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ドラキュラの陰謀  作者: 安田座


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こちら、二条。 これから突入する……


「こちら、二条。

 これから突入する」

 金属の扉、とはいえオフィスなどの扉と大して違いの無いドアの前に立つ男が独り言の様に話す。

「サポート衛星の供給は二十パーセント以下です」

 ドローンだろうか、戦闘機から翼をむしって縮めた様な機械が浮いている。サイズ感としてはウサギくらいか。 それが報告する様に応じた。

「届いてるなら、なんとかなるだろ」

「開けない方が良いと思いますよ」

 そして機械は二条を制止する。

「なら、大丈夫だろ。 お前を信じてるからな」

 二条は、そう言って扉を開ける。

 扉が開ききるより先に、二条を銃撃と砲撃の嵐が襲う。 火花と爆炎が激しく巻き起こる。

 しかし、それらは全て二条の直前の光る壁に阻まれ、むなしく消滅していく。

 嵐がやんだ。

「これは、俺がどういう者か知ってるってことでいいよな?

 とはいえ、一応言っておくよ」

 次の言葉を待たずに、複数の炎の帯が二条に向かう。火炎放射器の列は炎を吐き続け、ガスが切れたのか数十秒で止まった。そして同様に光る壁に阻まれただけだった。

「俺は、暫定統治局特殊テロ対策部第七斑の二条だ。 斑と言っても一人しかいないが」 

 暇を待っていた様に、自分の身分を伝える。

 今の状況であえて単独であることを明かす。それともフェイクか。

「俺は貴様たちを殲滅する。 俺の権限に置いてそう決めた。

 だが、投降の意思がある者が居れば、武装解除して右の壁に手を付いて立って待ってろ。

 ああ、おれにとって右だ。 だろ?」

 言葉を向けられた者達に動きは、次の攻撃も含めて無い。

「だが、まぁ、いないか。 ふむ、時間稼ぎに付き合ってやったが、もうちょいか」

 二条の言葉が終わるより先に動いた。全員が後方の壁の方まで下がる。

「来たな」

 その時、左の壁が爆発的に崩れ、何か大きな物体が飛び込んできた。

 それは、戦車と重機を合わせた様な巨大な機械で、左右に二門づつある砲塔が既に二条に向いている。

「コンクリートの壁も無いに等しいか。 改造も違法過ぎだろ。 まぁ、でも、そろったな」

 巨大な機械が二条と会話する気が無いのは当然だろうか、砲撃が二条に向かう。

 今度は、光の壁を抜け、その先に立つ男に届いた。

 だが、爆炎の中に悠然と立つ影は変わらない位置にある。

 爆炎や埃の晴れたそこには、パワードスーツといった表現があうのだろうか、人型のロボットの様な者が立っている。

「ゼットワン、ダブルブラスター」

 ロボットがそう叫ぶと、両腕に五センチくらいの径の砲が現れた。両腕が巨大な機械に向く、すぐに砲のサイズのレーザー光が発せられた。巨大な機械を突き抜けたと思うとそのまま右へ振られ、立っていた者達が順に消滅していった。

 少しして大穴の空いた巨大な機械が爆発し何も無くなった。すぐに天井が崩れ落ち、瓦礫の山を作る。

 どれほどの熱量だったのか、空気がゆらゆらと陽炎を上げ、煙が上がり始めた。

 用が済んだのかロボットは消え、二条が立っていた。 眼前の光の壁は煙と熱を防いでいる。

「奥のエレベータも吹っ飛んだが、ちょうどいいや」

 二条は、奥にある幾つかの隔たりの無くなった部屋を駆け抜けて、長方形の穴のある位置に立って言う。上にも同サイズの吹き抜けがある。

 すぐに飛び降りる。

 いつのまにか右腕に装着されていたドローンの力か、最下層の扉の前までゆっくりと降下した。

「ゼットワン、ライトハンド、アンド、セイバー」

 二条がそう言うと、腕と背中のみに先ほどのロボットの一部が現れ、その左手に光る剣らしきものが握られている。

 二条はその剣をエレベータの扉に向けて振るう、すると、その軌跡の形状に斬れたと言うより溶けた感じに開口部ができた。

 穴へと滑り込むと、そこは奥まで続く廊下だ。すぐに、走る。

「サポート衛星からのエネルギー供給は三パーセント無いと思ってください。 あと声に出さなくてもいいですよ。 とてもかっこ悪いです」

 ドローンが報告する。

「三パーセントあれば大丈夫だ。 光壁だけはいちおう準備しといてくれ。 そして、声はつい出ちまう」

 そして最奥の扉に着き、壁に背を付けてから、後ろ手に扉を開ける。

 銃撃も砲撃も無い。

 二条は、扉の中を警戒しつつゆっくりと中に入る。

 豪華な作りの部屋だ、右側に高級そうなソファー類が並び男女が数名掛けている。天井からは嫌味なほどきらきらしたシャンデリアがぶらさがっているが、あまり明るく無いのは壁の間接照明がメインだろうか。

