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ドラキュラの陰謀  作者: 安田座


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世界樹


 男は馬車と合流すると、すぐに御者台のフィニの横に座る。

「代わるよ。 ありがとう、助かった」

 横から手綱を握りながらフィニに礼を言う。

「あの……しばらく、わたしに任せていただけませんか?」

「いいけど、まだデーモンが出てくるかもだから俺もここに居るよ?」

「はい、お願いします」

 フィニは、ここまで男の方に顔を向けていない。

「フィニさん?」

「はい」

 フィニは珍しく心ここにあらずな返事を返す。

「どうかした?」

「世界樹を探しています。

 あ、すいません……集中してて……」

「話をしても平気か?」

「今なら」

「中の二人の様子は?」

「ミラナさんが錯乱してロイさんが介抱されています」

「ミラナさんって、やっぱ薬か?」

「はい。 ですので世界樹を探させてください」

「了解だ。

 なら、しばらく一本道らしいので、やっぱり俺がやるよ。 君は世界樹探しに集中してくれ」

「御意」

「それと、がんばって」

 それから、しばらく馬車を走らせる。 既に街を抜けたのではと思える様な森林の中の街道を進んでいる。

 街道は、基本的に河に沿っている。 ただ、常に百メートル以上は離れているため河が見えることはほとんどない。もちろん河の魔獣が襲ってくることも無い。

「ちなみに、世界樹って大きいやつ?」

 男が聞く。

「……樹齢によります。 目立って大きいのはエルフ村のだけだと思います。 橋ができるまでエルフはこちらに来ていないはずですので」

「エルフが設置してるのね。 じゃ、Z1に空から探させてもわからんか」

「あっ、見つけました」

 フィニが少し大きめの声を出す。ちょっと嬉しそうだ。

「どのへん?」

「南東の方ですけど、もう少し進んでそちらへの道があればいいのですが」

「Z1、左に曲がる道とかありそう?」

 男は、腕時計に向けて聞く。

「もう少し進むと牧場の様な場所が見えます。

 その柵の横に小さな小川があり、その川沿いの土手が通れると思います。

 さらに小川の先に小さな池がありますのでその辺りでしょうか?」

 Z1は上空からの情報を伝える。

「その牧場に人は居そうか?」

「人と言うか何もいないですね。厩舎らしきものはもぬけのからで、少し先に家屋が一軒あり、そちらも拡大して見てみましたが誰もいない様です」

 Z1は画像以外のセンサー類での確認もしているがあえて報告しない。

「了解だ。 避難命令とか出てるのかなぁ、牧場の動物はわからんが……。

 フィニ、この先で曲がれそうだ」

「ありがとうございます。 ぜっとさん」

「お礼を言われましたか?」

 フィニの言葉が聞こえたのか、Z1の方から男に聞く。

「ああ、”ありがとうございます。 ぜっとさん”とな」

「なるほど。 では”どういたしまして”とお答えください」

「フィニ。 Z1から”どういたしまして”だ」

「はい」

 そのかすかな笑顔に男は見とれてしまう。

「Z1め、やっぱずるいな」


 Z1に誘導され、池の辺りに来たところでフィニが指さす。

「あそこです」

 フィニの指の示す先には人の背丈ほどか二メートルも無いだろうクリスマスツリーに使えそうな木が見える。

 周りの十メートル近い木々とは明らかに違う雰囲気は確かに醸し出されている。

 周囲が芝生っぽいのも仕様だろうか。

「よかった」

「はい」

「もうすぐ夕刻だし、今日はここで野営にしようか」

「御意」

 フィニは軽く御車台を飛び降りると、世界樹へ駆けていった。

 そして世界樹に近づき幹に手を付くと動かなくなった。

 男は、馬車をゆっくりと近づけて芝生の手前で止めて馬車を降りる。

「ちょっと手伝ってくれる」

 扉を開けて、ロイに声をかける。

 ロイはすぐに出てきた。

「すいません。 なんなりと」

「馬を外して、その辺の木に留めてくれる?」

 男は、輪留めをしながらロイに頼む。

「わかりました」

 ロイは返事を返すとすぐに馬車馬の元へ行き、手慣れているのか手際よく外して少し離れた木に結びつけた。

「ロイ、終わったらこっちもお願い」

 男は、芝生や木々から離れ、小川の傍らに石を並べ火を起こしていた。

