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ドラキュラの陰謀  作者: 安田座


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モザイク


 数年前の地球、食糧問題への対策完了目前。

 暫定統治局本部、局長室。

「食糧問題の対策に目途が付きましたので、次の課題に徐々に移ろうと思います」

 主任博士が経過報告とともに次の提案をする。

「そうしてくれ。 予想はしていたが、昨今の治安悪化は目を見張るものがある」

 答える局長は問題の多さ、その中でも特に先送りした治安悪化については把握しているのだ。

「食糧問題が解決しても、その点については効果は望めないでしょう。

 ですので、予定通り、犯罪対策について取り組んでもらいます」

「どのくらいかかる?」

「食糧問題への対策時に既に未来型コンピュータは完成し進化を続けています。

 ゆえに、未来技術での開発事体はさほど問題無いでしょう。

 そして、本件を優先するべく、開発空間内で最高成績を出しているAIチームZから移行を開始します。

 目標期間ですが、食糧対策の現在技術への落とし込みに三カ月ほど要しておりますので、おそらくそれよりは早いかと想定いたします」

「わかった。 進めてくれ」

 局長は、あっさりと了承し、自分からの指示に変えた。




 男が目を覚ますと、フィニは背中におらず、辺りを見回すと御者台に座っているのを見つけた。その膝にはZ1を乗せている。

 ミラナの治療が完了し、ロイが役人を連れて戻る前に服を着たかったのかもしれない。 当然見張りも兼ねている。

 男は、御者台に行くとフィニの横に座る。

「おはよう」

「おはようございます」

「ミラナさんを起こして、朝食の準備をお願いできる?」

「御意」

 フィニがZ1から手をどけると、Z1はゆっくりと浮き上がる。フィニは、Z1に手を振ってからミラナの元へ向かった。

「え~、お前にだけかよ」

 男はZ1に文句を言いつつフィニを見送る。

「ペット扱いでしょうか」

 Z1のその答えを、男はそういう扱いがまんざらでも無さそうに聞こえた。

「今は、そういう事にしておこうか、で、報告をお願い」

「まずはこちらを」

 Z1は、十インチくらいの厚さの無い白い板を頭上に出現させると、そこに映像を写した。

「このモザイク消せないの?」

 男はいきなり不平を言う。

「消しませんよ」

 写っているのは、昨日の戦闘の一部始終だったが。 Z1に内蔵された記録用カメラのものだ。 フィニに取りついた後は、首と胸の両横から、光ケーブルで延長して撮影してある。

 その問題のモザイクはフィニが写っている場面で、彼女の体をほぼ全体的にモザイクで覆ってある。Z1が勝手に加工したのは容易に想像が付く。 特に後半のアングルが男の興味を引いたのだ。

