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ドラキュラの陰謀  作者: 安田座


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19/58

強襲


 七姫を拉致したと言う男は、自分に付いてくるように男に言う。

 今、男はフィニとともにその後に付いて歩いている。 フィニは、他者に連絡されない為として同行を条件にされたのだ。

 それから既に数時間は過ぎただろうか、険しくは無いが山道をずいぶん歩いている。


「フィニ、強化魔法って、お願いできる?」

 男は、歩きながらフィニにお願いする。

 装備類としては、武器は闘技会で使った刀と拳銃があるが防具は無い。 相手の情報は何も無い以上、できることはやっておきたいのだろう。

「はい。 ですが、わたしの力では、あたれば消える程度のを三重までです」

「それは、強弱に関係なく三回ってこと?」

「あ、三回もたないと思ってください。 強度に上限がありますので、あのバンパイアの攻撃ですと、何枚あっても無いのと同じですから」

 あの夜遭遇したバンパイア以外に助成した者が居たはずだ。そう、もう一体居る可能性があるのだ。

「おーけー、じゃお願いします」

 男が答えた時、別な者の気配が現れた。

「姉様っ」

 フィニが小声で応じる。 姿を消したオーレルである。

「お? あ、オーレルさん」

 男も小声で合わせる。

「後ほど、わたしが施しましょう」

 翻訳指輪を男に渡してからオーレルは提案する。

「助かる。 通報もお願いしたいところだが・・・」

 オーレルも追跡を優先して来たのだろうと想像する。だから、ここから戻ってもらうか迷いどころなのだ。

「姉様、すいません、お願い……いたします」

 フィニの悔しそうな表情は珍しい。

「お前には悪いが、姫様の無事こそ優先なのでな」

 これは詭弁だ。 彼女の任務は男の監視だからだ。 だから、男に通報を指示されたとしても従わないだろう。

「あっ」

 唐突に男が声を上げた。

「マスター、何か?」

 腰の短剣に手を掛けながらフィニは辺りを見回す。

「どうされました?」

 オーレルも同様に警戒している。

「そういえば、そいつの言葉がわかるぞ?」

 最初から言葉が理解できたので失念していたのだ。

 二人の心配とはまったく関係の無い内容だが、確かに声を上げたくなる事実かもしれない。

「それは、おそらく魔法剣士様に耳を噛まれた時に、何か施されたのであろうな」

 オーレルが、警戒を緩めつつ冷静に応じた。

「確かに、魔法剣士さんとも普通に会話した。 いったい、どういう?」

「わたしにも理解はできませんが、あの方であれば何ができても不思議では無いかと」

「族長以上ってことね」

「あまり詮索はしないで欲しい、疑問があれば本人に聞いて見るとよいかと」

「今は、あまり近づきたく無いなぁ」

「そうです。 話せる様になった。 それで十分だと思います」

 フィニが割って入る。

「なんか怒ってない?」

「誘拐が許せませんから」

「あ、ああ、そうだな」

「わたしは少し外します」

 オーレルは、そう男に耳打ちするとその場を離れた。二人の会話に気を使ったと思えるタイミングだが、それだけでも無いだろう。

「了解だ」

「姉さま……」

「ん?」

 男は、フィニの反応に違和感を覚えつつも、緊張感を保つ事を優先する。

 フィニも、もちろん切り替えている。


 オーレルが離れて数分が過ぎた頃。

「もうすぐ朝か。 おい、まだ遠いのか?」

 案内人には何度も声をかけてはいるが答えずに歩いていく。

「遠いな。  遅くなると、試合に間に合わなくなる」

「マスター、我々に任せてお戻りくださいませんか、何かおかしいです」

「いや、俺が行く事が条件らしいし……あいつに逃げたと思われたく無い気持ちもあるっちゃあるが、それは後でなんとでもなる。 というより、俺の本心としてはフィニに戻って欲しいが」

