表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界の入り口は出口

作者: モーニングあんこ

 

 これは、実際に起きた事である。




 私は、家でワイドショーを観ながら筆ペンでお絵描きをしていた。その頃の私は、筆ペンでヘタなりにも絵を描くのがマイブームで、毎日楽しんでいた。筆ペンは無臭なので、マ○キーのようなシンナー臭はなく、石油ストーブで暖かくなってる部屋でも楽しく過ごせる。

 いつものようにお絵描きをしながら、たまに文字を書いていると、利き手の右手がなにかおかしい。思うように動かしにくい。握りすぎて疲れてるんだなと思い、筆を置き手首を動かそうとする。右手首はダラんと垂れて動かない。自分の意思とは違う動き。自分の手なのに他人のようだ。

 なにかと似てる。長時間正座をして立ちあがろうとしたら足が痺れて別人の足と勘違いしてしまう。そのような感覚だ。右手首はダラんと垂れているが、右腕もおかしいなりにそこそこ動く。

 私の身体に元からこれと言った異常は無くこれまで過ごしてきた。

 それが。


 ひとまず右手と右腕がおかしい。左手で皮膚をつねるも痛みを感じない。左手で叩くもなんか叩いてるなーくらいにしか思わず、痛みを感じない。

 そんな自傷行為をしている私に声をかける母親。ちょっと何言ってるかわからない。なにふざけてんの?ちょっと冗談やめてよね。

 私は何気なしにワイドショーを観た。知らない人と画面上部に書かれた文字は見覚えがありそうで無い文字が並ぶ。母にテレビ壊れた?なにこれ?

 多分こんな事を言ったはず。それくらい違和感のある文字と音声。

 気づいた。私の口からヨダレ垂れてる。


 顔の右側がおかしい。後に思い出すのだが、右手右腕に異変が起きていたんだ。ヨダレを垂らすなんて寝てる時くらいなもの。なぜだと自分が怖くなった。

 話の通じない母に、助けを求めた。当然理解されない。というか、母の顔こんなんだっけ?あれ?私はなぜこんなことしてるんだ?

 目の前の空間が歪む。あーなんか昔の特撮で観たようなグニャと曲がるあの感覚だ。あーなんか鼻がツンとする。やだ、気持ち悪い。子供の頃にシンナーを誤吸引してしまったあの時に見えた景色に見えてきた。赤から紫に変わりグニャグニャとまわりだす。チカチカする。ラリってるのか?

 混乱しながらも今の自分をいつもの俯瞰ふかんで見てみると何か異常をきたしてる。だがそれは経験した事のないこと。パニックになれば危険だとだけはわかる。

 利き手ではない左手に筆ペンを持ち替え慣れない左手で文字を書く。自分の知ってる文字で事情を伝える。しかし、自分の書いてる文字さえ理解できない。頭の中にある文字と明らかに違う。しかし、母親と思われし顔の人は、文字を理解し同じリビングにいる父親。父親と思われし男性に話す。2人とも私になにかを語りかけてくるのだが、言葉が分からない。日本語ではなく英語や韓国語などでもない記憶に無い言葉で私に何かを呼びかける。つい私は「ふざけんな」と口にするのだが、顔の右側が崩れてて自分の耳に返ってくる声が「ふけんだ」と聞こえる。この時に自分も異常なのだと理解した。


 とりあえず立ちあがろうとした。


 わかるだろ?顔の右側と右手右腕が自分じゃないんだ。右足も当然動かない。思いとは裏腹に、そのまま倒れた。


 記憶は途切れ途切れだが、白い服を着た人たちにカタイ板のようなモノに乗せられ家から出た。


 揺れ。横に揺れてるのはわかった。目を開くと白い天井。何かの音。


 眩しい。右眼に強い灯り。


 寒い。すごく寒い。特に股間が寒い。手足は動かせない。私は今どこでなにをしているのだ。目を開いて状況確認するも白い天井。またか。誰もいない。静かだ。ひとまず寒いのを誰かに伝えたい。そうだ。誰もいないんだ。首を動かして状況把握しようとするも頭も動かせないらしい。こう言う時はもがいても無駄。ならば寝て待とう。目をつむる。


 なにやら揺れてるな。またか。この揺れは地震の類では無い。手足はどうやら拘束されているようだ。頭は恐らく動かないようにされている。そんな中、何かの中に入れられる。あー。こりゃもうダメだ。私はここで死ぬんだ。輪切りにされるのかな。こんなことなら、目が覚めなきゃいいのに。サディスティックだな。


 ブン。ブブブ。カン。カンカンカン。キィーー。カンカンカン。ブン。


 なんの音だ?私をどうするのだ?頭の中はなんとも言えない音に支配されていく。考えるのも煩わしいほどに。

 目を開くと暗いが所々明るく見える。狭いところに入れられ監禁されなにかの工事中なのか、とにかくうるさい。抵抗する事さえ出来ない。ならば寝よう。股間が気持ち悪いけど。


 途中なにか揺れた気がするが、よく分からない。目を開く。左眼はしっかりしているが、右眼はなんかよくわからない。目をしっかりと開いたことでわかった。

 白い服を着た男女がいる。それらはコチラを見ていたり何かを呼び合っている。なんなのだろうか。話してる言葉がわからない。所々聞き覚えはあるが。幸い私は輪切りにはされなかったようだ。では、何のために。


