来訪者①(魔法剣士)
男が決勝戦に遅れた件は、特に物議にあがることは無かった。 そして、第三王妃と王女の件は、何者かに操られていた事実が判明したが男には知らされていない。
数日後、男は宿屋を出て一軒家に移っていた。 家とゆうよりも事務所といった感じの作りだ。
奥の壁際に長机に椅子。 手前に応接セット的なテーブルとソファ。
さらに奥に続く扉の先は住居になっている。
そこに、魔法剣士が訪れていた。 ソファに座ってお茶を飲んでいる。 兜はしていない。
その横に立つのはフィニ、お盆を抱えているのはお茶を提供した後なのだ。
「お茶、淹れるの上手だな」
魔法剣士がフィニを褒める。
「練習しました」
フィニが嬉しそうに答える。
「頼む、少し席を外してもらえるか?」
「わたしが居ると困るのですか?」
「そうだな、政治的な話になる。 お前が心配するような、おかしな事はせんよ」
「奥に行って休んで居てくれ」
男は、フィニに指示する。
「わかりました」
フィニは、勝手知ったる感をアピールする様に奥の扉を開けて入って行った。
「何か用か? いや、やっと来てくれたんだ。 こっちにも聞きたいことがある」
男が切り出した。
「もちろん、わたしも聞きたい」
「じゃ、俺から、まずはお礼だ。
指輪が無くても言葉が通じるのはあんたのおかげなんだろ?
助かったし、ものすごく便利だ。 本当にありがとう」
「ああ、もうそれほど必要でも無いのでな、移っていただいた」
「移る?」
「妖精様だ。 たぶんこの世界に一人のな」
「え? そんな貴重な人をいいのか?」
「貴重な方な。 神に、話し相手をしたお礼にいただいたのだ」
「なんだと……神は本当に居るのか?」
「そこからか、ああ、居るさ。 一度会いに行ってくるといい。 東か西の大陸を端まで下って行くだけだから、迷うことも無い」
「そんなに簡単に会えるもんなのか」
「暇そうだから、話し相手にでもなってやれば、何か望むものをくれると思うぞ」
「あんたは、翻訳妖精さんを望んだのか」
「そうなる。 道中いくつも国を通過したが、言葉の壁がきつかったからな……。
望みを言えって言うから、エルフの呪いを解いてくれと頼んだら、己のみのじゃ無いとだめだと。
そう言われると他に思いつかなかった」
「呪いは解けないとは言わなかったのか」
「そういうことだ。 だから方法を探していた。 そして、今回の闘技会での話さ。 でも、子供ができないのは、どうしようも無い」
「なるほど。 フィニを奥にやったのはそこか」
「そうだな、自分でも不思議に思ってるだろうが、あえて触れたくない。
それから、あの指輪だが、魔力の高い者が使うと、相手の考えとか記憶とか読み取れるんだよ。
知らなかったろ?」
「なんですと~」
とんでも無い事実に男は本気で驚いていた。
「そんな能力ありますなんて、使える奴がわざわざばらさないだろう。 ちなみに、魔力的に可能性があるのは、エルフ族長と第一王妃、第六王妃あたりだな、そしてわたしもできる。 ああ、あと、あの占い師もかな」
「まて、俺、その四人、みごとに指輪付けて会話したぞ」
「どの程度の深さまでわかるかはたぶん魔力次第だろうが、第六王妃が一番危険かもな」
「ぐは」
「何か、心当たりがあるのか?」
「まぁね。 というか、初対面の俺に対する接し方に違和感はあった」
「悪い事になってないなら、問題は無いんじゃないか」
「ああ、次に会うことがあるなら、その辺考慮してかかるよ……逆か、今更取り繕う必要も無いんだな」
「ただ、わたしに聞いたとは言うなよ。 あの人たちはそれなりの要職だ。 何かしら必要な場合があるだろうからな」
「もちろんだ」
「では、わたしが聞きたいことだが……」
「剣か?」
「そうだ、なぜバンパイアの首を斬れた?」
「刀と言うんだが、魔法石では無く金属という材料でできている」
男は、刀を魔法剣士に手渡しながら説明を始めた。
「きんぞく? 確かに、この刃の鋭利さと強度、なんでも斬れそうに思える」
「その辺の話は、今は意味が無いから、理由の方を説明するな」
「ああ」
「これを魔法屋に持って行って魔法の付与ができるか試してもらったんだ。
そしたら、全く出来ないと言われた。
で、もしやと思って試して見た。 防御魔法を斬ってみたら、突き抜けたんだよ」
「そんなことが」
「バンパイアは魔法使って無さそうだけど、たぶん自身に魔法力が働いているんじゃないかってフィニが教えてくれたんだ。バーサーカーもそんな感じだろ。
だから、効くのかは分からんかったが、どのみち刀ならダメージをそれなりに与えられると思ってやってみた。
そしたら、スパっと斬れた」
「そういう事か、そして察しの通り、やつらは魔法力を自身の強化に特化している。
武器防具も使うが、本体の強度に対してほとんど意味を成さない。
で、あの大きな音の出る武器は?」
「銃だ。 火薬という薬品でやはり金属の球を飛ばす。
それなりに威力があるんだが、たぶん頭蓋骨を抜けられなかった。
抜けなかった分、体勢は崩せたけどな」
「ふむ、確かに斬りかかっただけなら、首は落とせなかっただろうな」
「ちょっとした賭けだったが、勝ててよかった」
「危なければ、わたしが割って入るつもりではいたがな」
「知ってたのか?」
