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ドラキュラの陰謀  作者: 安田座


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新たなる戦いに向けて 壱


「あ、あの、これは?」

 宿のベッドで目を覚ましたフィニは、横に居る上半身裸の男に問いかけた。フィニ自身も半裸だ。

「やり方を聞いてて良かった。

 大丈夫か?」

 男は、日常会話の様に応じた。

「全然大丈夫じゃ無いので、放してください」

「念のためだよ。 もう少しだけでも」

「……」

「ええと、へんなことしてないよ。 ちょっと触ったかもだけど……」

「放してください。 お願いします」

 フィニは、本当に困っている様だ。

「あ、はい、ごめんなさい」

「いえ」

「それから、昨日もごめんなさい」

「いえ」

「君の忠告も聞かず。 そして逃げの選択を何度も変えてしまった。 結果、君を傷つけてしまった」

「お気にされる事ではございません」

「気にするとかじゃ無くて、絶対だめだったんだ。 君に怪我をさせてしまうなんて」

「わたしの未熟ゆえです。 ですが、契約は解除しないでください。 大丈夫ですから」

「あぁ、解除しようと思ったのに先に言われた。 でも、やっぱり無茶はせんで欲しい。 俺が言うのもあれだが」

「大丈夫ですから」

「以降気を付けるよ。 特に君の助言には」

「お願いします」

「ちなみに、やっぱり怒ってる?  ええと、どっちだろ」

 バンパイアの件か今の状況か。

「怒ってないです」

「それにしても、あの攻撃よく気付いたな。 俺に向けての攻撃だったのよね?」

 男は、重要な話に切り替えたつもりなのだろうが、話を逸らしているようにしか見えない。

「あの」

「はい」

 男は、ようやく気付いたのか、答えてフィニから離れてベッドを降りた。

「感知強化の妖精様に入っていただいておりました。 間に合ってよかったです」 

 フィニは、体が自由になると、あらためて男の問いに答える。

「それで、バンパイアが居るとか魔法剣士の妖精が族長クラスとかもわかった?」

「はい。 教えていただきました」

「いいな、その妖精様。 俺も欲しい」

「マスターは、既に審査に落ちてると聞いています」

「ああ、そういえば、同情で三人だったか」

「すいません。 でも、修業も無しでですから」

「ありがとう。 落ち着いたら、一緒に修業してくれ」

「それは、遠慮させてください」

「ええ~」

「きっとマスターはどんどん先に行ってしまいますから」

「”一緒に”がいいのになぁ」

「マスター? わたしも、差し支えなければお聞きしたいのですが」

 フィニは、話をすり替えるように質問をした。

「なんだい?」

「女性を助けた時の素早さは? 指輪は付けられたままでしたよね?」

「ああ、あれか。 誰にも言うなよ」

「はい?」

「俺の流派の奥義の一つだ。 瞬間的に脚力を増す。

 呼吸法による”ため”がちょっと居るが、先にその状態で待機してたからな」

「その様な技もあるのですね。いつか教えてください」

「一緒にならいいよ。 だけど、小さい頃からの修業が必要……君たちに時間は意味無いか」

「あっ。 ええと、時間はいくらでも……あります。 はい」

 フィニは、話を戻してしまったことに気付く。

「落ち着いたら絶対に修業するぞ~」

「では、なぜ待機されたのです? 最初からあの戦いに入り込むおつもりで?」

 そして、また話の方向を変える。

「どうだかね」

(フィニを連れて逃げられる様に準備していた)とは言わなかった。

「ありがとうございます」

 フィニは、回復したのか上体を起こしてからお礼を言った。

 男の考えは、意外とバレている。

「ところで、魔法剣士殿に会う方法あるかな?」

 少しだけ瞳を合わせてから、男は本題だろう質問をした。

「簡単に会えるかわかりませんが、実は第一王妃様の後見で登録してありましたので、お城にいらっしゃるかと」

「出るのか、俺が勝てないと言われたバンパイアが逃げる程のやつか……」

 会うことよりも、戦う可能性が出た事の方に意識が動く。

「その件については、たいへん失礼いたしました。

 マスターの力は、わたしには計れておりません。

 ただ、バンパイアの強さの異常さは聞き及んでおりましたので」

「俺を止めるために言ってくれたんだね」

「はい。 お考えがあったのかとは思いますが……」

「ありがとう。 本気で心配させたな。

 だが、確かにあの二人はただもんじゃ無い。

 自分の技量だけで戦おうとか、俺は井の中の蛙だな。 強さというか、恐ろしさの次元が違う事が良く分かったよ」

「闘技会を辞退されますか? 他の姫様達も、彼女に勝てる可能性のある戦士を後見しているかもしれません」

「いや、勝ちに行くさ。

 今の俺の全力は、技と身体能力だけじゃない。

 武器もあるし、妖精さんもいる。 そしてフィニ達も居る……いや、君の声援をもらえば気力がいくらでもわいてくるさ」

「わたしがお役にたてるのでしたら、どの様な事でもお言いつけください。 でも、声援は……苦手です」

「心の中で頼むよ。 とりあえず、いろいろ教えて欲しい。 あの戦闘については、少しでもいい、わかる範囲で構わないから」

「速すぎてどこまで合っているかわかりませんが、がんばります」

 男には、剣やこぶしの速度が早いのは確かに見えていたが、攻撃だけでは無く、防御、弱体化等の魔法、妖精の動きなど、見えていない世界にあの戦いの本質がある様に思えていた。