 目を開く。白い天井。まだか。だがクビは少し動く。そろっと動かすと点滴。ゆっくり落ちていく。

 そうか、病院か。


 なんか知らんが助かったようだ。点滴なら良かった。暖かく布団。股間も寒く無い。

 周りをもっと見たい。首を大きく動かした。


 キン


 頭に響く音と頭が痛さが同時に。


 気づくと右手以外は拘束が解かれていた。なんだったんだあの音と痛みは。とりあえず起きあがろう。左腕を使いながら起き上がる。頭はクラクラする。右手は拘束されたままだが、問題なく起き上がれた。部屋はカーテンで仕切られているようだ。そのためか僅かに光がかげっている。

 多分病院だ。私は何度も病院に運ばれているからきっと今回も同じだ。ベッドが狭い。これは、病室ではなく処置室か?点滴はまだ半分ある。まだ帰れそうに無い。しかし、私は一体なにがあったのか。今までこんなことはなかった。

 知らない世界に行ってしまったようなあの感覚。なんだったのか。ベッドから降りて歩きたい。ベッドから降りようと身体の向きを変えてると分かった。右足が思うように動かない。ダメだ諦めよう。病院ならナースコールがあるはず。探すが無い。そうだ。処置室には無い。ならば。


 「すみませーん」


 耳に返る声は私の知らない声だ。聞き覚えの無い声。人が駆け寄る音がする。カーテンが開いた。

 多分女性。看護師さんだろう。私の顔を見るなりカーテンの向こうへ行く。しばらくすると足音が増える。男性医師と思われる。私に話しかける。男性医師は話が通じる。

 「あなたは私の言葉がわかるんですか?」

 「わかります。少し」

 少し?どう言う意味?

 「私はなぜここにいるんですか?」

 「あなたは倒れた。運ばれてきた。あなたは時々目を覚ます。声を掛けても応えない。機械で調べた。今はその結果待ち」

 なぜカタコト。私はまだ夢の中なのだろうか。


 する事が無いのでベッドに横たわる。

 見覚えの無い女性が入ってきた。看護師ではない。

 「あなたは?」

 なにやら私に声を掛けてくるのだがわからない。自分の耳に戻ってくる声も分からない。分からないと言う顔をしていたのだろう。私の手を握りさする。手の温もりを感じる。悪い手ではないことはわかった。それに応えるように、手を軽く握った。女性は笑顔だ。言葉は通じなくても好意は伝わったようだ。

 知らぬ女性と手を繋ぐというのはどうも。かと言って手を離すのは失礼だ。

 病院で入院した事のある人ならわかると思うが、基本見えるところに文字はない。ベッドの外側に患者の名前などがあるくらい。とりあえず話がしたい。さっき、看護師さんを呼んでいることから、顔は崩れてないのだと認識。

 女性に筆談がしたいと紙とペンを要求。女性は私の言葉は理解できるらしく紙とペンを持ってきてくれた。紙はメモ用紙なので小さい。左手で書くので文字が自然と大きくなる。それでもなんとか筆談の格好くらいはできた。

 女性は、私の頭を撫でる。子供の頃に母親から撫でられたのを思い出す。柔らかく愛情のある撫で方。もしかしたら、母なのか?待て。顔を知らない。分からない。子を持つ母親なのかもしれない。だとしても、他人の頭を撫でるというのは少し失礼では。私は大人なのだぞ。

 とりあえず

 「あなたは?だれ?」

 文字を書いて見せるが読めない。

 「わたしのもじはわかる?」

 首を縦に振る。

 どうも私には文字も話声も理解できないが、相手の女性はわかる。なんなのだ。気持ち悪い。なぜ私は理解出来ないのか。なぜ一方通行なのだ。徐々に苛立いらだつ。


 体が思うように動かない上に慣れない左手での文字を書く行為。だんだんと気持ちが悪くなる。吐き気というかなんというか頭が重いというか。だるさが増してきた。再び布団に入る。結局何も分からずじまいだ。右腕をさする。倒れる前に触った時よりも感覚がある。しかし未だ指が動かない。触ってる感覚がある。つねってみると痛いというほどではないが、皮膚が引っ張られる感覚はある。徐々に回復してきているのだと思うことにした。しかし、未だに私以外の人の言葉が分からない。

 そうしていると先ほどの女性が紙に文字を書いて見せた。


 「蜈キ蜷医縺ゥ縺シ」

 やはりわからない。見覚えのない女性になにかを言われている。わたしをどうしたいのだろうか。顔は、心配そうな顔をしているが、なにをこの人は心配しているのだろうか。


 頭が追い付かない。とりあえず布団に潜り込んで寝てしまおう。起きたら元に戻っているかもしれない。


 あれからどれくらい寝たのか。点滴が新しくなっていた。まだ私は帰れないのか。いい加減飽きたぞ。そもそもなぜ私はこんなところにいるのか。なぜ、病院に来なくてはいけなかったのか。ただの痺れくらいで。そりゃ倒れる前なにかおかしかったけど。倒れたけど。でも、病院でいつまでも寝てるのも辛い。なにがあったのかくらい教えてくれても良いだろうに。もう帰りたい。こんなところにいたくない。