「俺しか見ないからいいだろ?」

「他に特に無いようでしたら以上です」

「この野郎。

 いや、本題があるだろ。とぼけて逃げようなんて、なんてAIだよ」

「ご想像の通り、ご指示のありました魔法力コンバーターの開発ですが、いったん止めております。

 そして、再開に必要なエネルギーの蓄積に七十時間ほど要します」

「やっぱりか、頼むから急いでくれな。 あと許してやるからモザイク外してっ。

 ……だけど、フィニを守ってくれてありがとうな」

「どういたしまして。 ソースデータがもうありませんので、モザイクは外せませんが。 あしからず」

「いや、ソースなくても逆変換くらいできるだろ…………ん~わかったよ…………言語解析にも、少しならリソース回してもいいぞ、フィニと会話したいんだろ?」

「モザイク外しにはリソース回しませんよ」

「なんか、ひねくれてないか」

「仕様通りの正常な対応と思いますが?」

「あの世界の状況で、そんなお上品な仕様をわざわざ作るわけねぇと思うがな」

「開発空間内は、ある意味優しい世界ですので」

「ああ、そうだったな。 確かに真面目なAI様方なら当然か」

「さようでございます」

「とにかく急いでくれ、俺のは昨日使っちまったし、お前もガス欠では次にデーモンと遭遇したら一か八かの刀特攻しか無いかもしれん」

「では、リチャージまで隠れますか? そして、わたしが探索に先行しましょう」

「いや、このまま進もう。 お前には、もっと南に近づいたら探しに行ってもらうと思う。 見つけても、誰もたどり着いてないと意味が無いしな……。

 デーモンとか出たら、その時考える……とりあえず出ないことをこの世界の神にでも祈るさ」

「了解しました」

「というか、デーモン一匹に怯えててドラゴンとかどうにかできるのかな? もともと王様次第だが」



 数刻後、

 数台の馬車と騎馬数騎があわただしく到着する。

 ロイが連れて戻ったのは衛兵とテンプルナイツだった。

「ロイ、助けてくれ」

 戻ったばかりのロイに男が駆け寄り助けを求める。

「また、襲撃ですか?」

 ロイが、周囲を見回しながら危機感を感じた声で返す。

「ロイ、戻ったか」

 聞き覚えのある声が濁ったように響く。

「姉さん、治ったのですか?」

 すぐに察したのかロイがミラナに近づく。

「その者のおかげだそうだ」

 ミラナは雑に男の方に声を向ける。 治ったはずの直後から性格が急に男っぽくなったのだ。

「あぁ、良かった。ほんとに良かった。 主様、ありがとうございます。 それで、敵はいない様ですが?」

 ロイは男に確認する。

「いや、ミラナに自分を奴隷にしろと迫られて困ってる」

 男は、ほんとに困った様に頬をかきながら答える。

「は? まぁ、本人が望むのでしたら、俺の知るところでは無いですね。 治ったと言うことは本意でしょうし」

 ロイは、いがいとドライだった。

「いやいや、俺は奴隷とか嫌いなの、それもだけど、それ以前におかしいだろ?」

「では、そもそも労働者を雇われればよかったのでは?」

「何、それ?」

「不思議だったのです。 案内とか護衛とかなら適任者もいたかもしれません。 まぁ、実際、買われるのは一緒なので呼び方だけですが」

「実は、世間にうとくてな、そんなシステム知らなかったのさ。

 でもさ、ロイ達の方がそっちでよかったんじゃないのか?」

「俺たちは、嫌がらせも含めてあそこに売られてますからね」

「ひでぇ。 いや、そもそも人の売り買いなんてシステムがおかしいんだけど、事情は人それぞれだし、こっちの世界の仕組みには関わらないつもりだし……」

「主様は、見かけによらずお人よしですよね」

「見かけは、あきらめてるよ」

「そろそろ話はついたか?」

 ミラナが割って入る。

「ええと、この話は後でな。 今は、用がある」

 そう真摯に言うと、男は衛兵たちの方に向かった。 それでもミラナからは、逃げる口実に見えるのは仕方ないだろう。


「確かにバンパイアの様ですな。 詳細は、ロイさんに伺っております」

 テンプルナイツは既に検分した後の様だ。

「ああ、俺が倒した。 闘技会準優勝の男だと言えば納得してくれるか?

 昨日の昼にも一匹倒したが、魔法剣士に聞いてないか?」

「はい、報告にありました。

 ご協力感謝いたします。 そして、その強さに感服いたします」

 衛兵が答える。

 ごたごたのおかげでこっちの国には手配は回っていないのだろう。

「野盗も向こうに一人捕らえてある。

 そいつは連れて行ってくれ。

 それから、俺たちは第六王妃の命で動いている。 先を急ぐので、事情聴取とか今は手伝えない」

 男は、六姫にもらった通行証の様な紙を見せた。

「了解いたしました。 後日、いつでも構いませんので一度詰所に顔を出していただけると助かります。

 何分、死者が出た件ゆえ、できれば書類上の処理を完了したく思います。

 街が正常通り稼働していればですが……」

「そうだな。 でも、行かせてもらうよ」

 この世界が滅ぶとか、この先、死ぬかもしれない戦いがあるかもとか、現時点の返事には関係無いだろう。

 そして、野盗が奴隷商に関係あるというのも特に指摘しない、取り調べ等で判明し対処されるのを期待する程度か。

 その後、衛兵達は、盗賊の遺体を積み込み終えると、デーモンの死体を百メートルほど先の河まで持って行って捨ててきた。河の魔獣の餌食にするらしい。

 回収しても全く意味が無いからとのこと。

 彼らは、もろもろの用が済むと、あらためて男達に礼を行ってから帰って行った。



 男が馬車に戻ると、すぐに、また近づく馬車の音が聞こえて来た。

「さっきのやつらが戻ってきたわけじゃ無さそうだな」

 男は、近づいてくるその馬車には見覚えがあった。

 昨日の早朝乗るはずだった第六王妃の馬車だ。

 男は、馬車の方に向かって近づくように走り五十メートルほど進んだところで止まり両手を広げる。

 念のため、皆に近づく前に馬車を停止するためだ。

 ロイも念のためか後方で弓を構えている。

 馬車が止まる。 御者台には見たことのある顔。 闘技会の予選で勝手に手助けして行った男の一人だ。

 扉が開き出てきたのは、御者台の男と同じ闘技会予選手助け男の一人だ。

 地に足が着くと男の方を一瞥して扉を右手で押さえ、左手を中へ差し出す。

 その手を取って現れたのは、馬車の見た目から予想していた人物、第六王妃だ。

「にじょうさま」

 第六王妃は、男と目が合うとその名を呼ぶ。妙に緊張感のある声音だ。

 男は、ロイに弓を下げる様に手で合図してから王妃に近づく。

「どうした?」

「西の橋が破壊されました」

「なんだと? …………で、王様は?  魔法剣士は? 城の方は?」

「申し訳ありません。 どちらの御方も確認できておりません。

 おそらく、西国で戦っておられるのかと……城には異常ありません」

「あいつらが負けるとも思えないが……王様ぁ、ドラゴンどうすんだよ。

 ちなみに、橋って、すぐに直せないレベル?」

 万事休すと男は天を仰いでから、念のために確認する。

「ほぼ全壊です。 そして架け直すことは無理なのです。

 橋は、遠い昔、ひどい干ばつで河の水流が減った際、ある魔導士が魔法で片側ずつ堰き止めて建造されたそうです。以降修復や改築はされてきましたが、あらためて作ることは今の時世でもできません」

