五年前のアレ
「あのさ、五年前の事って覚えてるか?」
なんだか目を見て言えなくて視線を下に向けたままボソボソっと言ってみる。
「あっ、うん。あの日の事よね?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今から五年前、小学校五年生になったばかりの頃、クラス替えもあり、顔は見た事があるけど話した事は無いそんなヤツと席が前後になった。
今思うとソイツは二葉の事が好きだったんだと思う。
ちなみに俺はその当時そんな気持ちは知らなかった、気付かなかったという方が正しいのかな。
二葉の事も仲のいい友達くらいにしか思っていなかったのだ。
そんな中、休み時間になるたびに俺の席に来てはキャッキャしていく二葉と俺の関係が気になっていたんだろう。
「お前ら付き合ってるんだろ?」
「好きなんだろ?」
「どういう関係なんだよ。俺にもチャンスあるのか?」
もうソイツとの会話はその事ばかりで正直ウザイヤツという感じだった。
そんなある日の学校帰りに事件は起きた、ソイツがどこからか情報を仕入れてきたらしく、
「お前ら一緒に風呂入ってんだろ?」
ニヤニヤしながら肩を組んでくる。
「なあ、裸見て興奮してんのか?」
相変わらず気持ち悪いニヤニヤ顔にイラッとした俺は、
「そんな事ねぇよ!やめろよ!」
そう言って、組んでいた腕を引き剥がす。
思ってた以上に大きな声が出てしまいキョロキョロ周りを見るが、後ろからくる女子グループとは距離があり聞こえてないみたいでホッとする。
「なぁ田林、お前やっぱり八条の事が好きなんだろ?本当の事教えろよ!好きなんだろ!」
いいかげんうるさいので、ただの幼馴染みだと伝える事にした。
「うるさいな!二葉の事は好きじゃないよ!幼馴染みだよ!」
なんか最後が変になってしまったけど、ちゃんと言ってやったぞ。
胸を張ってドヤ顔になってしまっていたので恥ずかしくなってしまう。
するとソイツは「あわわ、あっ、あっ」と急に挙動不審になり、俺の後ろを指差して青い顔になっている。
なんだ?と振り返ってみると、そこには顔を真っ赤にして静かに涙を流している二葉がいた。
「え?二葉?あの、これはその・・・」
初めて泣いている二葉を見て、心がギュッと絞られるような気持ちになる。
まて、俺は何を言ってた?
好きじゃないよ!そう言ったのか、それを聞いて泣いているのか、泣かせてしまったのか。
そんなつもりじゃなかったんだ。そんなつもりじゃ・・・
二葉の涙が頬を伝いポトリと落ちる。
瞬間、衝撃が走る。
涙が零れるたびドキリとする。涙から目が離せない。
ああ「綺麗だ!」思わず声に出してしまった。
違う!今は謝らなくては・・・
たたたた・・・二葉は走り出して俺の横を目も合わさず通り抜けて帰ってしまった。
その時の横顔もやっぱり綺麗だと思った。
「ああ何かゴメンな」そんな事を言ってソイツもその場から逃げるように走り去っていく。
もうお前の事なんて忘れてたよ。
それからの二葉は、あからさまに俺を避けるようになり謝る機会も無いまま時間だけが過ぎていった。