 たまたま見に来た医師と目が合った。


 「ろうぐぁえじでがれ」


 自分の耳に帰ってきた言葉とは違う言葉だった。やっぱりダメだ。変わって無い。でも、なんとか言いたいことが分かるくらいにはなった。『もう帰してくれ』と言ったつもりも返ってくる声がダラしない感じではあるがおおよそのことは自分でも理解できた。なんというか、歯医者で麻酔がかかっているときのような感覚。口にも違和感があった。

 驚いた。少しも良くなって無いじゃないか。左手で顔を触る。べちゃっとした。口が閉まって無い。なんだ。なにがあったんだ。気持ち悪い。誰だお前は。私は何を。わたしはなにを。わたしは。

 戸惑う自分を見下ろす男性医師。指で目を開かせようとする。触らないで。気持ち悪い。首を振って対抗する。医師はなにかを話すがやはり何を言っているのかまったくわからない。さっきまでカタコトで話してたのになぜだ。

 医師と看護師は私を再び拘束した。私が暴れると思ったのだろう。看護師がさっき私の手を握っていた女性を呼び戻した。私はなにをされるのだろう。身体は拘束され口もきけない。女性は私に向って何かを呼び掛けている。顔には涙が見えた。なぜ泣いているのだろう。だが、何を話しているのか聞き覚えの無い言葉。ひたすら気持ちが悪い。気になる涙。なんのための涙なのだろう。

 看護師がたくさん来た。私は何かに乗せられ処置室を出た。ガラガラと音を立てて移動する。なんなのか。ひんやりとしている。布団がかかっていても顔は寒い。もうこの状態では何もできない。どうにでもしてくれ。投げやりにもなるさ。


 エレベーターだろう。どこへ運ぶのか。

 だんだんと分かって来た。これは、病室に行くんだな。きっと。


 そうか。このまま入院するんだな。私は当分家には帰れないのか。そうだよな。まだ歩けそうにない。言葉もわからない。何をしたら良いのかわからない。だったら病院で大人しくするしかないな。もう、何かを求めるのは辞めよう。期待してもシンドイ。言葉も文字もわからない。

 こんな口では、食事もダメだろう。何一つ楽しみの無い入院生活か。なんで生きているのだろう。この苦痛にあとどれだけ付き合えばよいのか。苦しいな。


 部屋は暖かい。しかし、音も声もしない寂しい。もしかして個室なのか?個室に入れるような金は無いぞ。ナースコールを使おうと左腕を伸ばし探すが見つからない。部屋は真っ白。窓があっても良いだろうに、窓が見えない。カーテンがかかっているのか?今時の病室は、白ではなくクリーム色でどこか柔らかさを感じる色合いなのだが、驚きの白さに気分が悪くなる。見続けたら気分が悪くなると思い目を瞑ることにした。


 時々、看護師と思われし人たちが点滴の様子を見に来る。その都度、声を掛けるのだが返答はなく様子だけを見るだけ。そういえば、トイレに行ってないな。ここにきてどれだけの時間が経ったか分からないが少しは行きたくなるだろうに。左手で股間を触る。管だ。管が繋がっていた。


 それから何時間たっただろうか。目を覚ますと、男性医師のような男がいる。再び話しかける。


 「私の言葉が分かりますか?」

 自分の声がキレイに聞こえた。あーいつも通りだ。さて、医師とやらは私の言葉が通じるのか?

 「気が付きましたか。良かった。これまで何度も声をかけてきてますが、あなたは返事が無くずっと眠り続けていた。気分はいかがですか?」

 「待ってくれ。おかしいじゃないか。私は何度もあなた方に話しかけている。唯一話が通じたのは、あなただけだ。それもカタコトで話してたじゃないか。それがなぜ今普通に話せているんだ?」

 「そうですか。うーん。それは本当に私でしたか?」

 「そうですよ。顔も同じです。接続詞の無い言葉で私と会話をしました。でも、会話ができたのはあなただけですよ。それが不思議なんです。なぜでしょう」

 「んー。私はさっき病院に来てすぐにあなたのところに来たのです。なので、あなたとは会話をすることはあり得ないんですよ」

 「はぁ。まぁ良いです。このやりとりをしていても話は進まないので。ええ。ようやく話せるようになりましたし、気分は決して良くはありませんがいくらか楽になりました。私は何度か目を覚まし看護師さんたちに話しかけてます。その間に、私の知らない女性と会話を使用としましたが、会話は出来ませんでした。なぜかその女性は涙を流してました。誰なのでしょう。左手でメモ帳に書いて話をしたのですが、上手く伝わらずイライラしたものです」

 「ほぅ。なるほど。では、あんこさんは誰かと話をしたのですね。ふむ。そのメモ帳はありますか?」

 周りの看護師と思われし人たちは、首を振り分からないというジェスチャーをする。私に目を向けて来るも私自身も握っているわけもなくわからない。でも左手で書いたという記憶はある。頭を撫でられた記憶もある。女性の涙はなんだったのか。


 今こうして話すことが流暢に出来るようになった。あの処置室に居た時はカタコトの医師と言葉の通じない看護師と女性。今のこの部屋では、医師と話せている。看護師らも何人かは見たことのある人もいる。さっきの女性は居ないが。なんなのか。