「ああ、前日の試合結果報告とあわせて教えられた。 まさか、闘技会に出てるとは思わず、ずっと外回りさ」
「いつもいないのに居たのはそういうことか、でも、あっさり殺してよかったのか?」
「やつらは、信用できないからな。 尋問するだけ無駄だ。 生かして置いて、わずかでも危険を残す方が怖い」
「なるほどね」
「さて、本題だが」
「本題まだだったのか」
「お前は、妖精王様の所在を知っているのか?」
「ん? 俺の中に居るとか言ってたのは?」
「おそらく一部だ。 小さすぎる」
「そうか、では、答えは俺は何も知らない。 妖精王って人についてさえ何も知らない」
「では、お前は何者なのだ?」
「そうだな、族長にも言ったが別の世界から来た。 というか、なんでこの世界に居るのかを俺が知りたい」
「聞いたことも無い話だな」
「あ、こいつを付けてくれ」
男は、翻訳指輪を渡す。
「いいのか?」
「あんたならいいぜ。 すっきりするだろう。 俺の気付いて無い妖精王さんとやらのヒントとかもあれば見つけてくれ」
「了解した。 しばらくくつろいで居てくれ。 あまり邪な想像をしないでくれると助かる。雑音になるのでな」
「そういうことか……ちなみにどのくらいの時間でしょうか?」
男は、なぜかかしこまって聞く。
「必要な量しだいだな。 会話する時間みたいなものかな」
「厳しいな……もしかして第一王妃のあれは時間稼ぎだったのか、そして一姫はどうかと」
「誘惑されたか? うっ、なんだこれは、知りたいことが多すぎる」
「助けて……」
男は、想像した以上の時間を提示されて後悔した。どれほどに心や記憶を探られるのか。
………………小一時間ほど経過した頃。 魔法剣士は指輪を返しながら、声を絞りだすように男に言う。
「なんという。
あの方たちは、これを見て、なんで平然とできた…………、
参ったな……。 お前、第一王妃に付け。 一姫様をもらうのが最適解なのか…………最低限、近衛にでも入れ」
「なんで、そうなる」
「最悪、殺されるぞ」
「そんな人には思えないし、俺味方だし」
「お前が敵にならない保証が無い。国の将来とか世界の未来が最優先な方だ。
もっともさっきの方法で証明できるわけでも無いが延命は確実にできる。
そして、第一王妃が判断された事があれば、わたしは無条件で賛同する」
「あんたが殺しに来るのか。 で、理由をもう少しちゃんと説明してくれないか?」
「お前の隠してるものだ。
知識だけでも、いずれ国なども簡単に滅ぼせるだろう。
危険過ぎて、今放置されていることさえ不思議だ。 だから、手っ取り早く始末する。 どうせ居なかった者だ」
「そこまで言われるとは思って無かった。
俺は、向こうの技術や知識を使うつもりは無いんだ。 しかも、学者でも技術者でも無い。 そのうえ頭も良い方では無い。
しかも、そんな技術で滅びかかってる世界から来たんだぜ。 この世界の未来を同じにしたくない。
刀とか銃とか使っちゃったけどね。 それは、持ってるからで、制作する方法をばらまく気が無いってことね。 ちなみに、銃はもう使わないと思う、古い物でまともにメンテナンスしてないから。 この前も一か八かだった」
「何が可能なのかとそこまでのおおまかな道のりだけでも、将来実現できる保証だろう。
お前、第一王妃と早いうちに話せ、できれば指輪を付けて」
「アドバイス助かるよ。 それで、妖精王の件は?」
「真剣に考えてくれ、わたしにお前を討たせるな、頼む。 それから、妖精王様の件は全く分からなかった。嘘では無いぞ」
「俺も知りたかったのにな」
「ただ、お前は、こちらから呼ばれたのでは無く、送られたのではないか? そして、それは妖精王様の能力では無いと思う」
「なんだと? 俺の世界にそんなファンタジーな奴が居る?……その理屈がわからん」
「他に誰が……。 さて、どうしたものか……仕方ない、次に行くぞ」
「次?」
「ダラクシャーナと言う人物を知っているか?」
「質問に質問で返すようですまないが、それも俺が聞きたい。 が、たいした要件でも無い。 だから、名前は知っている。さっき、読まなかったのか?」
「全て読んでたら何日かかるか、人生の膨大な蓄積だぞ」
「なるほど。 その名前は、情報屋に特殊な魔法に詳しいやつ知ってるかって調べてもらって、会いに言ったら居なくて、名前だけ分かった……それだけだ」
「あの大家さんか、そういえば変な男も聞きに来たと言ってたな、お前だったか」
「で、俺が聞きたい、誰? それとも、何した人? やっぱ俺変な男なのか?」
「おそらく、バンパイア王に繋がる人物だ」
「は?」
「もう一つ聞くぞ、占い師になんと言われた?」
「どうせあんたには全部読ませるつもりだったし、いいか。 たしか”アルグダミアスの話を聞け”とだけ。 俺の世界の言葉でだ」
「内容があった。 そして、その人物とは、まだ会っていないと……」
「ああ、誰かもわからんし、どうすれば会えるかもわからん」
「こちらでも調べて見るよ。 おそらく、いろいろと繋がっているはず、それがわかるまでは少なくとも殺せんな」
「わからないままにしておきたくなった」
「お前が、もう何もしないならと言いたいが、占いの内容が許してくれんだろうな」
「なんなんだ一体」
男は、お手上げと両手を広げると、掌を上に向けてポーズを取る。
その時、扉が勢いよく開いた。