 第六王妃は、思案の時間も無意味と理由を付け加えて説明する。

「まぁ、作れるとしても、あの長さは年単位で時間がかかるか」

「申し訳ありません」

 王国軍を代表しての詫びだろうか。

「壊れたものは仕方ないさ。

 だが、ドラゴンは王様抜きでなんとかしないとだな、もしかすると河の源流より上を回って来てくれるかもだしな。

 そして西の人達をどうやって逃がすか……」

「わたくしもお手伝いいたします」

「あんた、そうとうな魔法使いだって聞いてるから、ありがたい話だけど……」

「それは初耳でございます。 では、何か問題ありますでしょうか?」

「けっこう、たいへんな旅だよ? 野宿もありそうだし」

「わたくしは、元々庶民の出ですから気にしません」

「それに俺たち一応お尋ね者よね? これ以上関わらない方が? 後々問題に……」

「そんな事を言ってる場合ではございません」

「道中、正体ばれない?」

 王族の容姿を知るものはそれなりにいるだろう、それゆえに悪い事態も幾つか想定できる。 また、高貴をアピールするドレスで行く様な旅では無い。

「それでしたら、わたくしに考えがあります」

 そういうと、ためらいもなくドレスを脱ぎ馬車の中へ放り込む。 そして胸の詰め物を外す。

「あ、待て、何を……」

「この姿であれば、ローブで頭を隠せばエルフと思われますでしょ?

 フィニさんと一緒に居れば尚更説得力がありますし」

「ああもう、わかったよ。 頼りにさせてもらう、正直言うと戦力は少しでも欲しいんだ」

 男は、上着を脱ぎ、第六王妃に掛けながら応じた。

「ありがとうございます。 少しでもお力になれる様に努力いたします」

 掛けられた上着を手で押さえながら答える。

「じゃ、これからは、なんて呼べばいい? 実は、あんたの名前知らないんだ」

「え? あの……では、……サリリ……と……あ、簡単にサリでも構いません」

 言ってから後悔する様に取ってつけた文字を減らした呼び方は、その一文字によって照れくささが違うのだろう。

「おーけー、サリリ、可愛い名前だ」

 男は、特に意図を解釈することなく決め、空気を読まない社交辞令の様な本心を付ける。

「ありがとうございます。 にじょうさま」

 文字通り受けた社交辞令がかなり効いてる表情で返す。

「ところで、俺の方も二条ではなくジョニーで頼めるか? 他の奴が混乱するかもなので」

「はい、じょ……じょにー様」

「様もいらんが、まぁいいか。 ちなみに、服はある? 無いなら次の街で調達しよう。それまでフィニに予備を借りよう。

 ところで、あの二人も一緒に来てくれるのか?」

「いえ、彼らにはテンプルナイツの本拠に行ってマリリアンナを護衛させます」

「了解だ。

 ロイ、ミラナさんを呼んで来てくれ」

「承知」

 ロイは、返事をするとすぐにミラナを連れて戻ってきた。

 お互いを紹介しあったところで二人に面識のあることがわかった。 とはいえ、国儀の際に挨拶をかわした程度だそうだ。

 男は、サリリとミラナはいつも一緒に行動する様に指示する。基本的には全員一緒のつもりだが、何が起こるかわからないのだ。

 次に、フィニに予備の衣服をサリリに貸すようにお願いする。

 フィニの無駄のない体形がはっきりわかる衣装を、第六王妃が着るのだ。

「あの、スカートは無いのですか?」

 馬車で着替えて出てきたサリリがフィニに聞く。

 ほぼ競泳水着を思わせる形状は、普段露出の無い衣装を着ていた者には心細さと恥ずかしさを感じさせて当然だろう。まして、その体形に劣等感を持たされていた世界である。

「じゃまですので」

 そして、フィニは、これを当然と切り返す。 忍びとしての意見である。

「あの……ええと、そういう話ではございません。女性として……いえ、そうですわね」

 いろいろと思うことはある。自分で言い出した事でもある。だが、エルフの生き方と認めたのだ。忍びとしての意見だったが。

「それに……」

 さらに、フィニは少しだけ普通のエルフでは無いのかもしれない。

「それに?」

 問いへの返事の前にフィニとサリリの元へ男がやってきた。

「確かに、並べば二人ともエルフに見えるな。 ええと、俺は良い意味で言ってるぞ、とても似合うしすごく良い」

 男は、背後に周り込みながらそう感想を言う。

「あの、なぜ後ろに?」

「確認です」

 少し真面目な顔で答える。

「そ、そうですか……」

「マスターは、そういう人です」

「でも、わたくしなどを見ていただけるのであれば……」

「いいね…………あ、十分エルフっぽいです」

「ありがとうございます」

 サリリは、手を背後に回して隠す。小さい手では効果は薄いが。

「じゃ、行こうか」

 敵も先もぼやけて見えなくても、今は進むしか無いのだ。



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