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ドラキュラの陰謀  作者: 安田座


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追い剥ぎ


 男、フィニ、ミラナの三人が解毒の為に眠りに就いてから三十分ほどした頃、見張り兼焚火の番をしているロイが立ち上がる。横に置いてあった弓を背負い、ショートソードを抜き身のまま手にする。

 そしてそのまま、街道の方へ数メートル進んだところで止まる。

「何か、御用でしょうか?」

 ロイが声を掛けたのは、数人の人間の男達。 手にはそれぞれ武器を持っているが特に共通した感じは無い。武器同様に防具もばらばらで、魔法石付きも一人しかいない。 普通の客や軍人系統で無いのはそれだけでも一目で分かる。

「ああ、用がある」

 先頭が答えた。

「聞いておきましょう」

 ロイが応じた。

「荷物と馬車と女をよこせ……ん? ああ、野郎以外全部ってのがわかりやすいな」

「やはりそういう類か、後ろのやつ、奴隷商で見た顔だな。 後をつけて来たのか」

「馬鹿な犬っころかと思ってたが、そのくらいの記憶力はあるんだな」

 名指しされた者が悪態を返す。

「好きに言うといいさ。 俺も馬鹿なのは自覚してる」

「言うじゃねぇか。 お? 向こうの三人は事が済んだ後かよ。しかもお外でとは。 残念、ちょっと遅かったか」

 世界樹の元で眠る三人の姿は距離的には見える。 だが皆肌色に見えたかもしれない。

「お前たちには関係ない」

 ロイは冷静に答えた。

「まぁ、いいさ。 とりあえず犬っころから片付けてやろう……ぜっ」

 先頭の首は、台詞を言い終えるとほぼ同時に体から離れていた。

「野郎っ」

 残った者達が一斉に戦闘態勢に入る。 腕の立ちそうな二人が同時に斬りかかると、他のものは取り囲むように散る。

 ロイは、一人の剣を受け流し、もう一人の腹に蹴りを入れてから、周囲を薙ぐように剣を振る。

 包囲した者達が一歩づつ下がると、先制した二人も加わり包囲網が完成した。 なお、囲むのは十三人。 背後にまだいるかもしれないが、気配は無い。

「手慣れているな。 これまでもそうやって悪事を働いていたのか」

 ロイは睨みを聞かせる。

 その時、ロイの背後の者が倒れた。

 そちらへ全員の視線が向く。

 フィニが短剣を構えて立って居る。 短剣を持ってはいるが、倒れた男は気絶させただけの様だ。

「エル……フっ」

 フィニを見て言葉を発したものがロイに横腹を斬られて倒れる。

 ロイはそのまま、フィニの方へ地面を転がる様に移動し立ち上がりざまに弓を放つ。 一人が眉間を押さえてのけぞる様に倒れた。

「すまない」

 ロイは、フィニにお礼を言いながら、弓で近づこうとする者を威嚇する。

 残り十一人は、少し距離をとって扇状に広がる。

「おいおい、エルフかよ。 よくそんな貧相な体で人前に出られるな。しかも裸でご登場とはどんな嫌がらせだ」

 倒された仲間の事など眼中に無い様に、悪態のみ吐き出す。

「いや、俺がもらうよ。 首をはねてからなら気にならんしそれっぽいだろ」

 へらへらとしながら、一番体の大きい者がフィニにニヤついた視線を向ける。

「あなたたち程度に劣るエルフではありません。あきらめて、帰っていただきます」

 フィニは強気に答える。

 その時、フィニの背中にZ1が張り付いた。 そして、手でも伸ばすように前方に向かって光の帯が伸び、胸を覆い隠すようにしてから白く実体化した。

「え? ぜっと……さん? あ、ありがとうございます」

 フィニは、一瞬驚きの表情を見せてすぐに戻した。

「なんじゃ、そりゃ?」

 賊の一人が疑問符を浮かべる。質問ではない。

「隠したいのはよくわかるぞ、その貧相なおっぱい」

「舐めるくらいはしてみたいのに、隠すなよ」

 周囲からの声には笑いが重なる。 そしてじりじりと包囲が左右から縮まり始めた。

「人間には貴様らの様な下品なやつが多すぎる」

 ロイが、怒りをあらわにする。 獣人のエルフ信仰というより常識人としての台詞だ。

「左から行きます。僕の後方に居てください。 包囲を崩してから……」

 ロイが小声でフィニに作戦を伝える。

「待ってください」

 フィニは、それを途中で遮る。

「どうしました?」

 ロイが聞き返す。

「皆さん、早く逃げて……デーモン、いえ、バンパイアが来ます」

 フィニが、必死の声で叫ぶ。

「な~に言ってんだよ。 そんな手を使うのは駄々こねてる子供に対してくらいだよ」

「見たことも無いしな、ちゃちなおとぎ話じゃ……ねぇ……の?」

 ロイとフィニの視線が自分たちの後方にあることに気付き、何人かがゆっくりとそちらを向く。

「は?」

 他の者も視線を向け、包囲陣は全員の動きが固まった。

