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15/20

15.絶望を知っている私は見捨てられない。

「ララア王女、校長がお呼びなのでこちらまで来てください。」

教師がララアを呼びにくる。


「はい、今、参ります。」

ララアは優雅に微笑むと、私に疲れたら切り上げるように囁いて教師についていった。

ララアと私は一緒に交流会に出てお喋りをしていたが、ララアが呼び出されてしまって私は1人になってしまった。


1人になると、周りに人がたくさんいて怖くなってくる。

私はいつまで前世の中学時代のいじめの記憶に囚われるのだろう。

周りの人がみんな自分の悪口を言っているのではないかと不安になる。

息がしづらくなって、私は交流会の会場を出た。


会場の外に出ると池の近くで揉め事が起きているのが分かった。

揉め事に関わるのは怖くて思わず後退りしてしまう。

「挨拶くらいしなさいよ。全く、貧乏貴族は躾がなっていないわね。」

意地悪そうなその声が白川愛のものと似ていて、貧乏という単語にいじめの記憶が蘇った。



「ほら、私があなたをルイ国の貴族令嬢に相応しいようにしてあげる。ほら、ブス、まずは顔を洗いなさいよ。」

貧乏、ブスという単語に私は虐められていた時がフラッシュバックした。

誰も助けてくれなかったあの日の自分を助けたかったのか、気がつけば揉め事の現場にいた。


「はぁ、はぁ、申し訳ございません。ケーク公爵令嬢。」

池に顔を押し付けられている女の子が詫びているのは、彼女を池に押し付けている相手ではない。

腕を組み周りを彼女を虐めるように誘導している、藍色の髪を縦巻きロールにして豪華なゴールドのドレスを着た女だろう。


「イザベラ・ライトと申します。これが躾ですか、ケーク公爵令嬢。あなた方も今すぐ虐めをやめなさい。」

私は昼間みんなの前で堂々としていたララアの姿を思い出しながら、出来るだけ声を張って注意した。

揉め事に巻き込まれることで、王族の方に迷惑をかけるかもしれないけれど誰にも助けてもらえない絶望を私は知っている。

絶望の中死んだ経験を自分自身がしているのに、彼女を見捨てることはできない。


「ケーク公爵令嬢、どうしたら。」

ケーク公爵令嬢の取り巻きは私の登場に戸惑い、虐めの手を止めた。

私はサイラス様が、人は心の中でどう思っているかは分からないと言ったのを思い出した。

公爵令嬢という権力のある彼女に従ってただけで、本当は取り巻きの子たちもこのような事はしたくてしている訳ではないのかもしれない。


「誰が、躾の手を止めて良いと言ったの?私は次期王妃よ。貴族令嬢に対する監督責任があるの。イザベラ様はライ国の方ですよね。ルイ国のことには首を突っ込まないで頂けると助かります。」

ケーク公爵令嬢が自分を次期王妃と言ったことに、心臓が一瞬止まったような感覚になる。

サイラス様は彼女と婚約する予定があるのだろうか。

彼は王太子になって2年が経つ、4年後には国王陛下になるのだ。

そういう話があってもおかしくない。


「ケーク公爵令嬢が、顔を洗うように言ったのだから早くしなさい。」

ケーク公爵令嬢の取り巻きの子達が、また虐めを開始しようとしたので私は思わず池に顔を押し付けられている子を抱きしめた。

「では、お手本を見せてください。ケーク公爵令嬢、まず上に立つ者として池での顔の洗い方を見せてください。ライ国では池で顔を洗う習慣がありません。私は池で顔を洗うのはアライグマだけだと思っていました。ルイ国の特殊な習慣を是非とも次期王妃であるあなたが、ライ国の次期王妃になる私に見せて頂けませんでしょうか。」

私は自分が今、ライ国のルブリス王子殿下の婚約者でライ国の次期王妃という立場だということを思い出した。

本当は絶対に使いたくないルブリス王子の婚約者としての権力だが、権力を盾にしてくる相手には一番効く言葉だろう。


「ケーク公爵令嬢、あなたは兄上の婚約者候補でしたが失格です。友好国のライ国の次期王妃であるイザベラ様の今の態勢を見てください。何があったのか、ドレスの裾を濡らして跪いておられます。何の権利があって、そのような彼女をあなたは高いところから見下しているのですか。他の貴族令嬢達も一緒です。今回の一件はご自分達の家門にとって、大きなマイナスがつくことを肝に銘じてください。」

王宮で聞き慣れた声がして、振り向くと月の下輝く銀髪に青い瞳をしたライアン王子が立っていた。


「あの、ライアン王子殿下、違うのです、話を聞いてください。」

ケーク公爵令嬢は真っ青になりライアン王子に弁明をしようとしているが、彼は伸びてきた彼女の手を振り払った。


「これから国賓とも言えるイザベラ・ライト公爵令嬢に、我が国の愚かな貴族令嬢達の愚行を詫びなければなりません。あなた方は非常に邪魔になっております。皆様即刻立ち去ってください。」

ライアン王子殿下の強い言葉に、すすり泣きながら貴族令嬢たちが去っていく。


「ミーア・リンドと申します。イザベラ様ありがとうございました。」

私を震える手で掴みながら、小声で絞り出すように言ってきた顔を濡らしたミーア様を見て私は泣きそうになった。





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