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1-8 吊るされた男

ブクマ、評価、いつもありがとうございます!

翌朝、いつもより早起きをした私は、アニエスさんによって飾り立てられていた。

アニエスさんは女性を着飾ることが楽しいらしく、嬉々として支度してくれている。

私はと言えば、再びのコルセットに辟易していた。

しかし何よりも問題なのは、アルバート殿下と食事をするということだった。

今から緊張してしまってしょうがない。

アニエスさんはさすがプロだけあって、私を自分史上最高に綺麗にしてくれた。

が、もともと平凡な私では限界があり、あのイケメンの隣に並ぶのは苦行だと思う。

それでも断れなかった私は、護衛のエリクさんとディオンさんに案内されて、朝食用の部屋へとやってきた。

ノックをして扉を開けると、アルバート殿下は先に来ていたようで、柔らかく微笑まれた。

(ううぅ・・・。やっぱり格好いい。)

先日はパニックでよく見られなかったが、幾分マシになった私は改めてアルバート殿下を見た。

短く切りそろえられた濃紺の髪は丁寧に手入れされているようで艶々だ。

目元はきりっとしているが、タンザナイトのような瞳は優しげだ。

身長も高く、きっと180cmは超えているだろう。

騎士の人たちのように筋骨隆々とはしていないが、なよなよしているわけでもない。

服で隠れて分からないが、おそらく細マッチョというやつではないだろうか。

王太子というだけあって、洗練された身のこなしがさらに素敵さを増している気がする。

「おはようございます、殿下。」

接客マナーしか知らない私は、とりあえず深くお辞儀をした。

「おはよう、マリナ。ここではそんなにかしこまらなくていい。早速朝食にしよう。」

「はい。」

促されて、おとなしく席に座る。

コルセットと緊張であまり食欲が湧かないものの、何とか朝食に手を付ける。

食べ始めて少しして、アルバート殿下が口を開いた。

「昨日はどうだった?何か不便は無かったか?」

「はい。必要なものはオリバーさんが準備してくださったので、大丈夫です。」

「そうか。」

殿下が少しホッとした表情を見せる。

どうやら私のことを気にかけてくれていたらしい。

「ありがとうございます。」

「いや。頼んだのはこちらだからな。」

嬉しくなった私がお礼を言うと、アルバート殿下がまた微笑んでくれた。

うん、破壊力がすさまじいから、むやみに微笑まないでもらいたい。

またしばしの沈黙が流れる。

私はわずかな沈黙にも耐えられず、必死で話題を探す。

が、アルバート殿下が先に話し始めてくれた。

「俺の話をしてもよいか?」

「はい。」

これで沈黙から逃れられる!と、速攻で了承する。

「先日オリバーが説明したとおり、この国は戦争をしていた。長きにわたる戦いの為に民は疲弊し、国は廃れてしまった。俺は王太子としてこの国を復興させていかなければならん。終戦直後は本当に休む暇もなく働いていた。それが少し落ち着き、わずかでも休めるようになったときに異変に気付いた。眠ることが出来なくなっていたのだ。ベッドに横にはなるが、眠ることができない。少しうとうととしてもすぐに目覚めてしまう。正直に言えば、体力の限界を感じていた。オリバーを始め、皆にも心配をかけた。俺は王太子だ。倒れるわけにはいかない。誇りと気力だけで、ギリギリもたせていたのだ。」

どうやらアルバート殿下はワーカホリックだったようだ。

確かに、初めて会った時の疲労度合いは尋常ではなかった。

「だがそこに、そなたが現れた。そなたが眠らせてくれたことで体力も回復し、夜は休めるようになった。深く感謝している。本当にありがとう。」

アルバート殿下に微笑みながら見つめられ、ドキン!と心臓が跳ねる。

しかし言われた言葉は、私がいつも何より望んでいるものだった。

「眠れるようになって良かったです。私は、疲れている人の助けになれることが生きがいなので、そのように仰っていただけて嬉しいです。」

私も心からの笑顔でそう答えた。

「何か礼をしたいが、希望はあるか?」

そう問いかけられて、私は目をぱちくりとしてしまった。

「希望、ですか・・・。」

しばらく考え込む。

仕事の対価は、衣食住という現品支給でもらっている。

さらに何かを欲しいとは思っていなかった。

でも。

「可能なら、家に帰りたいですが・・・無理、ですよね?」

わずかな可能性にかけて口にしてみる。

「すまない。そなたの祖国だというニホンについて調べてみたのだが、この世界にそのような国は無かった。・・・古い文献に異世界から来た救世主が国を救ったという記述があった。もしかして、そなたは・・・。」

「・・・はい。たぶんそうだと思います。その救世主の方は、自分の世界に帰ったのでしょうか?」

「いや、終生この国で過ごしたらしい。墓の存在も確認している。」

「そう、ですか・・・」

その救世主の人が、自ら望んでこの国に留まったのか、帰ることが出来なかったのかは分からない。

でも、お墓までもこの国にあると聞いて、だいぶ落胆してしまった。

「帰る方法も調べてはみたが、いまだ見つかっていない。すまない。」

落胆した私を見て、アルバート殿下が眉を下げて謝罪する。

私は慌てて元気なふりをする。

「とんでもありません!調べてくださるだけで十分です。ありがとうございます!」

「方法が分からない以上、そなたのことは俺たちがしっかりと保護する。安心してほしい。」

「はい。とてもありがたいです。感謝しております。」

「ああ。これからも、よろしく頼む。」

そんなこんなで、殿下と二人の朝食は終わりを告げた。


お読みいただき、ありがとうございました。

来週は大みそかですが、予約投稿しています。

また、年明けには「新春!連続投稿祭り」を予定しています。

詳しくは本日の活動報告をご覧ください。

少しでも面白いと思っていただけましたら、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。

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