 混乱する私を見て医師と思われし男は。

 「あんこさん。お疲れでしょう。点滴が終わる頃にまたお声をおかけします。しばらくゆっくりしてください」

 っていうか。私あんこなんだ。ソッチの方が驚きだ。そんな名前じゃなかった。私は一体。一体なんなのだ。誰なのだ。私は。


 再度、医師と思われし男が顔を覗き込む。

 「あんこさん。今日の点滴はひとまず終わりです。右腕を曲げても大丈夫ですよ。曲げれますか?動かせるかどうか動かしてみてください」

 言われるがままに、右腕を動かそうとすると動くし曲がる。グーパーグーパー指を曲げる。問題なく動く。右足も動かそうとすると動く。右足の指も良く動く。

 体を起こそうとすると。

 「あんこさん。いきなり体を起こすのは危険です。まだ右腕や右足を動かすくらいでお願いします。色々試したいとは思うでしょうが、危険ですのでひとまずしばらく安静でお願いします」

 ガッカリした。でも自分の記憶にある私は、あの処置室で起き上がっている。その時は疲れやすかったがどうにか起き上がることが出来た。なんなのだろう。

 「あんこさん。まだ食事はできませんが、明日朝また様子を見てそれから判断しましょう。寝てばかりで苦しいとは思いますが、まだしばらくは横になっていてくださいね」

 では。と手を挙げ退室していく。


 病名を聞くのを忘れた。なんかモヤモヤするけどすることもない。とりあえず寝よう。もう眠くないけど、寝る以外にすることがない。部屋を動かせる範囲で見たが、白い部屋と言うこと以外はパッとしない。私は一体誰なのだろうか。あんこって。誰なんだ。私の名前は、杏子きょうこだ。確かに、杏子の杏はあんと読めるが。実はまだ私は夢の中なのだろうか。ようやく話のできる人物と出会えたというのに。

 することが無いので寝ることにした。


 -朝-

 朝と思われる。窓もなく電気の灯しかないが、きっと朝なのだろう。気を強く持ち続けたい。なので、今を朝だと思うことにした。

 目を開けて特にすることが無いが、とりあえず頭の中を整理するために独り言を言いながら整理する。

 「わたしは杏子。ここではあんこ。どこでそう呼ぶようになったのか。この部屋には、ナースコールが無い。どうやって呼べばよい?あの男はまた来るのか?わたしはここで何をしていればよい。あの日のことを思い出そう。筆ペンでお絵描きをしていて、テレビはワイドショーが流れていた。部屋には父と母がいて、母となにかを話したが通じなかった。右腕・右足が痺れ、口からヨダレが出ていた。たぶん倒れた。きづいたらどこかに運ばれたぶんこの病院に来たのだろう。まて、本当にここは病院なのか?病院で窓の無い部屋なんて存在するのか?存在するとしたら。ドラマで見たのだと、この部屋は。集中治療室なのか?」


 私の独り言を見ていたのか聞いていたのかわからないが、部屋に入って来たのは医師と思われし男と看護師と思われし女が2人。男は私に話しかける。

 「いかがですか?声がしたので来ました。誰かと話していたんですか?」

 「見ていたんじゃないんですか?私は自分自身に話して頭を整理していました」

 「そうですか。では少し体を見させていただきます」

 そう言うと目や胸を見る。血圧なども計る。よくある病院側の簡素な調べをした。

 「だいぶ良くなりましたね。この調子で行けば退院も近いうちに出来ますよ」

 「聞きたいことがあります。私の病気はなんですか?」

 「脳梗塞で良いと思います」

 「脳梗塞!?ではなぜ私はこうしていられるんですか?」

 「回復が早い場合があります。早い人は2時間くらいで回復する場合があります。あんこさんは、その早い部類にいたようですね。ラッキーでしたよ。半身不随になる人もいますし、亡くなる方も多くいらっしゃいます。早い回復ではありますが、ひとまずこのまま入院をしてください」

 「はぁ。そんなことがあるんですか。そうですか。あっ!それともう1つ!」

 「はいどうぞ」

 「なぜ私はここでは『あんこ』と呼ばれているのですか?私の名前は杏子です」

 「えっそうなんですか?ちょっと待ってくださいね」

 そう言うと、看護師と思われし女性と話し合う。1人の女性が退室した。

 「ごめんなさいね。ちょっと確認するので1人退室しました。病院に運ばれた時、杏子さんは持ち物が無くご家族や知人などは無くお一人で運ばれていたのです。救急隊員によると、施設内で倒れていたそうです。それを見た人が連絡をして救急車で運ばれてここに来たと聞いてます。杏子さん。あなたは昨日、メモ帳で会話をしようとしたと話されてましたが、その時に居た人は誰ですか?お知り合いですか?」

 「すみません。情報量が多くてどこから話せばよいのかわかりません。私は、家で倒れたんです。最後に会話を試みたのは母親です。しかし、話は通じませんでした。立ち上がろうとして倒れて今に至ります」

 「そうでしたか。だいぶ記憶に障害があるようですね」

 「その私が倒れていたとされる施設はどこなんですか?」

 男は口ごもる。

 「大変言いにくいのですが。葬儀場にある火葬場だと聞いてます。杏子さん。あなたはそこで何かしていたという記憶はありますか?」

 「全くありません。そのような場所に行くようなことは私には有りませんから。そうだ。携帯電話や財布はありませんか?」

 「ええ。あなたのことが分かるモノは何一つないのです。どうやって私の名前を『あんこ』と呼ぶことにしたのですか?日本では、名前が分からず仮名で呼ぶにしてもそのようなふざけた名前で呼ぶことはありませんよね。どういうつもりなんですか?それも私のあだ名で呼ぶなんて」