「野営ですか?」

 ロイは男の傍に来ると意図を確認する。

「ああ、君の出番だ」

 そう、男が人手を必要としたのは、現地を知る案内役、そして野営時などの見張り役だ。

 男自身も見張りをする気だが交代要員がいないと持たない。

「お任せを」

「あ、途中で交代するからね。

 Z1が交代のタイミングは教えてくれる予定だけど、トイレとか何か事情があれば遠慮なく声を掛けてくれ。 俺もそうする」

「姉の分は自分がやりますので時間配分に含めてください」

「必要ならお願いするけど、二人でうまく回そうぜ。

 あと、敬語もできたらやめて欲しいけど。 それは気が向いたらでいいよ」

「ありがとうございます」

 ロイは答えて手伝いを始めた。

 その時、フィニが戻って来た。

「何をしてたの?」

 男がフィニに聞く。

「世界樹の状態を確認してきました。 協力していただけます」

「なるほど。 で、ミラナさんを芝生に寝せればいいの?」

「マスターの妖精様の力をお借りします」

「そういえば、解毒できる妖精さんも俺の中に居るって言ってたね……え? あの方法か~」

 男は、思い出すと同時に少しだけその表情が崩れた。

「……はい。 時間は、一晩で大丈夫だと思います」

 答えるフィニは、少しだけ躊躇した様に見えた。

「じゃ、飯食ってとっとと始めよう」


 食事を済ませて、ロイとミラナに事情を話す。 ミラナは、理解しているか不明だが逆らいはしないだろう。

 ロイは、あきらめていたのか、元の姉に戻せるかもしれないことに歓喜して涙を見せた。

 フィニはミラナを連れて世界樹の傍に行き、ミラナの服を脱がすと男を手招きで呼ぶ。

「ロイ、見張りの件、今晩だけ一人で頑張ってくれ。 Z1が居るから休憩は適当にとってもらってかまわないから」

「お任せください。 そして、姉のことお願い致します」

「任せておけって。 俺もよくわかって無いが、世界樹様には、不治の病を治してもらった経験はあるからな」

「世界樹による治療は王国で行われていると聞き及んでおりました」

「なるほど。

 じゃ、行ってくる」

 男は、ロイに手を軽く振ってから世界樹の元へ行く、男も上半身裸となり既に横になるミラナの傍らで以前に猫の暗殺者にした様に、背中から抱きつくように密着する。

「こ、これでいいかな?」

 フィニに聞く。

「はい」

 フィニは答えながら自らも服を脱ぐ下着のみになるが上は元から着けていないためトップレス状態だ。

「え?」

 男は、その姿に驚きと疑問の声を上げた。

 フィニはそのまま男の側へ移動し、男を背中から抱く。

「マスター、こっちは見ないでください」

「は、はい。 でも、ミラナさんの方じゃ無いの? それに、族長は服着てたよね?」

「あの時、族長は対象者にあなたを含めるためだけでした。今回、わたしの役目は対象者にすることと、世界樹だけでなくマスターの解毒妖精様の力を増幅することなのです」

「増幅?」

「わたしに初めから宿る妖精様の力だそうです」

「あ、今、思い出した。

 あの時、もう一人居た様な気がしていた。 もしかして君なのか?」

「はい」

「ちなみに、猫の時も?」

「はい」

「そっちは全然気付かなかった……」

「しばらく敵を警戒しておりましたので……」

「ふむ、今後気を付けよう」

「もうしないです。 あと、ぜったいにこちらを向かないでください」

「ええと……それって、やっぱ向いた方がいいのかな?」

「どうしてそういう解釈になるのですか?」

「俺の国には、そういう文化があるんだよ」

「それは正しい文化という認識でしょうか?」

「ごめん、たぶん冗談に分類されると思う」

「では、こちらを向かないと信じます」

「向かないさ。 だって、俺、今、十分楽しい」

「……早くお休みください。 世界樹の樹齢のせいでしょうか……でも、ミラナさんはすぐにお休みなられたのに」

 ミラナは、芝生に横になるとすぐに寝息を立てていた。ここまで、心的なものも含めてかなり疲弊していたのだろう。 男も、エルフ村では同様だった。

「もったいなくて……寝たくないけど……寝る……よ……」

 それでも、少しして男も寝息を立て始めた。

「ごゆっくりお休みください」

 フィニは、ささやきながら、男を抱く腕に少しだけ力を込めた。



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