「そういうことであれば、わたしが居なくなると他言無用の条件が崩れたと思われます」

「だよねぇ」

 その時、オーレルの声がした。

「もう少し先に建物がありました」

「ありがとう。 もう少しだね」

「それから、外に見張りは居ませんでした。 残念ながら中は確認できませんでしたが」

「無理に覗いて相手を刺激しない方がいいもんね」

「はい」

「おい、この先でいいんだよな? お前を置いて行ってもいいか?」

 男は、案内人にまた声を掛ける。

「そうですね。 わたしは構いませんが、わたしの無事が確認できないと色々と保証できかねます」

 そして、ようやく案内人は返事を返した。

「ずるいなぁ。 だが、どうしたものか」

 目的地が近いと判明したことで、逆に到着後に動くプランが無いことが問題となる。

 相手にバンパイアが居たとして闘技会同様に倒せるとは到底思えず。 エルフの二人は逆に足手まといとなる可能性さえある。 しかも、既に人質が居るのだ。

 その時、急に案内人が止まった。

「この先に建物があります。 姫様達は中に居られます。

 中へは、あなたお一人でついてきてください。 エルフのお二人様は外でお待ちください」

 そう言ってから、また歩き始めた。 オーレルの存在もやはりばれていたらしい。

「どのみち、従うしかないよなぁ」

「では、強化魔法を」

 オーレルが姿を現して魔法を施す。

「マスター、お役に立てずすいません」

 フィニは悲しそうに言う。

「一緒に居てくれる心強さは、応援とかと一緒で、そういう人の存在が大きいんだ。 闘技会に望む前にも言ったけどね」

「はい」

 返事も泣きそうだ。 いつから、こんなに感情を出すようになったのだろう。

「あそこかな?」

 建物の屋根らしきものが森の木々の上にちらりと見えた。

 すぐに森が開けて建物の全容が見えた。

 建物の敷地は塀で囲まれておりアーチ状の入口らしい場所があった。

 そこから敷地内へと入ると庭園の奥に二階建ての豪華な建物がある。

 そのまま進み、これも豪華な扉の前に近づいた時、扉が開き人が一人出て来た。

 皆が見覚えのある顔、男が昨日戦った魔法使いが出迎えたのだ。 衣装が控え目なのは、いっちょうらを昨日燃やされたからか。

 この魔法使い、昨日勝ったとはいえ、今は男に勝算は沸かなかった。 初見かつあれだけの準備をしてこその勝利だった。 そして、魔法使いには使用魔法の制限が無い。

 三対一で戦ったとしても、ファンタジーとしては範囲魔法とやらで一掃というのも想像できる。

「こんばんは、昨日はありがとうございました。 どうぞ、中へ」

「ああ」

 男は答えながら案内人とともに魔法使いにつづいた。

 フィニとオーレルは、案内人に手で制止されて、その場に残った。

 扉が閉まる。

「マスター」

 フィニが、扉の前で立ち尽くす。

「どうやら、見張られてはいない様だ。 少し建物の周りを調べて来る。 お前はここで、突入の覚悟をして待っていてくれ。 しっかりしなさい」

 オーレルが状況を見てフィニに伝える。その最後の言葉は強い口調だった。

「はいっ」

 フィニも背筋を伸ばし腰の剣を抜く。

「では、行ってくる」

 オーレルは優しく声をかけて、その場を離れた。

「お気をつけて」

 フィニは、オーレルを見送ると中の気配を探り始めた。


 廊下を進む途中、魔法使いが男に話しかけた。

「お姫様方は無事ですし、傷付ける事もありませんよ。

 わたしが負けたゆえに、最終手段に出ることになってしまった。

 本当にすまない」

 魔法使いは、想定外の言葉を発した。

「ということは、二姫関係か?」

「第二王妃です。 二姫様は知らぬこと。 あ、他言無用で」

「後でバレたらヤバイんじゃ無いのか?」

「うやむやになると思いますよ。 立場的に、スキャンダルは嫌がりますので」

「姫さん達を傷付ける気が無いってことは、お前を倒さないと返してもらえないとかか? だが、それなら、ここに来る途中で森ごと吹っ飛ばすのもできたんだろ」

「そうですね。 今回は前衛が居りますので、闘技会と同じ結果にはならないかもですが、やめておきましょう。 もう、意味がありませんので」

「どういうことだ?