 男は驚いた顔しながら看護師と思われし女性に話の内容を記録させている。

 「失礼ですが、ここは『ニホン』ではありません。それは国名ですか?だとしたらそのような国名ではありません。意思疎通がまだ不安定なので今はこの辺で」

 「ちょっと待って!まだ終わらせないで。分からないことばかりで混乱はしてるけど、こんなモヤモヤした状態じゃ眠ることも出来ないよ!」

 「そうですか。しかし、話が食い違うままどこから話してよいか分かりませんのでもうしわけありませんが、この辺で一旦終わりにしましょう」

 そう言うと部屋から全員出て行く。相変わらず起き上がることも出来ず、わたしの記憶に無いことばかり話されて胸が苦しい。涙が溢れてしまい視野が歪む。


 いつの間にか寝ていたようだ。夢らしい夢も見ずに目を覚ます。さっきの会話はなんだったのか。とぼんやり白い天井を見る。私は一体何があったのか。なぜ火葬場。必ず持ち歩く携帯電話も財布も無いのか。それなのに、私のあだ名を知っているのか。この国は『ニホン』ではないとはどういうことなのか。分からないことばかり。でも、病名は『脳梗塞』だという。


 後に調べると『脳梗塞』であることに間違いないようだ。一時的な脳梗塞というのはあるらしい。


 何もかもが気持ち悪い。私はここに居て良いのだろうか。言葉は通じるのに。恐ろしい。震える。

 

 そうだ。事実を解明するためにも日付を知ろう。あれから何日経過したか分からないが、倒れたあの日は。確か、平成17年の2月18日の金曜日だ。時間は、ワイドショーだから14時くらいか。ヨシ。いや待て。あの男は、『ニホン』という国では無いと言った。ということは平成ではないということか。西暦なら世界共通だ。西暦だと。うーん。2005年だ。あの時ワイドショーはニッポン放送買収問題が賑わっていた。2005年2月18日の金曜日に私は倒れたんだ。ヨシ。これで質問してみよう。

 いくら待っても来ない。腕を振って見たが反応はない。モニターしてないのか?さっきは、独り言を言っていたら来たんだったんだ。じゃあ会話をするように独り言をやってみよう。


 「私は杏子と言います。あなたは?」

 「そう。ねぇ、あなたはここで何をしているの?私の話し相手になってくれないかしら」

 「ありがとう。ずっとここで寝てるからつまらないのよ。外の景色も見えないし。そもそも私の知ってる世界じゃないのかもしれない。でも言葉は通じるのよ。おかしいわよね。あなたともこうして話せてるなんてね。日本語って特殊なのよ?不思議よね」

 「特殊じゃないですって?そんなこと無いわ。日本語で話せるのは日本人だけよ?」

 「え?そうなの?世界共通語なの?そんなことあるのかしら」


 そうしていると、医師と思われし男と看護師と思われし女たちが入って来た。人はさっきより多い。

 「あんこさん。お話の途中すみません。私も交えていただけますか?」

 「交えるも何も私とあなたたちだけよ」

 「でも今さっき誰かと話されてましたよね?」

 「ええ。ただの独り芝居よ。だって、あなたたちを呼ぶ方法が見つからないんですもの」

 「ははは。そうでしたか。あんこさんには見える誰かがいるのかと思いましたよ」

 「ねぇ。聞きたいことがあるの。今日は何年何月の何日なの?出来れば曜日も知りたいわ」

 「あーそういうことでしたか。今日は、3851年15月3日ですよ。曜日とはどういう意味でしょう。よくわかりませんが、なにかを現すのでしょうね」

 なんかふざけたこと言いだしたなと思ったけど、考えてみたら最初からふざけてた。しかし、かなり未来に来てしまった。1800年も先って。私たちが思い描く未来図って、もっと奇想天外な世界で今と少しも似ていないと思ってたけど、案外変わって無いのね。はぁ。すごく疲れた。もう話も通じないし。なんなの?15月なんて数字。もうわからないよ。でもまぁ聞いてみようかな。

 「んん。あのね。変なことを聞いてると思うかもしれないけど、良かったら教えてくれないかしら。2000年のスポーツの祭典で最も輝いたのはどこの国?」

 「ずいぶん昔ですね。2000年というとまだ日本という国があったそうですね。当然その頃の事はアーカイブとして残っているかと思いますが、今すぐにわかることではないので、あとで答えても良いでしょうか。さすがにその時代を生きてはいないので。すぐに答えられません」

 そうだった。普通に考えたら平安時代の細かい年代を聞かれて答えられないよね。年表に出て来るようなことだったら答えられるかもしれないけど。咄嗟に言われて答えるって難易度高すぎよね。ムキになってた。恥ずかしい。

