1-9 杖の7
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朝食の後、一度部屋に戻った私はヒーラーの服に着替え、また王立病院へと出勤した。
昨日と同じくひっきりなしにお客様が来てくれて、充実した気分で城へと帰る。
自分の部屋で淹れてもらった紅茶で一息つきつつ、アニエスさんに相談をする。
「マナーのお勉強、でございますか?」
「はい。食事のマナーも怪しいし、王太子殿下と会う時のマナーも分からないので、困っているんです。」
そうなのだ。
今のところ、決定的な失態は犯していないようだが、私が知っているのは接客マナーであって、宮廷マナーではない。
ドレスを着た時の所作だって、まったくもって美しくない。
それを恥ずかしく思ってしまったのだ。
しかし、学び方が分からないので、一番身近にいてくれるアニエスさんに相談したのだ。
「それでしたら、オリバー様にご相談なさるのがよろしいかと。」
「オリバーさんに?」
「はい。マリナ様の場合、警備の問題もありますので、専属の講師の先生を付けてもらえるのではないでしょうか。」
なんと。
本を読むなどする独学を考えていたのに、講師を付けてもらえるのか。
でも、費用はどうするのだろう・・・?
私は、そのあたりも含めてオリバーさんに相談してみることにした。
「確かに、マリナ様に必要なことですね。承知しました。講師を準備しましょう。」
オリバーさんに相談すると、二つ返事で引き受けてくれた。
「ありがとうございます。ちなみに、費用はどうしましょう?」
「マリナ様に必要なものはこちらで用意しますよ。ご安心ください。」
「それは・・・なんだかとても申し訳ない気持ちになるのですが・・・」
「それだけ、この国にとってマリナ様が貴重な存在だということですよ。」
笑顔でそう言われてしまうと、二の句が継げない。
よし、お仕事を頑張ることで恩返ししよう。
私は決意を新たにしたのだった。
その後、毎週木曜日、王立病院が休みの日にマナーについて学べることとなった。
知識や技術と言うものは、あればあっただけ、人生が豊かになるはずだ。
頑張って勉強しようと思う。
そんな風に新しい生活をスタートさせたある晩のこと。
私は何となく眠れずに、ベッドの中からぼんやりと暗い部屋の中を見つめていた。
すると、何か大きくて黒い塊が天井から落ちてきて、ゆらりと立ち上がる。
「え・・・?何?!」
ビックリして起き上がると、即座に部屋の前で警備してくれていたエリクさんが駆けつける。
すぐ後ろにはディオンさんも続いている。
黒い塊が何かを振り上げ、それがかすかに光った気がした。
次の瞬間、エリクさんが剣を抜き、ギインッ!と金属がぶつかる音が響いた。
黒い塊はすぐに、どこへともなく姿を消してしまった。
しばらく気配を探るようにしていたエリクさんが、剣を収めて声をかけてくれる。
「マリナ様。お怪我はありませんか?」
呆然としていることしかできなかった私は、それに何とか返事を返す。
「は、はい。大丈夫です。えっと、今、何が起きたんですか?」
エリクさんは厳しい表情のままだ。
「おそらく、あの者は暗殺者でしょう。ご無事で何よりでした。」
聞いて、ざわっと一気に寒気が走った。
え、私、殺されかけたの?
ガタガタと手が震えだす。
話には聞いていた。
でもまさか、本当に殺されそうになるなんて・・・。
思わず、自分で自分を抱きしめる。
開けられたままの扉から、バタバタと幾人かが走ってくる音がしてきた。
「マリナ!無事か?!」
ディオンさんから報告を受けたらしいアルバート殿下が部屋に入ってくる。
その後ろにはオリバーさんも。
「殿・・・下・・・。」
私の声も体も震えていることに気付いた殿下が、私のそばに来てそっと抱きしめてくれた。
人のぬくもりに安堵すると同時に、涙が溢れてきた。
怖かった。とても怖かったのだ。
泣きじゃくる私の頭を、殿下は優しく撫で続けてくれた。
それがとても心地よく、しばらくしたら私の心も落ち着いてきた。
そして次には、羞恥で心の中が騒がしくなってくる。
「あの、殿下。ご無礼をいたしました。もう大丈夫です。」
そう言って、静かに殿下から体を離す。
「暗殺者の侵入を許してしまったのは俺の落ち度だ。すまない。」
「そんな!殿下が護衛を付けてくださっていたから助かったんです。エリクさんとディオンさんも、助けていただいてありがとうございます!」
私は皆に向って頭を下げた。
そんな私を、殿下はもう一度引き寄せ、先ほどよりも強く抱きしめられた。
「無事で、良かった。」
小さくつぶやかれた安堵の言葉に、心臓がドキドキと早鐘を打つ。
「警備体制をもう一度見直しましょう。」
「そうだな。執務室へ戻る。エリクとディオンは引き続き警護を。」
「はっ!」
オリバーさんの声かけで殿下は私から離れ、部屋を出ていった。
エリクさんとディオンさんも再び扉のすぐ外で警備してくれるようだ。
そしていつの間に来たのか、アニエスさんが温かいハーブティーを持って来てくれた。
「マリナ様、怖い思いをなさったでしょう。どうぞこちらを飲んで、落ち着いてくださいませ。」
「アニエスさん・・・。ありがとうございます。」
夜遅い時間に申し訳ないと思いつつもその心遣いが嬉しくて、私はお茶を受け取った。
さすがに今夜は眠れそうにないな、なんて考えながら、ゆっくりとお茶を飲んだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
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