 左側にも同様にソファーがあるが、そちらには数人の若い男がおり、それぞれ拳銃や短刀を構えている。

 さらに、奥の大きく丈夫そうな机の後ろに高級そうなスーツの小太りの男が三名並んでこちらを向いて立っている。

 その前に、一人の屈強そうな男が日本刀を構えて立つ。

「用心棒かい」

 二条が日本刀の男に問いかけた。

「そういうことだが、俺ともロボットで殺るのかい?」

「そうできたら楽なんだが、ご存じのように、ここまでは届かないんだ」

「じゃぁ、相手してやろう」

「お願いするよ」

「あと、周りのやつ、銃を撃っても無駄だよ。 そのくらいはなんとかできる」

「強がりか」

 一人が拳銃を撃つ。

 それは、光の壁に防がれ消滅した。

 数人がほぼ同時に撃ち、同様に消滅した。

「点でくる攻撃くらいはね、なんとかなるんだよ。 銃は軌道予測できるから、最低限のエネルギーで防げる」

 二条は答えながら、一歩下がってから、左に体をひねって振り下ろされる刀をかわす。

「はええ」

 日本刀の男は銃声を合図の様に斬りかかっていたが、タイミングでは無く、その刀の速度に対しての賛辞だ。

 必殺の一撃では無かったのか、振り切る前に刀は軽々とよけた二条を横に薙ぐ。 だが、刀はそこで止まる。二条が腕を押さえて止めたのだ。

 止められた瞬間、さらに逆に回転して刀を振る。

 二条は、その刀が届く前に、日本刀男の左の肩を押してバランスを崩しつつ、踏み出していた足を掬う。

 日本刀男は、見た目よりも身軽なのか筋力強化か、掬いにいった足を飛び上がってかわし、上段に構えなおすと、落下の勢いに合わせて振り下ろす。

 だが、なぜか体勢を崩してただ落下した。 落下のダメージは無いのか、すぐさま立ち上がる。右目を押さえて。

「悪いな」

 二条は、高く上げた右手を降ろし、左手で小石をいじりながら言う。

 ”卑怯だぞ”とか”殺してやる”などの罵声を浴びせながら、部屋に居た男達が二条を取り囲む。

 日本刀男の押さえている手の下から血が流れ落ちる。 おもむろに刀を捨てた。その刀は、刀身が先半分ほど無くなっていた。

 気が利くのか子分らしき者が小走りで近づきショットガンを渡す。

「女の人っ、法廷で死刑を免れる言い訳ができるなら、右手を上げてください。 ……残念、いないか」

 日本刀男達のやり取りを見ながら二条は、室内に数人居る女性に問いかける。 強制的に連れてこられた可能性があるのだろう。 だが、反応は無かった。

「おんどりゃ、なめすぎじゃろ」

 日本刀男がどなりながらショットガンのトリガーを引く、そして怒号とともに上半身を血まみれにして倒れた。

 暴発したのだ。 その時、二条の左手にあった小石が消えていたのに気付く者はいなかった。

「おい、こいつを殺されたく無かったらおとなしくしろ」

 ソファーに居た男が近くの女性を捕まえて拳銃をそのこめかみに当てて言う。 焦りが現れて居るのがわかるほどに声は震え早口だった。

「悪いな、俺に人質は聞かないよ。

 そもそも家族も友人もいない上に、俺の背中に乗ってる命は、お前たちを見逃した後に起こすだろう罪の分だけ居る。

 どうして、死刑になる者が使えると思ったか知りたいくらいだ」

「悪魔めぇ……」

 言い捨てて、人質を盾になる様に位置づけると拳銃を男に向けなおす。 だが、効かないのを思い出したのかそこで止まった。

「ああ、そういえば人質に有効なやつが居た。

 こいつが居ないと困るからな、本当に」

 そう言って、男は腕にあるドローンを指す。

 冗談とか本心とかも無意味だという風に、皆が聞き流す。

「だから、ここまでだ。

 俺は、お前たちの様に弱者を食い物にするやつらが許せない。

 今、消えてもらう」

 そう言い切った時、男を光が包んだ。



 近未来、地球のほとんどの国は、核に汚染されていた。

 ある国の当主が、疑心暗鬼の末にボタンを押してしまったのが発端らしいが、ほとんどの国は報復をせず全面戦争は免れた、それゆえに無事な国、場所も少しだけ残ったのだ。

 そして放射能に汚染されていない残った地に、生き残った数億人が移住した。

 そこで統一国家を一時的に作り、地球の再生を目指すことになった。

 それでも、放射能の影響範囲は刻々と広がり、絶望した人々の中には犯罪に走るものが増え、ますます人類は絶望へと追い込まれていった。

 そんな時、一人の科学者より、残っているAIなどのリソースを重大問題に順番に集中して割り当て解決していく案が提案された。

 食糧問題、凶悪犯罪、環境問題、医療問題……と決め、現在第三段階に入ったところである。

 そう、それほどに凶悪犯罪が重大事項になっていたのだ。

 二条の所属する暫定統治局特殊テロ対策部は、その中でも最も凶悪な犯罪者達を相手にする。

 とはいえ、そもそも人口が激減しているうえ、人材も足りない事から、単独での行動可能な仕組みが構築された。

 人工衛星からのエネルギー供給により強大な力を発揮し圧倒的な制圧力を持つ装備、その開発まで完了し、実用化されて一カ月、結果として犯罪は激減していた。

 だが、犯罪者達は合流し、巨大な組織が現れ始めてもいた。



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