 赤面してると医師たちは部屋を出て行く。

 またしても何も情報を得られなかった。3851年とかどうでもいい。未来すぎて話にならない。あーなにやってんだ。私は。とりあえず布団に入り寝る。


 地震か!?なんだこの揺れは!気が付いてから今までこんな大きな揺れは経験してないぞ。反射的に、身体を起こしてしまう。僅かに頭がクラっとしたが、目に見える風景に驚く。その間も大きく揺れている。さっきから何度も見ている天井は、崩れさえしなければ頭に落ちてくることはないほどなにもない。出来る限り周りを見渡した。


 真正面に見えたのは、大きなガラス窓。その窓の向こうは外ではなくモニターが多数見える。人の姿は見えず、数多くのモニターが見えた。なにをするためのモニターなのか。首を左右に振り見渡すと四隅にカメラが設置されている。そのカメラは、私がよく利用するコンビニで見かけるようなカメラだ。1800年後でもこのカメラは存在するのか。思ったほど進化して無いのだな。揺れは続くが、思いのほか冷静でいられる。壁の模様は、白を基調としたタイルのような線が見える。繋目というか。とにかく不思議な感覚。このカメラで、私を監視していたのか。しかし、カメラ4台も必要なのだろうか。私1人に対して。気持ちの悪さは、大きな揺れでかき消されて行く。しばらくすると揺れが収まる。体感にして大体2分くらいか。長かった。高い建物なのだろうか。


 部屋に男が3人と女が1人入って来た。

 「あー助けに来てくれたんだね。大丈夫。私はこの通り怪我してないよ。さっきの揺れは何だったんだい?」

 さっき話した男が口にした。

 「無事でしたか。まぁここに居ればあなたは安全ではあります。しかし、起き上がってしまいましたか。頭の具合はいかがですか?気分が悪くはありませんか?」

 「ええ。なんともありませんよ。それよりさっきの揺れは」

 と言いかけると

 「無事なら良いのです。では、ここから出ますので横になってください。あとアイマスクを着用させてもらいますよ」

 なになに。見られて困るようなことでもあるの?目隠しされる。アナログなアイマスクだ。考えてみたら点滴もアナログだったな。ここにきてデジタルなんてものはまだ見てないな。そうこうしてるうちに部屋を出て行く。私は寝たまま。ガラガラと音が響く。どこへ行くのだろう。布団の中とは言え肌寒い。そうかこの時代でも冬なんだな。15月っていつなんだよって思ったけど冬なんだな。そうか。どこか安心した気がした。

 何かに乗せられた。エレベーターとかの部類じゃない。これは、クルマか?救急車かなにかなのか?音と感覚しかわからない。音の響きからして地下駐車場のような場所なのか?やたらと響く。私はなにか夢でも見てるのか。3800年ってなんだろ。時代がほとんど変わって無いとかもう。寝ぼけてるとしか思えないよ。病名だって、脳梗塞というし。


 どうやらクルマのようだ。エンジン音はしないが、タイヤの音の溝から発生する音はする。エンジン音が無い分タイヤの走行音が余計に響く。それに誰も話そうとしない。どことなく人の気配はあるから私一人では無いのは確かだ。しかしいつまでアイマスク着用してなきゃいけないんだ。少しイライラしてきた。

 「あのさ。いつまでこの状態でいさせる気?せめて、アイマスクくらい取ってよ」

 ガタっと音がした。なんだろうね。

 「イイカラネテロ。オマエガシルヒツヨウハナイ」

 カタコトでそれでいて棒読みだ。なんだこの気色悪さは。それも命令口調とは。


 それはそれで、気持ちの悪さと恐ろしさが相まって言うとおりに従った。

 棒読みで命令口調もうこのまま死なせて欲しい。どうせもう前の生活には戻れないんだから。

 どうやら到着したようだ。私はこの先何をされるのだろう。もう誰にも会えないのだろうか。


 「ツイタ。オリロ。イツマデネテルオキロ」

 なんなのよ。せめて目隠しくらい取ってよね。言葉にしたら何されるかわからない。渋々従う。

 「アイマスクハマダトレナイ。リョウワキでササエルカラアルケ」

 私の両脇に人がいる。支えてくれてるのか。右側は筋肉質で男性かな。左側は少し細身なのか脇腹に腕が当たりホネばっている。男性二人に腕を組まれて歩くってお姫様じゃあるまいし。

 「アルケ。モットハヤクアルケ」

 目が見えないのに早く歩けと言われてもね。怖いじゃない。バカなの?人の気も知らないで。

 「ツイタゾ。テスリニソッテアルイテイケ。モウコッチニハクルナ。コノサキデオマエハメガサメル。ダカラアイマスクハソノママツケテイロ」

 あらあら。ずいぶんとお喋りじゃない?変な人たちね。こっちに来るなって言われても前に進むしかないんだから言われたとおりに進みますよ。あーでも目隠しされたまま歩くのって怖い。手足が震える。怖いわ。

