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ドラキュラの陰謀  作者: 安田座


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七姫が来た

 

「マスター、後方から接近する者がいます。 おそらく騎馬でしょう」

 上空のZ1からの報告だ。

「また、客かよ」

 男がうんざりとした声を漏らした三十秒ほど後、馬車の横に騎馬が並ぶ。

 タイミングを合わせる様に男が振り向こうとした時。

「おい、止まれ」

 馬上の騎士らしき者が男に向かって命令した。

「誰だっけ? 会ったこと……いや、見たことある……よっ?」

 男が騎士の方へ顔を向けながら応じる。

 騎士の剣が首の前で止まっていた。 

「余裕か……そうだったな、貴様は速い」

 第一王妃付、エルフ王の息子だ。

「何か用か? 俺は忙しい」

「貴様と話しをしに来た。エルフ王が何かしかけて来る前に」

「来る前にって、ついさっき来たぞ」

「何?」

「第六王妃をさらって行きやがった」

「なっ……遅かったか……貴様は、何をしていた?」

「俺に責任があるのは認めるよ。 あんなのに勝てる気しないし。

 で、用はそれだけか? 敵と言う事なら応じるが、俺の敵であって第六王妃の敵で無いなら、先に彼女を助けに行ってくれないか?」

「考えを聞こう。 それで判断させてもらう」

「待てよ。 先にそっちの話しとやらを聞かせてくれないか?」

「承知した。

 バンパイア王は来ないと思っていい。

 それから、時の巫女様からの伝言だが『先に神にお会いなさい』とのことだ。

 そして、私個人としては、貴様を連れ戻しにきた」

「斬りかかっておいて?」

「まずは正気か見定めさせてもらった」

 第一王妃付が剣を引くと、男はゆっくりと馬車を止めた。

「エルフ王は操れるもんな、なるほど。

 で、あんた、時の巫女さんとは直接話しているわけでは無いんだよな?」

「そうだ。 第一王妃様のみが居場所をご存じだ。

 だが、この伝言はバンパイア王の従者が第一王妃様に伝えて来た」

「伝言ゲームかよ。 まぁ、笑える変化をする内容でも無いか」

「失礼なやつだな」

「よく言われる。

 で、俺の考えだったか。

 サリリは後回しじゃなくて見殺しにするしかない。

 さっきも言った様にあいつには勝てる気がしない。

 正攻法じゃない策を練るという選択肢もあるが、時間との天秤でそれは選択しない。

 これは判断に影響しないが、彼女も絶対に望まない。

 で、彼女は恐らくテンプルナイツ本拠ってところに居ると思う。

 だから頼む、あんたがなんとかしてくれ」

「テンプルナイツ本拠ヴラド大聖堂か、確かに今はやつに占拠されている。

 私もそこだと思うが、残念ながら私も歯が立たない。我が父ながらあそこまで差が在るとは。

 だが、行こう。 時間稼ぎにはなってみせよう」

「お、会話がかみ合わない奴かと思ったが、以外だ。

 でもな、もう一つ頼みがある。 今は、こっちも大事だと思う」

「なんだ?」

「避難要請をして回ってくれ。

 王様も来ないとなると、俺もどうなるかわからない。

 サリリが居れば、頼めただろうが……」

「その要求も飲もう。

 だから貴様は戻れ。

 唯一の頼みのバンパイア王を押さえられた時点でここまではエルフ王の勝ちだ。

 だが、エルフ王を押さえられる可能性はまだ残っている。その上で可能な限りの人を救おう」

「嫌だね。

 たぶん、あんたが正しい。 そして、神に会うつもりもない。

 だが、俺はなんとかできると思っている。 ちょっと説明し難いが算段はある。

 それに、もともと運のいい奴だけが助かるなんてのは嫌いなんだよ」

「そうか、私には最善と思える道しか進めないが、貴様には他の道があるのだな。

 魔法剣士殿だけで無く、王妃様王女様方が気にかける男、他者の為に進むその覚悟。

 私の浅慮、失礼した。

 避難要請は気にするな、もうすぐ王女様達も来る、もちろんその為にな」

「そうだったのか、というか最初から俺の範疇じゃないしな。

 あと、なんか理解されたみたいでよかった。

 あんた嫌いじゃないぜ、無事に事が終わった際には酒でも飲もう」

「良い未来だ」

「マスター、接近する集団があります」

 Z1が報告を入れる。

「集団が来るらしい」

 男は言葉を変えて伝える。

「王女様達かと」

 第一王妃付が念を押す。


 到着した集団には馬車二台と騎馬が三十騎は居るだろうか。

「ジョニー、久しぶりっ」

 馬車から一番に飛び出て来たのは七姫だ。

「あ、ああ久しぶり」

「何よ、操られて無いもん」

「そか、よかったな」

「こんな時にニコニコするなとか思ってるでしょ」

「いや、元気で良いんじゃないか」

「だって、くよくよしててもしょうがないし」

「ああ、だから、元気で良いなと」


 男が七姫に応じてるうちに第七王女付きセリアンも馬車を降りていた。

「これは頼りになるなぁ」

 男は、視線をセリアンに向けてから護衛達を見回して感想を言う。 あの闘技会予選の二人を御者台に見つけて、いちおう手で合図を送る。

「アーリャンには私が行きます」

 七姫が、自分を主張する様に偉そうに言う。

 男は一瞬、表情に不安の影を見せた。

「大丈夫です。わたくしも一緒に行きますので」

 察してセリアンが補足する。

「ああ、あんたは頼りにしてる」

「どういう意味よ」

 七姫が以前よりも強気に出てくるのは、実は成長したのかもしれない。

「他の王女様方は既に各王国にて動かれています」