 いや、そういうことか、俺をここに来させる事が目的か……じゃ、あんたは何で居るんだ?」

「バンパイアがもう一体潜伏中との事で、これでも護衛なのです。 ここに来ることは無いと思いますけどね」

「了解した。 では、皆を返してもらえるか」

「もちろんです」

「ところで、なんでこんな事するんだ?」

「わたしでは絶対に魔法剣士殿には勝てませんので、決勝で辞退する予定でした。

 そして、

 あなたがバンパイアを倒したのを見て、念のための手段です」

「ほう、俺ならあの化け物に勝てるかも知れないのか」

「あくまでも、念のためですよ」

「念を押すな。本人ちょっと感動したんだから……。

 ところで、あの派手な衣装は着ないのか?」

 魔法使いの衣装を気にしてしまうのは、昨日のイメージが気に入ったのだろう。

「あれは特注品でした、まさか燃やすことになるとは……」

「そうか、残念だ」

「わたしの判断ですので、あなたが残念がる必要はございませんよ」

「話を戻すが、そこまでして第二王妃は……、

 いや、いくつか想定できるが、どれも目的は同じになる。 つきつめても意味無いな」

「実際、わたしも真意は知りませんが、悪いたくらみでは無いのは分かります」

「了解だ」

 最奥の部屋に着くと案内人が扉を開けて男を中へ誘導した。

 中には、七姫だけでなく、付き人とミーリンも一緒だった。 見張り役兼世話係だろう覆面をした数名が一緒だった。

「遅くなってすまない」

 男は、状況をある程度把握できたのか、普通の感覚で詫びを口にする。

「なんで来るのよ」

 七姫の責める様な言葉は、本気で怒っていそうだ。

「そういうのは、いい。 三人とも無事でよかった」

「だってわかるでしょ?」

「いや、わからんて……ということで、俺は行く」

「あ、間に合う?」

「頑張ってみるよ」

 男は、扉を雑に開けながら既に走り出していた。

 建物を出ると、フィニとオーレルが戦闘態勢で待っていた。

 男は、その横を駆け抜けながら叫ぶ。

「姫さん達は無事だ。 俺は戻る」

 二人は一瞬顔を見合わせてから、男の後を追った。

「裏手に馬車がありましたが、馬がはずされていました」

 オーレルが報告する。

「そいつは、姫さん達が帰るのに使うからどのみち使えん」

「なるほど」

「マスターっ」

 フィニが、制止する様に叫ぶ。

「どうした?…………居るのか?」

 男は、停止して問う。

「はい。 正面、向かってきます。 いえ、左っ」

 フィニが報告した時、男は、フィニとオーレルを抱いて後方に飛んでいた。

 直前に居た位置に狼男の様な異形の者が大きな爪を生やした腕を空振りした様な体勢で立っている。

 狼男、いや、あの夜に見たバンパイアの姿。 だが、もう一体の方だろう。体が一回り大きい。

「バンパイア……」

 フィニが怯える声で口にする。

「おい、話はできるか?」

 男は、バンパイアに問いかける。

「よけられるとは思ってなかったよ。 せっかく、恐怖を感じる間もなく死なせてやろうとしたものを」

「狙いは俺か?」

「そうだが、お前、不思議な話し方をするな、口の動きとあってない」

「そこかよ」

「マスター、逃げましょう」

 フィニが提案する。

「お二人はお逃げください。 わたしが食い止めます」

 オーレルが提案する。

 ここに及んで、頼りの魔法剣士は闘技場、逃げる以外の選択肢は無いのかもしれない。

「いや、二人とも分かってるのだろうが、逃げる選択肢は無い。 戦力差がありすぎて背を向けた瞬間に終わる」

「闘技会での作戦は使えませんか?」

 オーレルが確認する。

「あいつら相手だと意表を突かないと成功しない。 そして、やつは、たぶん見ている」

「隙を作ればよいのですね」

「そうだけど」

「では、わたしとフィニで押さえますので、その瞬間を狙ってください」

 オーレルの提案は、倒す事を優先するのであれば的を得ているのかもしれない、だが、二人が犠牲になると言ってるのだ。

「やります」

 フィニも即時にそれを承諾する。 体が小刻みに震えるのは、バンパイアから発する殺気が増しているのだ。

「絶対にだめだ、それなら、俺が押さえるから二人が逃げる。 これが最善だ」

「作戦会議はもういいか。 あと、エルフに用は無いが、食われたいなら大人しくそこで待ってろ」

「オーレルさん、フィニを連れて逃げてくれ、秘策がある、本当だ。 二人が居るとじゃまだ」

 男は焦る口調で指示を出す。突然湧いた秘策とは。

「フィニっ、逃げますよ」