 ん?風がなんか違う。物凄く強い風が吹いている。手すりに掴まって無いと飛ばされそうだ。

 「ねー!さっきの人たちさ!手すりが終わりなんだけど!目隠しとってもいい!?」

 大声で叫ぶ。すると

 「静かにしろ!なんだお前は!奇妙な恰好して」

 ん?男の声だ。おじさんのような声。奇妙?そうか、アイマスクのことか。

 「アイマスク取るぞ。いいな。取るぞ」

 目の前が明るく眩しい。目がくらむ。しばらくすると目が慣れる。私の前にはおじさんが2人。私を覗き込む。

 「えっと。ここは。ここはドコですか?」

 「は?ドコだって?通天閣だよ。お前どうやってここに入った!」

 「へ?通天閣?大阪?っていうか風強い!」

 「動くな!動いたら落ちるぞ!いいか。落ち着け。落ち着いて座れ」

 「ちょっと待って。何ここ!怖い!足元が透けてる!怖い!なにここ!!」

 「冷静になれ。いいか。ここは、通天閣の一番上にある天気予報ネオンのとこだ。だから騒ぐな。大人しくしてろ!」

 もう何を言われているのかわからない。分かったのはかなり危険であることと手すりが細すぎて怖いから立っていられないこととしたが透けてるのがとにかく怖い。通天閣なのも分かった。でも怖い。なにここ!これは漏らす。絶対漏らすやつだ。

 「汚ね!っていうかなんだこのチューブは。黄色い汁が出て来るが」

 寒い。怖い。寒い。汚いって言われた。もう帰りたい。ナニココもうヤダ。


 下の方から声がする。怖くて下も見れない。座って丸まるしかない。

 オレンジ色の服を着た人たちが来た。もうなんかわからないけど、言われるがままに身体を拘束されて担架のようなものに乗せられてゆっくりゆっくり降りていく。もう嫌だ。恥ずかしいし寒いし汚いって言われた。寒いし風強いし高いとこにいるし。もう帰りたい。


 下に到着すると救急車に乗せられてまた病院。もうどうとでもなれ。でもあったかい。救急車の中あったかいな。聞き覚えのあるサイレン。今私は大阪市内を走る救急車の中。どうにかなるだろう。


 病院に到着。ストレッチャーで運ばれる。どこの病院かわからないけど、運ばれて行く。救急隊員になにか言われてたような気がしてたけどどうせ言葉通じないし良いわ別に。知らんし。

 病院でも看護師たちになにか話しかけられてるが、今のわたしはどうせ得体のしれない何かなんでしょ。もう話もしたくない。あーでもなっかあったかくてホッとするな。

 そのままCTスキャンに入り調べさせられる。あー、こういう輪切りね。面白いことやるなぁ。

 点滴上手く刺さらんやろ?私の血管細いからな。すぐには見つからんよ。へ?一発?上手いな。

 

 「杏子さん!望月杏子さん!」

 久々の本名に驚く。

 「はっはい!!」

 「杏子さん。ようやく気が付きましたね。ここは病院です。落ち着いてください」

 「あっはい。ちょっとびっくりしました」

 「何があったか分かりませんが、脈も落ち着いて来てます。この後先生来ますので先生と話してください」

 「わかりました。あの!今は何年何月ですか?」

 「へ?えええっと」

 腕時計を見て確認。

 「今日は、平成17年2月22日の火曜日ですよ。時間は、午後の2時13分になったところです」

 「あ。ありがとうございます」

 「先生来はりましたましたわ。望月杏子さん気が付きました」




 医師と話、3851年の15月の世界にいたという話と監禁されていたような環境だったことや病名が『脳梗塞』だったということを話し、大きな揺れで部屋から移動させられて手すりに沿って歩いたら通天閣にいて。救助されて今に至るとこれまでのことを事細かに話した。医師は真面目に聞いてくれた。私の身体にあったチューブは外されており、股間がムズムズする。なんか違和感というか。なんというか。話し終えて思ったのが、なぜ私の本名を知っているのか。望月杏子という名前を知っているのか。

 すると医師は、警察に依頼して失っていた身分証明書を見せてくれた。健康保険証を見せてくれた。そうか。それで。良かった。家族にまた会えるかな。お父さん・お母さん今どうしてるんだろう。

 医師は、両親は今こちらに向かっていると言ってた。今日はひとまず病院のベッドで寝ることになった。翌朝。


-翌朝-


 医師から『一時的な脳梗塞』が見つかったと言われる。脳梗塞が起きてる間、幻想を見ていたり夢と現実が分からなくなることがある。実際に、右半身が痺れて言うことをきかなくなった。しかし、その痺れは数時間で治ったものだと話された。その間に起きていたことはすべて幻想であり夢の中にいたのだと言われた。

 言われてみればそうだ。年代こそ異常なほど未来だったにもかかわらず、現実社会で見慣れた防犯カメラやモニターなどもそうだ。異常な様子は特になかったのも現実社会を知っているからこその知識で幻想を見ていたと言うことになる。では、あの文字や顔がわからないとか会話が成り立たないのはどういうことなのか。

 医師は、文字は脳梗塞になると歪んでいたり見たことの無い文字に見えることがあるという。顔の認識も変わってしまうことはよくあることだと。会話が成り立たないのは夢の中ではよくあることだと言われて、考えてみたらそういう夢もあるよなと思い出す。

 でも、私のあだ名の『あんこ』で呼ばれていたのはなぜ。

 夢の中でも起きようとしていると自分の名前や子供の頃のあだ名を意識的に聞こえてしまうことがある。それが深い眠りから覚めかけていると見がちなのだと。

 整理しよう。私は、長いこと夢を見ていたのか。すべては夢の中で、今は現実に戻ったと言うことだと。通天閣にいたのも事実。でもどうやって通天閣に登ったのか。それに、私は家で倒れたと思っている。なのに、家では無かった。持ち物を失っていてそれが見つかり戻って来た。私はどこで何があって倒れていたのか。そういえば、あの夢?の中で言われた医師風の男は、「葬儀場の火葬場だと」言ってたな。本当にそこに居たのだろうか。