 そしてセリアンは話を進める。

「で、お母さまは?」

「ええと、ああもう、隠しててもしょうがないか。

 エルフ王にさらわれた」

「うそ? なんで? あんた、なにやってんのよ」

「さっき、そいつにも言われたよ」

「助けに行くのよね?」

「いや、そいつが行く。

 お前がどれくらい事態を把握してるか知らんが、俺はやるべきことがあるんだよ」

「姫様、今は皆自分の役目を果たしましょう」

 そいつ、第一王妃付がたしなめる。

「わかってる。 でも、お母さま……」

 七姫は両手で顔を覆い震える声でつぶやく。

「気休めかもしれんが、その場で殺さずに連れて行ったんだ、きっと無事だろう」

 自らの意思でフィニの代わりに捕らわれた部分は言わなかった。

「そうですよね? あの賢いお母さまならきっとなんとかされるはず」

「賢いって、子供扱いかよ」

「ええ、怖いけど、見てると可愛いし、ついね。 でも、本人の前では絶対言えないわ」

「確かにな。

 まぁ、いいや、一緒に行こうぜ、七姫様、セリアン」

「行こうっ」

「お供します」

 応える二人を加えてあらためて先を目指す。

 なお、騎馬達の同行は断り第六王妃救出に向かってもらう事となった。



 七姫を加えた後は特にトラブルも無く、アーリャン国に到着した。 途中の国が厳しいからか、この辺りに来ると関所も無い。

 この国はジャングルが多く、奥の方には浅い湖にマングローブの森が広大に広がっている場所がある。 

 そのマングローブには自然にできた水路が網の目の様に存在するが、川とは直接繋がっていないのと、乾季にはほとんど水が無くなるため大きな生き物はいない。

 そこを観光に利用して大きな富を得ていた。だから、東側では二番目に大きな国になっている。

 この国の主な住人は、人間に人気のあるウサギ族だ。

 だからだろうか、国王や役人の大半は人間、東国の出先の様なものだろう。儲かる部分は人間が押さえる構図が見える。

 そんなことよりも、この国では竜を目撃したという噂が多いらしい。


 ロイとミラナは幼少期に来たことがあるらしいが記憶はほとんど残って無いらしい、中央から来た他のメンバーも残念ながらこんな辺境にまで来訪した事はないそうだ。

 だから、まずは手分けして聞き込みを行う事になった。

 男とフィニは役所的な場所を探す。なお、フィニは薬が切れたのか目を覚まし、今は普通に戻っている。

 七姫とセリアンは、適当に街の中をあたってもらう。 七姫には留守番してもらおうとしたが、先に「聞き込みなら任せて」と飛び出していったのだ。セリアンはそれを追いかける。

 なので留守番はロイとミラナに任せる。馬車は、街の入口付近の空地に止めてある。


 男が大き目の通りを選びつつ辺りを見回しながら歩いていると、怒声とともに道の右並びの建物の扉が開いた。 同時にその扉からウサギ族の子供二人が転げながら飛出してきた。 怒声の主だろう人間がそれを追う様に出て来て、すぐに戻った。

 転がって来た二人を男は加速して受け止める。

 二人の介抱をフィニに任せて男は苦情を言うために扉に入る。

 当然の様に口論になって、男は怒りながら出て来た。そして振り返って気付く。

 そこは目的の場所、衛兵の詰所兼観光案内所だった。

 男は、自分の頭を冷やす事も含めて、しかたなく一旦出直すことにした。

 場所は見つかっただけでも、まぁ御の字なのだろう。

 それよりも、子供の方を優先するのだ。

「大丈夫か?」

「ありがとう助かった」

 少し大きい方は男の子でお兄さんだろう。

「ありがとう」

 小声で応える小さい方は女の子で、どちらもうさぎ族だ。

「かすり傷はあるようです」

 フィニが教える。

「大丈夫だよ」

 兄が応える。

「じゃ、妹の方だけ治すか」

 男が、妹の肘に手を当てる。 じわりと回復が始まったところでフィニが手を沿えた。するとみるみる傷が消えた。

「え? あ・・・」

 兄は驚きながらもちょっと何か言いたそうだ。

 そのまま男は手を兄の膝に充てる。フィニの手も追従する。傷はすぐに消えた。

「あんたたち魔法が使えるんだね。 そしてありがとう」

 兄は今度は感心した様だ。

「どういたしましてだ。

 で、事情を聴いてもいいか?」

「兄ちゃん、人間だよな?」

「たぶんちょっと違うかもだが」

「あの、わたしに話を聞かせてくれませんか?」

 フィニがフードを取りながら提案する。

「おぉ、エルフ様だ」

 兄は少し驚き気味だ。

「わぁ、エルフ様、ありがとうございます」

 妹は、嬉しそうにあらためてお礼を付ける。

「この方はわたしの友人です」

「ああ、そういう人間も居るんだ。 知らなかった」

「でも、顔がちょっと崩れてるから、やっぱり人間じゃ無いのかも?」

 幼子の感想はストレートだ。

「まぁ、いいや、じゃ、ちょっとあそこでなんか食いながら話そう。

 もちろん御馳走するから」

 男は、少し先に見えたレストランっぽい建物を指さしながら言う。

「この人が、ご飯を御馳走してくれるから、一緒に行きましょう」

 フィニがうまくフォローする。

「いいのか?」

 兄は慎重、これは妹も一緒だからか、それともそういう環境に居るのか。

「さっきの件以外で、この辺の事とか少し教えて欲しいんだ、俺達来たばっかりで、だから頼めるかな?」

 男が理由を追加する。

「わかった、役に立つかわからないけどな」

「おーけー、じゃ、行こうぜ」

 話が決まり、四人はレストランへ向かった。



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