 オーレルは、フィニを引きずる様に手を引く。

「嫌です」

「フィニっ……お願い」

 オーレルは叱るように名を呼び、乞うように願った。

「でも」

 それでも、フィニは動かない。

「そっちのエルフさんはよっぽど食われたい様だ」

 バンパイアは舌なめずりをしながらフィニに視線を向ける

「早く行けっ、行ってくれ」

 男は、叫ぶ様に指示を出しながら、バンパイアに向けて走り出す。 右手には銃が握られている。 一か八かの同じ作戦か。

 バンパイアは、同時に動いた。やはり、読まれている。そう見えた瞬間、稲妻がその体を貫いた。

「ぎやゎっ」

 バンパイアが奇声を上げて燃え上がる。 続けざまに氷の刃が三本、体に突き刺さる。

 男は慌てて後方に飛んで、元の位置に立っていた。

「バンパイアに向かって行ける勇気は認めますが、無謀にもほどがある」

 男の後方からする声には聞き覚えがある。

「お前達は……」

 振り向いた男の目に写ったのは、あの案内人だ。盾と剣を手にしている。 その後方には魔法使いの姿もある。

「ここは私たちに任せて行きなさい」

 魔法使いは命令口調だ。

 バンパイアはその場に立ったまま煙を上げている。 氷は溶けて蒸発したのか既に無く、代わりに赤い血が固まって跡となっている。

 それでも、倒せたわけでは無いのだ。

「いや、手伝ってくれるなら、一緒に戦おう」

「悪いけど、連携の邪魔になる」

 案内人が男の提案を一蹴した。

「連携? ああ、あんたが、さっき聞いた前衛ってやつか」

「お嬢さんがそういうならその前衛だ」

「お嬢さん? 魔法使いさんか……確かに俺よりも相手になりそうだ」

「あの魔法使いのパートナーであれば、恐らく彼は西のパラディン。そうとうな強者です」

 姿を消して戻っていたオーレルが補足する。それほどに有名なのだろう。

「そうなのか、案内人にしては、ただ者じゃ無いだろうとは思っていたが」

「放蕩娘のせいで僕まで有名になってるのか~」

 案内人は、視線をバンパイアに向けたまま軽口を言う。

「誰が放蕩娘ですか、自由に生きてるだけです」

「あなたの立場で自由にしてたらそう言われるのも当然でしょう」

「うぐ」

「さて、そろそろ始めましょうか、バンパイア」

「ふん、さすがに油断してはくれんか」

 バンパイアから上がっていた煙が止まり、何事も無かった様に立って応じた。

「早く行きなさいよ。 どうせ、間に合わないでしょうけど」

 魔法使いが急かす。

「わかった、ありがとう。 行こう」

 男は、二人へのお礼と、フィニ達へ意思を伝えて走り出す。

「あの男以外に用は無いのだが、しかも残った相手が悪い」

 バンパイアは、走り去る男を見てつぶやいた。 そして、目の前に対峙する者を賛辞する。

「逃がさんよ」

 案内人が答えるように言う。

「もう追いつけないな。 できれば、そっちの女だけでも食っていきたいが、う~む」

「できると思うか」

「いや、無理そうだ」

「だから、逃がさんよ」

 案内人は、間合いをじりじりと詰めている。

「だが、あきらめていただきたい」

 どこからか、第三者の声でそう聞こえると、辺りは霧に包まれた。

「お嬢」

 案内人は、慌てて魔法使いの元へ走り、盾を構えて全方位に神経を集中する。

「タロスっ」

 魔法使いは、案内人と背中を合わせるように立つと、周囲を取り巻く様に炎を発生させた。 タロスとは、呪文では無く案内人の名前だろう。

 数秒が過ぎた時、徐々に霧が晴れて行った。 そして、バンパイアの姿も消えていた。

「逃がした……いや、見逃してもらったのかも」

 案内人は、周囲を見回しながら呟いた。

「相手にもしてもらえなかったと言う事よね。 悔しい」

「霧とか出すやつですよ? しかも、気配もまったく掴めなかった。

 霧になんらかの毒が混ざってたりと思うとぞっとします。

 仮に、もう一体バンパイアが増えたとしたら、二人じゃどうしようも無いですし。

 さらに、もっといるかもしれない」

「あの男の方には出てないといいけど」

 魔法使いは、案内人の心配をどこ吹く風の様に男の方を心配していた。

「どうでしょう。 でも、館も気になります。 戻りましょう」

「そうね。 うちの騎士団が居るから大丈夫でしょうけど、こんなに大掛かりにバンパイアが動くなんて聞いたことも無い、しかも王国内で……」

「同感です」



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