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ドラキュラの陰謀  作者: 安田座


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新たなる戦いに向けて 弐

 

 その日の夕刻、宿に七姫が戻ってきた。

「帰ったんじゃないのか?」

 男が聞く。

「家出してきました。 闘技会が終わるまでは戻らないつもりです」

 七姫は、ちょっと怒り気味に答える。

「まぁ、もう大丈夫だろうからな」

「何が、大丈夫なの?」

「お前には関係ないから、気にするな」

「今の流れで関係無いってことは無いでしょう」

「いや、そんなこと言ったら、俺が欠伸しただけでもお前と関係あることになるぞ」

「欠伸程度でもいいから教えて」

「めんどくさいやつだな」

「もしかして、襲われたの?」

「欠伸する程度にな」

「はぁ?」

「だけどな、お母さんとは仲良くしろよ」

「はぁ?」

「さて、晩飯にしようぜ、今日は食堂に行ってみたいから、行こう」

 一人では無くなったため、部屋食にしない判断だろう。

「勝手に話を終わらせないでよ」

「怒ると可愛い顔がだいなしだぞ」

 機嫌の悪さが顔に少しだけ出ているが、その美貌には意外と似合う。 第一王妃もそうだったのを思い出す。

「むぅ」

 七姫は難しい顔で少し睨む。

「フィニ」

 男はそれを流してフィニを呼ぶ。

「いかがいたしました?」

「たまには一緒に食事をしよう。 食べられるものだけでいいから」

「わかりました」

「ミーリンも行くよ」

 そう言って食堂へ行くために部屋を出た。

「もう、仕方ないわね」

 七姫も文句を言いながらも、ミーリンに「行きますよ」と押されて付いて行く。

 廊下で待っていた七姫の付き人セリアンが加わったところで、ミーリンが急ぎ足で先行した。


 食堂の個室に入ると、大きな丸テーブルに椅子が五脚囲むように並べられていた。 先に急いで降りたミーリンが手配したのだ。

 本来なら使用人であるミーリンの分は無いのだが、男に一緒にと常々言われている。

 男は、食事をしながら七姫に対して話を切り出した。

「俺に魔法を教えてくれないか?」

「いいけど、資質が無いと無理よ? それになんで急に?」

 意外と軽くOKを出すのは、協力を惜しまない姿勢だろう。

「資質?」

 魔法の無い世界の住人である男には、まず意味がわからない部分だ。

「妖精様が入られておりますので、資質は大丈夫だと思います」

 フィニが代わりに答える。

「妖精さんって何人?」

 七姫は、さらに質問を加える、資質と関係あるのだろう。

「三人だそうだ」

 これは前に聞いている。 少し得意げに答える。

「少ない……」

「修行もされていないのに三人です」

 フィニは、ことごとくフォローを入れてくれる。

「ああ、それは確かにすごいかもね」

「お前は何人だ?」

 少し自信を取り戻した様だ。

「ああ、わたしには居ないわ」

「それで、三人を少ないとか言えるのか?」

 男は、勝ったと思ったことだろう。

「ええと、魔法の資質だけってのもあるのよ。

 妖精さんが入れるなら、魔法の資質も付いてくる感じかなぁ」

「なるほど」

「そして、資質とは別に大きさがあるの。

 魔法はそのまま強さと思っていいかな。

 妖精さんは、何人付いてもらえるか、みたいな」

「俺の妖精スロット少ないのか……

 じゃぁ、魔法も資質あっても弱そうだな」

「スロット?とは、受け入れ可能な人数のことですかね。 マスターは、まだ修行もされていませんし、正式に契約儀式もしていませんから、ちゃんとすればもっと増えると思います。 それに、今でも、まだ数人は付いていただけると思います」

