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僕はきっとヒーローを殺したいから、  作者: RAMネコ
第1章【オーバーテック】
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第7話・世界の深海魚

 電子妖精を放流する。


 正確には情報寄生型電子構成体だとか呼ばれるのが正しいが、ファンタジーらしく電子妖精かフェアリアと呼ぶほうが好きだ。


 ネットに寄生する羽虫とも言う。


 もし、フェアリアにそんなことを口走れば、あらゆる家電やネットに繋がったあらゆる物質から、手酷い悪戯を受けることだろう。


 以前、フェアリアと口喧嘩した時には電子レンジからマイクロ波を照射された。


 フェアリアとは恐ろしいエイリアンなのだ。


 ついでに言えば、愛想のない、愛らしさを偽装するエイリアンの一種だ。油断していると神経ネットワークのスパークに寄生されていることがある。


 エイリアンはだいたい、人間に擬態するか寄生するかの二種類しかいない。白痴になっていないエイリアンは、だけど。


「今回のエイリアンテクノロジー搬送計画……嘘臭いな。政府の網か?」


 地球のネットに取り残された何十人かのフェアリアが、それも下位能力しか持たないフェアリアまで全てが掴めた情報だ。


 政府のネットも馬鹿ではない。


 お抱えの優秀な技術者が、オーバーテクノロジーを解析して、電子呪術戦やフェアリアの浸透工作に対する攻撃的な迷宮を築いている。


「……嘘臭い」


 意図的に流されたものだという可能性が高い。とはいえ、妹弟達も喰いつく輩は喰いつくだろう。


 オーバーテクノロジーは魅力的だ。移動中でなければ、絶対に強奪は不可能だ。


 何事も経験だろう。


 贈り物のロッカーの中にあるプレゼントを貰えば、嬉しくてつかいたくなるのは人間のさがというもの。


「好き勝手にやるなら好き勝手で、それは別にいいが……」


 政府サーバーから抜いた極秘計画、というには少々お粗末だが、中身に関しての情報はエイリアンテクノロジーであるということ以外、何もわからない。


 積荷が実は、襲撃者を抹殺する特殊部隊だとしても、僕は驚かないところだ。


 あるいは……何か、犯罪者に渡したいものか、破壊されたいものか、色々思いつくが、不明ならば何もわからないので考えるだけ無駄だろう。


「ディープワールドフィッシュが、こんな見え透いた罠に喰いつくのは意外だな」


 カルナバル用の装備を調整しながら、網膜投影モニターから情報を受け取る。


 ディープワールドフィッシュは、中堅どころだ。ディーモンボーンとは積極的対立関係で、構成員の多くはオーバーテクノロジーで武装している。


 お得意様の『犯罪者集団』であるが、元々はエイリアンの侵攻、ロボットによる重工場化で追い立てられた消防局や清掃局の人間で構成されている。立ち向かったのだ。焼き払い、秩序とは消毒であると。


 海に落とされた連中は世界を怨んでいる。


 見境いが弱い狂犬ともいう。駄犬かもだ。


 ヒーローに見捨てられた人間の集まりでもある。


「よしっ」


 少々野暮ったい煤汚れたマシーンから離れる。ディスクグラインダーで綺麗にするのは後回しだ。


 オーバーテクノロジーを継ぎ接ぎして製造した、ハンドメイドのマシーンだ。元は胸を撃たれた警備ロボットを連れ込んだものだが、『まだ生きている』のだから使えるだろう。


 無愛想なパソコンのモニターに困惑の文字列が並ぶが、そんなことよりも胸のポケットが震えている。


『会えますか?』


 稚依紗凪もといウルフィーズからの電子メールだが、あれが敬語なんて使うわけがないという謎の確信から、あまりにも妙な、違和感だ。


 妙すぎて即答した。


 カフェの一角から時計を見る。


 政府のエイリアンテクノロジー関連の搬送が始まっている頃合いだろうか。待ち合わせから随分と遅れても、ウルフィーズは現れなかった。


 ウルフィーズは、事件に向かったのだろう。


 ヒーローならば、その筈だ、間違いなくだ。


 俺は今回の襲撃に参加する予定はない。必要性がない。以前の襲撃は、誰も仕掛けなかったから、俺からちょっかいをかけて、襲わせただけだ。


 自発的に強敵に襲いかかる下っ端を作る上で余剰になった足手まといの処分を兼ねた作戦だ。数が多いだけでは環境は崩壊してしまう。何事もバランスで、底の底で腐るだけならば新しい土と水を入れ替えなければならないものだ。


「長くなりそうだな」


 随分と薄味になり、グラスに雫をつけたアイスコーヒー牛乳をストローから吸いながら、ヒーロー抹殺計画を詰める。


 他に考えることはない。


 カフェの大きなウィンドウは、昨日からの雨に今も打たれ続けているせいか白く濁り、外の景色をうかがわせてはくれない。


 ウルフィーズは、ディーモンボーンは雨の中で戦っているのか。


 サイレンが鳴り響き、薄暗闇を貫く照明、粒子ビームが飛び交いプラズマが爆発する。装甲車両が雨粒を砕き、オートキャノンが銃身を真っ赤にしながら雨で冷やされ音をたてている。空薬莢が水溜りに落ちて、急速に冷やされていく。


 雨粒よりも速く、雨は相対的に止まっていて、ヒーローのウルフィーズが解き放った狼はカーテンを掻き分けるように敵へと襲いかかっているだろう。


 ディーモンボーンはどうだろうか?


 純粋なパワー系、瓦礫を投げつけ、四肢を使い、肌は頑強そのものなのだから歩く要塞のように手当たり次第だろうな。


 新しくココアを注文する。


 ヒーローを無力の象徴に。


 ヒーローは……強過ぎる。


 カフェを震撼させるような乱暴な仕草でドアが跳ね飛ばされる。蝶番が繋がっているのだから、まだ壊れてはいない。


 入ってきたのは、大きな女だ。


 ずぶ濡れの豊地千夏だった。


 彼女は濡れた髪をかきあげる。


 遠目に僕と目が合うと大股で近づき、


「お待たせしてしまいました」


 取り敢えず、ココアを飲み干してカフェからは引き払った。濡れた体を放っておくわけにはいかない。風邪を引いてしまう。ホテルの一室を借りて、シャワーを浴びせた。その間に服をコインランドリーに連れて行き、乾燥まで待つ。


 部屋には戻らない。


 電話は繋がるようにしてある。


 恥ずかしがりの豊地さんだ、バスローブ姿でホテルの同じ部屋で待つなど、緊張で死んでしまいかねない。


『お風呂でました』


 噂をすればメールが来た。


『コインランドリーで服を乾かしてます。しばしお待ちを』と返す。


 ごうん、ごうん、と洗濯機のドラムが回転を続ける。他の利用客もいるようだが、洗濯機の中身は固い鍵で守られたまま、待ち惚けを受けていた。椅子に座って律儀に待つのは、僕くらいであるらしい。


 お隣のランドリーカフェから、変わらない日常が、楽しそうな空気が吹きこんでくる。わざわざランドリーのベンチで座って、律儀に待っているのは僕くらいなのだろう。


 そういえば、


「豊地さん、シワだらけのスカートだったな」


 思い出せば、バグリーキャッスルへの持ち込みはスカートだけだが、彼女が履いているのはズボンしか見たことがなかった。それにシワだらけ……『稚依紗凪のスカート』をクリーニングに出していたのだろう。


 それがおかしくて、笑ってしまった。

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