライ国のアカデミーに赴くことになった。
ルイ王国のアカデミーで過ごした2年間は、近くにララアがいて味方が1人いるだけで世界はこんなにも違うのかと思えた。
「イザベラ、ルイ国にはライ国にはない海があるのですよ。あなたを連れて行きたいのですが、よろしいですか?」
いつもの自信に溢れるサイラス様とは違い、少し不安そうな感じがした。
私は結局言葉で彼に想いを伝えることはなかった。
察しの良い彼のことだから私の気持ちには最初から気がついている。
そして、私の「好き」という言葉だけを待ち侘びていることは知っていた。
「海をサイラス様と2人で見たいです。実は前世で、唯一日帰りですが旅行したのが海です。貧乏で忙しい両親にどこにも連れて行ってもらえない私と弟を憐れんだ近所のおじさんが連れて行ってくれたのです。」
私は前世の遠い日の記憶を思い出しながら話した。
「近所のおじさんに嫉妬します。イザベラ、あなたの初めては全て私が奪いたいのです。あなたを求めるあまり、周りが見えなくなった4年間でした。でも、これほどまでに周りを見えなくしてくれたイザベラに感謝します。イザベラが私の前に現れて以来、私はずっと幸せで胸が高鳴っています。」
サイラス様の言葉に私はいつだって胸がときめく。
「海が綺麗ですね。波の音は優しいサイラス様の声を思い出します。私、今日という日を忘れません。海の青を思い出す度にサイラス様の瞳の色を思い出します。あなたが好きです。愛しています。たとえ一緒になれなくて他の人と過ごす未来しかなくても、あなただけを思っています。」
今日はサイラス様と私のお別れの日だった。
私は彼が言って欲しくてたまらなく、今日だけは言って欲しくなかっただろう告白をした。
やはりルブリス王子との婚約破棄は難しく、私にはルブリス王子と結婚をする未来しかない。
「私はまだ諦めていませんよ。こんなにも勇気を出してくれたイザベラの告白を聞いて諦められる訳がありません。」
サイラス様はそう言うと、私に口づけをした。
この瞬間を私は2度と忘れることがないだろう。
「綾、久しぶりね。また、会えるのを楽しみにしてたわ。今、私とルブリス王子殿下はラブラブなの。いつだって私が主役でごめんなさいね。でも、キモいあんたには悪役令嬢がお似合いよ。」
私が最終学年でライ国にあるアカデミーにくるなり接触してきた、白川愛が憑依したフローラの言葉に震えがとまらなくなる。
何か言い返そうと思っても、周りの人間が遠巻きで私を見ていて悪口を言っているのかと思うと怖くて言葉が出てこない。
「ルブリス王子があんたのこと物言わぬ人形だと言ってたわ。その通りね、人形というか汚物だけど。」
そう言い残して去っていった、フローラの後ろ姿を見つめることしかできない。
結局、私は何も変わっていないのかもしれない。
ルイ王国では、サイラス様をはじめララアにも、ライアン王子にも守られてきた。
でも一人では結局、絶望のまま死んだ綾のように無力なのかもしれない。
私は聞こえてくる周りの声が全て自分を悪く言っている声のように感じて耳を塞いだ。
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