「その儀式とやらは、すぐにできる?」

「修行を初めてから早くて五年ほど……」

「ながっ、エルフ達には、大した時間ではないのかも知れんが」

「わたしも、まだ初期の修行が終わったくらいです。数年後から本格的に修行に入ります」

「そういう文化は続けて行くといいぞ」

「はい」

「ところで、魔法剣士さんとか、族長さんの中には何人くらい居るんだ?」

「数千人の単位でいらっしゃるかと」

「聞かなきゃよかった。 例えば、回復妖精さん千人だと、俺の千倍の回復力ってことよね?」

「そうですね。 ただ、一人一人の力も強いはずので、もっとだと思ってください」

「族長さん、そんなに強いのか?」

「族長様は、周辺の大気、土壌、水質の清浄化や、木々や虫たちへの癒しなど、

 そういう妖精様達を宿しておられますので、戦って強いということは無いかと」

「それはそれで、なんかすごい人なんだな」

「はい」

「で、魔法は?」

 逸れた話を戻すように七姫に聞く。

「魔法も修行が要るに決まってるじゃん。 わたしだって小さいころからけっこう続けてるのよ」

「あ、そうだよね」

「でもね、そういうの嫌な人が多くて、少しでも楽をしようと指輪とかの道具を作らせたのよ」

「人間らしい……そうか、なら、やはりいろんな種類のがあるんだな」

「ええ。 だけど、戦闘用となると使うにはそれなりの資質だけは必要よ。

 まず、必要な道具は買いに行かないとだけど、使うには、例えば指輪だと基本的に指先から魔力を出す感じ。

 会話の指輪使いこなせてるから、少しは慣れてるかもね」

「お前のを貸してくれよ」

「わたしは、道具無しで使えるもの」

「左様ですか」

 充てが外れたのだろう、がっかりと答える。

「えっへん」

「では、お買い物に付き合ってくれるか? 装備も揃えたい」

「行く、行く」

 姫は子犬が喜びを隠せないような答え方をし、付き人に呆れた目で見られる。

「マスター、わたくしは、あらためて参加者の調査に行って参ります」

「お願いしようと思ってた。 頼むな」

 昨日言った貸して欲しい力が何か理解しての行動だ。最初のころ少し調べてもらったが、今となっては、情報としてはあまり意味がなかった。 それに、魔法剣士に匹敵する猛者どもの情報は少しでも欲しい。

「御意」

「姫さん、さっきの問いへの答えを一つしてなかった」

「なんだっけ?」

「なぜ急に魔法を教えてくれと頼んだか」

「そういえば、答えてもらってないわね。 闘技会で使うんじゃないの?」

「バンパイアと魔法剣士、そいつらと戦って勝ちたい」

「え? ええ? えええ?」

 目がだんだん飛び出してくる様に驚く。

「貴様は馬鹿か」

 付き人が本気で馬鹿を見る目で合いの手を入れる。

「本気だよ?」

「さっき、魔法剣士って単語が出たのでちょっと引っかかってたのだけど、そういうことね」

 姫様もすぐに素に戻る。言葉の意味がわかるのだ。 そして彼女は優勝までは望んでいない。 本心として姫達の後見者以外には負けないことぐらいだろう。

「昨日、その二人の戦いを見た。

 ちょっと、今の俺の手札では足りないんで、増やしたいなと」

「ちなみに一般人がバンパイアを倒せた話は聞いた事ないわ、魔法剣士様が追っかけてるらしいけど……あの方なら、倒せるのでしょうね」

「魔法剣士さまは闘技会に出るらしいぞ」

「え、まさか……そんなのに出る様なイメージ無いけど、って言うか、本物なら優勝決定じゃないの……あ、一姉様か、なるほどね」

「だから、勝ちに行きたいから魔法を教えてくれと」

「そんなんで勝てるの? あの人、一国の軍隊より強いわよ」

「そんな……に?…………でも、う~ん、魔法使ったことないからなんとも……

 だけど、使える様になれば、対処方法を考える助けにもなる」

「えっとね、ただの魔法と妖精魔法には圧倒的な違いがあるの。

 ただの魔法は、手続きが必要だけど、妖精魔法は意識をくみ取った妖精が勝手にやってくれる。

 だから、全方位に炎魔法で攻撃したり、複数種類の回復や防御魔法を同時に何百も重複してかけたり、減った魔力をあちこちから集めてくれたり。

 そんな事ができるのよ」

「ふむ、ほぼ無敵だな。 そりゃ、ものすごい物量作戦のできる軍隊が必要か」

「そうよ、ちょっとした真似事は魔道具でもできなくは無いけど……

 攻撃されたら仕返しに攻撃魔法を撃つとか、自動で回復魔法かけるとか……条件反射みたいなものだからダメージが無くても働くけど」

「無いよりましだな、それって高いの?」

「ええ、性能の割に……」

「なるほど、実用的ではないな」

「あとね」

「まだ、あるのかよ」

「あの人、たぶんエルフよ」

「ほう?」

「筋力増強とか体の神経や筋肉組織を壊すのよ、それを回復魔法で同時に修復する。

 だから、代謝機能を無理やり進めてるはずよ。

 そして、バンパイアの力に対応できるほどの強化ってどれほどでしょう。

 つまり、使った分だけ命を削ってるから、寿命がわからないくらい長生きのエルフでも無いとあり得ないかなって」

「そういう解釈もあるのか」

「でも、わたしだってできれば勝って欲しいから、ほんのかすかにでも可能性があるなら協力は惜しまないわ」

「いや、勝ちに行くさ。

 そもそも、俺は無意識に手を抜こうとしていた事に気付いたんだ。

 俺の感覚ではあくまでも競技だった。だから、修行で身に着けた流派の技が通用するか試したいとか思ってた。

 ルール無用、結果としての死もある。 そんな戦いで対戦相手からすれば、本気に見えなかったろう。 ものすごく礼を欠いていた。

 だが、考えを変える。 俺が今出せる全力で行く。

 技と力と少ししか無い知恵、妖精さん達、装備、そして、姫さん達皆の協力と声援だ」

 フィニに言った事を、あらためて口にした。 そう、皆の協力を必要だとしているのだ。

 七姫は、男の目を見つめてから、何かを感じた様に答える。

「いいわ。 何が変わるのかも、なんでそんなに熱くなってるかもわからないから、いまいち説得力無いけど、信じる事にするわ」

「バンパイアと戦う事になるのがいつかはわからんが、魔法剣士様とは勝ち上がって行けばいずれ対する。 そして倒してみせる」

「それ優勝じゃん」

「よかったな」

「そ、そうね」

 男に依頼した条件に優勝など入れていない七姫は、この気迫に対して少し罪悪感を覚えていた。

 男にもそれは分かっているが、火が付いた心を止められないほどに、ここが異世界である事実が背中を押すのだろう。


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