 「私は、元はどこでなにがあったんでしょうか。私の記憶は、自宅のリビングで倒れたと思ってます」

 「まだわかりません。このことは、警察が来ますので警察と話してもらわなければなりません。そこから総合的に杏子さんにお伝えできると思います」

 「ああ。そうですよね。すみません」


 しばらく横になっていると警察手帳を見せられた。本物ってこうなってんだ。と感心していると、質問が始まった。私の名前と年齢・生年月日に住所を聞かれる。どこで倒れたか聞かれて、「自宅のリビング」と話すと刑事たちは目くばせをして再び質問。強い衝撃はあったかと言われて「特には無いけど、身体が痺れて立てなくて倒れた」。その後もいくつか質問されるがどれも意味が分からない。たとえば、妄想癖はありますか?なんて失礼な。「考えるのは好きですよ」と返すと納得したような顔。失礼な人たちね!今までの話に嘘・偽りはありませんか。なんて聞くから「そんなの言うわけないでしょ」ちょっと言葉にトゲがあったかもしれない。30分くらいかな。なんかよくわからない質問を受けた。立ち去ろうとする刑事に聞いた。

 「ちょっと待ってよ。さんざん聞いといてなにも話してくれないの?」

 刑事たちは。

 「詳しくは、医師から聞いてください。この内容は、医師が判断したものを望月さんに伝えてくれることでしょう。私たちは、聞き調べ操作するのが仕事ですので。失礼します」

 刑事たちは部屋を去った。


 またしばらくすると医師がやって来た。

 「望月さん。具合はどうですか?刑事さんたちから質問攻めされて気分が良くなる人はあまりいませんからね」

 「ええ。少し寝たので気分は回復してきてます」

 「切り替えが早いんですね。良いことです」

 「先生。刑事さんたちはなにも教えてくれなかったけど、ここに来たと言うことは何か話せると言うことで良いでしょうか?」

 「お察しの通りです。では、どこからは話しましょうか。ちょっと椅子借りますよ」

 「望月さん。あなたは、出先で暴漢に襲われたそうです。実際身体に傷と打撲があります。暴漢に襲われたことで頭を強く打ち一時的な脳梗塞になったようですね。自然と回復したことで、眠りながらそのことを知れたようです。望月さんが出会った医師のような男は、実際に医師でした。そこでもCTスキャンを受け、脳のMRIを受けたようです。記憶にありませんか?変な音がする機械のような音。あれは、MRI独特の音です。それらを調べていた結果、『脳梗塞』という病名をそこで知った。しかし、望月さんはその病院を抜け出しているんです。自らの足ではなく、男たちに抱えられて。通常では考えられない場所に居たのはわかりますよね。通天閣の天気予報ネオンのところに居たのも男たちに連れてこられたのです。ただどうやってそこへ行けたのかは現在捜査中とのことですが。暴漢は、その後行方不明の望月さんの顔写真を見てあなたを拉致したのでしょう。大きく揺れたと思ったのは、連れ去られてるからであり、目隠しされてると思ったのはあなたに袋をかぶせていたからなんです。それらの物的証拠は次々と見つかっています。近いうちに、暴漢たちは捕まるでしょう。カタコトで話したのは、外国人に見せかけようと下のではないかということのようです。望月さんは、実際に入院していたんです。話していたと思う人たちのほとんどは幻想であり、実在する人物ではなかった。実際に話せたのは、病院の医師だけです。他は夢の中の人々だと推測できます」


 医師は、ゆっくりとだが丁寧に話してくれた。随分と突拍子も無い話ではあったが。そうか。暴漢に襲われていたのか。あのワイドショーや筆ペンでお絵描きは、普段の生活の中にあるいつもの風景だったからそれらを夢の中で見ていたのかもしれない。あの頃は、ニッポン放送買収の話が毎日うるさくて気分悪かったのを思い出した。


 無事に戻れたことでホッとした。通天閣は1回だけ昇ったことあったけど、外は初めてだよ。怖かったな。しばらくは近づけそうにないわ。






 一部フィクションを含みます。ですが、病名は実在します。8割はノンフィクションです。

 お疲れさまでした。

 異世界帰りのモーニングあんこです。時代はかなり前なので、まだ生まれて無い人もいるかもしれません。私の年齢を計算しないでいただけると嬉しく思います。

 私の事なんか書いても面白くないなと思いましたが、2000年代に流行した大型ネット掲示板で異世界に行ってきた。というスレがたくさんありますよね。その共通してるのは、文字が読めそうで読めないとか話が通じないとかでも一部の人なら話が通じるという内容ですよね。それらを後に知るのですが、どうも私の経験とよく似てるなと思ったので、ここで書き始めたこともあるので、バラすわけじゃないですが、伝えて見たいなと思い一部フィクションを混ぜながら創作してみました。

 今も脳梗塞の跡があります。さらにいつでも脳梗塞になれる器があると脳外科医らに脅されてます。その器いりますか?私なら叩き割りたいですね。無用の長物である器なんぞ。

 皆さんも脳梗塞にならないようにご注意しご自愛ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