 狼男の様な顔をした大柄な人影。 デーモンだ。 血の匂いにでも誘われたのか。

 そして、一瞬で五人が体の一部を失いながら吹っ飛ばされた。

「ひ、ひぇ~」

 腰を抜かしたのかその場にくず折れる者がいる。

「何しやがる」

 最初にロイに攻撃を仕掛けたものは、それなりの強者であったか、デーモンに剣を振る。

 剣は腕ごと空を舞い、防具のシールド魔法か火花が数点上がるが、デーモンの腕が背中まで抜けていた。

 残った者は、逃げの体勢に入ったところでデーモンの腕の数振で全員地に伏せた。

 ここまで十秒程度か、そしてロイもフィニも全く動けていない。

「これが……デーモン……だと」

 ロイが、弓を向けながら呟く。

 デーモンの視線は、それを無視するかのように世界樹の方を向いた。

 フィニが、デーモンと世界樹の間に立って。両手を広げて通せんぼのポーズをとる。

「ぜっとさん、マスターの元へ」

 Z1は動かない。 言葉が通じないのもあるだろう。

 フィニは、胸を覆う白い装甲を外そうともがくが、気付くとデーモンに抱きしめられていた。

「……ますたー」

 声とともに涙がこぼれた。死を覚悟したのか、男を守れない悔しさか。

 だが、フィニの全身はいつの間にか白い装甲に覆われており、デーモンの力をもってしても形状を保っていた。

「なんだこれは?」

 フィニの頭に近づいていたデーモンの口が止まり、問いかけた。

 その問いにフィニが何かを答えるよりも早く、白い装甲は一瞬大きくなった様に白く発光し消えた。その大きさと同じ形状にバンパイアの体を削り取って。

 頭を含むほとんどの部分が消滅したデーモンが崩れ落ち、フィニも地面に落下した。その背中からZ1がはがれるように落ちて転がる。フィニの胸を隠していた装甲も先の全身発光とともに消えていた。

 ほんの一時で、十四人とデーモン一体の死骸が散らばる地獄絵図ができあがっていた。

「フィニさんっ」

 ロイは駆け寄り、デーモンの亡骸を横目に、恐怖からか意識を失っているフィニの体を抱きあげて世界樹の元へ走った。

 フィニを男の横に寝かせて、男の肩をゆすって起こす。

 先の喧騒でも起きなかった男はその程度で起きるはずもなく、ほほを何度かはたかれてようやく目を覚ました。

「いてっ」

「主よ、起きてくれ」

「ん? あっ」

 漂う血臭に気付いたかあたりを見回し事体を把握した。

 男は、横に目をやりフィニの無事を確認すると、ほほについたロイが受けた返り血を少しふき取ってから現場へと走った。

 落ちていたZ1を拾い上げて言う。

「生きてるか?」

「充電中です。 現残量では、浮くこともできません」

「じゃ、寝てていいぞ。報告は後で聞く」

 そのまま、月明かりのよくあたる位置の草むらに移動して置いた。

「ロイ、悪いけど街にもどって衛兵に知らせてきてくれる? 馬を使えば朝には戻ってこれるかな」

「確かに亡骸をこのままにもできませんね」

「そういうことだ。 ん?こいつ生きてる。

 街はもっとたいへんな事になってるかもしれんから、気を付けてな。

 危なそうなら、そのまま引き返してきてくれ」

 男は、ロイと話しつつ、フィニが気絶させた者の手足を縛っていた。

「わかりました。 では、行ってまいります」

「行ってらっしゃい…………あと、敬語いらないからね~」

 馬の方へ駆けるロイに声を投げた。

 そのまま芝生へ戻ると、フィニが気が付いたところだった。

「大丈夫か」

 男が声をかける。

「ロイさんは?」

「ああ、大丈夫だ。 街に使いに行ってもらった」

「デーモンはマスターが?」

「いや、たぶんあいつだと思うけど、今疲れて寝てるから後で報告してもらう」

 草むらに置かれたZ1を指さして答える。

「……ぜっとさん……」

 その瞳から涙があふれる。 いろいろと思い出したのだろう。

 小刻みに震える華奢な体を男はそっと抱きしめていた。

「君が無事で本当によかった」

「ありがとうございます」

「そういう時の台詞は、もうちょい、こう、真面目でないのがいいのにな」

「よくわかりません」

「……やっぱ君らしいからそれでいいや。 で、続けられる?」

 男は、その顔をよく見てから訂正した。

「大丈夫です。 もう少しだと思います」

 ミラナの解毒作業に戻るのだ。

「人が来る前に服着たいしね」

「……はっ、そうでした」

 フィニは、ようやく状況が把握できた様に胸を片手で隠しながらもう一方の手で男を横になる様に押さえつけた。

「気付いたか」

 男は、フィニの手に押されるままに横になりミラナに腕を回す。

 フィニも定位置につく。

「早くお休みください」

 フィニは無意識に腕に力を込めていた。



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