「あてにさせてもらうよ。

 それにしても、あの強さが基準とか、本戦どんだけなんだよ。

 ちょっと、わくわくしてきたぞ。

 ……俺は、本当は、こういう戦いがしたかったのかもしれない。

 競技とか物量による殺し合いとかではなく、

 まさに個人の全力で挑む戦いを」

「やっぱり危ない真似はして欲しくないのですけど……」

「わかった、命だけは賭けない」

「はい」

「話は変わるが、魔法剣士殿は、族長の妹さんなんじゃ? 今までの流れでそんな気がした」

「わたしも、そう思いました。 噂では人間のはずですが、エルフで間違い無いと思います。

 明日、お知らせしようと思います」

「そうしてくれ。

 ちなみにだけど、彼女の弱点が一つ見えた」

「あの短時間でですか?」

「ああ、たぶんだが、あの装備では全力が出せないのでは無いか」

「そうなのですか?」

「男である俺の視線に気付き、スカートの翻りを気にしてスピードが落ちた」

「気のせいでは? というより、そういうのが見たいのであれば……」

「いや、ああ、ええと、だから闘技会は視線多いからたいへんだろうなと」

 少し場を和らげようとした冗談も本気に返されると窮する。 この相手であれば想定すべきであるが、少しセクハラな冗談を言ってしまう年頃の男には仕方がないのだろうか。

「でも、残念でした。 本戦では、装備を変えると思います。

 さっきのは王宮の紋章がついていましたから」

 闘技会は、個人として出る事が決まりで、後見人とはあくまでも支援者だ。

 商人が店名を使うのは問題無いが、公的な組織は表だって名前は出せない。

「ああ、そういうことか、それは……」

「それは?」

 残念という言葉は飲み込んだのだろう。先に言われている。

「ええと、面倒だろうな……と」

「もしも、彼女が族長のお嬢さ……あ、妹君であれば、御歳は……」

「娘?」

「あ、いえ、ええと……、申し訳ありません、言い間違えました。妹君でございます」

「わかった。 そう言う事にしておこう。  そして、確かにそうとうな年上だ。 見方をちょっとだけ変えようかな」

 ごまかすような台詞回しは、ツッコミを入れると可愛そうなので流してあげたのだろう。

「ちょっとだけですか?」

 だが、フィニは、容赦なくツッコミを入れる。

 魔法剣士に対しては、何か敵対的な感じがするのは気のせいでは無いだろうが、男にとってはむしろ望むべき状況であろう。


 昨日の戦闘について、フィニの把握できた部分の解説によると、

 魔法は、一度に複数を同時に使用、

 バンパイアに向かいながら、地からの棘で足を束縛、その後、魔法耐性低下、速度低下、神経系の麻痺など弱体化を一通り。

 斬りかかった後に、自身の防御の上掛けを続けながら、炎魔法による継続攻撃。

 足を捕らえた棘は見えただけで五方向から、バンパイアの攻撃で光った数は全て防御壁の割れた数。男には、記者会見のフラッシュみたいに見えたほどだ。

 なお、魔法一つに要する時間は数秒単位。

 腕を飛ばされたのは、わざとで、肩の関節部を自ら切らない様に防御壁が腕の部分に見えたらしい。

 盾にも当然強化魔法がかかっていたであろうが、ウェイトを乗せた力を逃がすことによってバンパイアのバランスを崩したのだろう。

 片腕を捨てて、先手を取り続けるための時間を作ったのだ。

 それは、自分達と被害者の女性に危害の及ばぬ様、動かない戦いを仕組むためだったのではないかと。

 バンパイアの腕を飛ばした剣技は、切れ味だけでなく、剣速も上げる魔法の効果も付いていたが、当然使いこなす事がすごいのだ。

 決して、魔法や妖精のおかげによる強さでは無い。

 それでも取り逃がしたのは、黒い塊を防いだためだが、頭を割ってもすぐには倒せ無いのを知っていて、不利になる可能性を避けたと推察できる。

 あの時点では、三人の命、負けないことが最重要だったのだ。

 バンパイアとはそれほどの敵であると。

 あの後、次の被害者が出ないように追跡もしたのだろう。

 なお、黒い塊は、フィニが受けたものとともに溶けるように地に消えた。


「魔法剣士、正義の味方だな。

 俺の興味本位で足手まといになっちまったか。 君の忠告を聞いていればと後悔するよ」

「わたしの知識不足です。 あそこまでと知って居れば、もっと強硬にお停めできたのに……」

「でも、あんなのが居るのが分かった。 俺には、見た意味がきっとある」

「それでも、もう、関わらないでください」

「たぶん、そうも行かない。俺にとっては大事な鍵な気がする。 だから慎重になるよ。 君の助言がある時は特にね。

 だから、これからも力を貸してくれ」

「…………はい」


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