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僕はきっとヒーローを殺したいから、  作者: RAMネコ
第1章【オーバーテック】
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第6話・夢が終わる瞬間

 僕の目的は、とても小さい。


 絶対に叶えることができる。


 だからこそ、決して捨てられない。


 悪い組織のオーバーテクノロジー工場で、僕は組織奴隷に混じって、悪いものを作っていた。ヒーローや善や光側の存在を焼き滅ぼすメックだ。他にも武器を数多く。


 組織奴隷は人間狩りで就職した人間だ。人間、食うに困ればなんでも働く。悪い組織に就職して、悪の道か善の道かなど考えずにひたすら働く。


 ただ……僕の夢には、その他大勢が、思考的な意味での脳死、全てを他人にゆだねているようでは困る。


「試射一秒前!」


 いきなり終わるカウントダウンで、ピストルタイプの荷電粒子放射装置を撃った。


 当然、オーバーテクノロジーだ。


 二本の超小型粒子加速器が電子と原子核を衝突させ、中性の荷電粒子となり放出される。粒子は既に亜光速を突破した準光速にあり、時間空間湾曲型の未来演算機や超光速機動でも至近距離で連射されれば回避の難しい、破壊的な粒子嵐が延長された非実体の加速器そのものである磁気ビームに誘導され……閃光した。


 毎分五〇〇発の荷電粒子の結晶が速射され、戦車の複合装甲を切り出したターゲットは蜂の巣だ。


 荷電粒子弾の大半は外れた。


 ピストルを固定する土台が、反動に耐えきれず吹き飛んだせいだ。おかげで乱射される荷電粒子弾から逃げまどうハメにあった。まったく……。


「いいか? エイリアンやロボットのテクノロジーは、さっきの事故みたいに人間が想定するよりも遥かに強力な反動を前提にしている。絶対に生身では撃たないこと」


 僕は、レクチャーしていた。


 新しい技術解体者を増やす為だ。僕は学者ではない。オーバーテクノロジーの神秘の箱を開けて解析し、日常に活かせる技術として流用する気はない。あるがままを移植するのが精々だ。時間も人頭も資源も今は少なすぎる。


 僕の夢には、必ずしも、な要素ではない。


「凄いね。それもエイリアンのテクノロジー?」


「量子転換した情報として可逆的に収納、小さく圧縮できるんだって」


「プラズマから物質を作るプラズマフォーメーション技術というのも初めて聞いたな」


「空間を捻れたまま固定してエネルギーを抽出する永久機関……聞いているだけじゃサッパリわからん、だから面白いな」


「グレートメック様を見ろ!」


 卵の中で妹弟達がまだかまだか、まだ産まれないのか、と暴れているサマを感じる。新しい刺激、新しい人生、流れ作業的に与えられるだけの業務でやり過ごす刹那しかないものではなく、自らが学び、生みだす原動力に火が灯っている。


 エイリアンテクノロジーは、大いなる刺激だ。技術の先端が、停滞していた今が爛熟などではないと告げている。そして、そこに到達できるということも、目標となって超えるべき障害として挑みかかる気概が燃えている。


 悪の組織の一人勝ちは面白くない。


 私は、チンピラというものが嫌いだ。僕が武器をばら撒いて、チンピラ連中をのさばらせているが、トカゲを飼うのに苦手なワームを育てるのと同じだ。必要性があれば嫌いでも呑まなければいけないものだ。


「あれは……」


 即席の射爆場へ、巨影が足を振るう。


 四本脚、逆さの首のセンサー群、強力なシールドは複合型で、都市決戦大型兵器に比べれば遥かに小型だが、1.8mの人間からは象の数倍は威圧感がある鉄騎だ。


 ロボットが反乱を起こしていた時、マシーン軍団の主要拠点であるパワーピラーを防衛していた兵器に似ている。


「大きいな」


 確か、ディープワールドフィッシュという組織に納品する兵器だ。中堅どころの組織だが、技官を送ってきてあれこれ監査があったのを見たことがある。


 チンピラを吸収して、悪側の救いである組織が台頭しているのは良い傾向だ。食物連鎖だが、ディープワールドフィッシュの対抗馬にも立ち上がってもらえばより安定する。


「大きいですよね。戦車を相手にするわけでもないだろうに、何相手にあんなものを使うのでしょう?」


 気になるが、定刻だ。


 バグリーキャッスルの受付で、今日も豊地千夏と会う。話す。ついでにウルフィーズこと、稚依紗凪には衣服を山のように投げつけられた。以前のクリーニングの勧めが効いたらしい。「臭くないわよ!」と言われた。


 ヒーローの世界は楽しい。


 ヒーローがやってくれば楽しい。


 ウルフィーズは、良い女性だ。


 悪い人間ではない。


 それでも僕は、ヒーローを殺したい。殺すことを考えている。上手い方法が無いから、ウルフィーズと談笑しているだけで、もし、僕にウルフィーズを殺すだけの手段が今この場にあれば、僕はきっとウルフィーズを殺そうとしているだろう。


 良い悪いで殺すのではないのだから。


 ウルフィーズだけではない。僕を助けようとしていたディーモンボーンもだ。ヒーローは、ヒーローとして在ろうとする人間擬きは、全て殺さなければならない。


「あ、あの……話を聞いて?」


「はい、なんでしょうか、豊地さん」


「同居人の紗凪さんが、バグリーキャッスルにご迷惑をかけてないのかなーなんて、ちょっと心配で……あと、これのクリーニングをお願いして、その、ついで……」


 豊地さんがくしゃくしゃに鷲掴みしているものが、カウンター台に叩きつけられた。


 フリルの付いたライトグリーンのパンツだ。


 そういえば、


『好きなパンツは?』


『フリル付きライトグリーン』


 というやりとりを、稚依さんとメールした。


 なんということだ!


 稚依さんは……豊地さんと、極めて高レベルで情報を共有しているということか!


 僕は、豊地さんの内心をはかりかねて、怪訝に彼女の顔を見たとき衝撃を受けた。真っ赤になり、震えるほどの羞恥は明らかだったからである。


 衝撃だった。


 同時に、僕はひたすらに己を恥じた。


 凄まじい、どれほどの勇気が!


 勇気の総量がこの刹那に練られたか!


 俺はそれを怪訝な顔で迎えてしまったのだ!


 勇気のある行動に対しての報いがである!


「承り、ました」


 唇を噛む。


 少し血の味。


 僕は豊地さんに、なんと詫びれば良いのだろうか。豊地さんは僕の希望の人だ。勇気を唱える人間は多くても、勇気を燃やして行動できる瞬間というのはあまりにも機会が少ない。まして豊地さんは見た目よりも遥かに小心なのだ。


 小心でも勇気を行動にできる。


 それが、誰にもが、できれば……。


 バグリーキャッスルのテーマソングが流れ続ける。


 外は、雨が降りそうな雲ゆきだ。


 一雨来そうだ。


 激しい雨が、やってくる。

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