1-7 杖の3
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さあ、いよいよ今日から私のサロンが開業である。
私はやる気いっぱいに王立病院へと赴いた。
九時になり、病院の受付が始まると、早速連絡がきた。
「本日お一人目、コンラッド様です。」
「お通ししてください。」
受付の人から聞いた名前をメモする。
お客様のカウンセリングシートを作って、話した内容や体調の変化等を記録するのだ。
入ってきた男性は、オリバーさんと同じ服だった。
そういえばアルバート殿下の執務室にいた気がする。
この服が制服なのかもしれない。
「コンラッド様、いらっしゃいませ。どうぞこちらのベッドにお掛けください。」
ベッドへと誘導し、まずはカウンセリングを行う。
「担当いたします、マリナと申します。お疲れが気になる部分はございますか?」
柔和な笑顔を浮かべ、可能な限り優しい声音で尋ねる。
「上司が休まないので、部下である私も休めなくて・・・。とにかく全身ぐったりしています。」
どこか暗い表情のままコンラッドさんが告げる。
「とてもお疲れなのですね。かしこまりました。では、膝が見えるくらいまで裾を捲くっていただいて、ベッドに横になっていただけますか?」
そうしてリフレクソロジーの基本となる五十分間のフルリフレの施術を始めた。
コンラッドさんもアルバート殿下と同じく、施術を始めて間もなく眠ってしまった。
しかし今回は次のお客様のこともあるので、施術の終わりに声をかけて目を覚ましてもらう。
「コンラッド様。お疲れ様でございます。最後に、私の合図に合わせて深呼吸をお願いいたします。」
そう言って、オリバーさんにしたのと同じように深呼吸をしてもらう。
コンラッドさんの足から手を離すと、次はアドバイスだ。
「おっしゃってらっしゃったとおり、全体的にお疲れでしたね。中でも特に頭に関する部分にお疲れがありましたが、夜は眠れてらっしゃいますか?」
「実はもうずっと眠りが浅くて、夜中に何度も目が覚めてしまっていました。それなのに今はぐっすり眠れて、すっきりしました。」
コンラッドさんは笑顔も見られるようになった。
「施術を受けた当日は夜もよく眠れることが多いので、ぜひ今夜はお早めにお休みください。」
「わかりました。」
「のどが渇いていらっしゃると思いますので、よろしければハーブティーをお召し上がりになりませんか?」
そう言ってソファを指し示す。
「はい、いただきます。」
コンラッドさんが身支度を整えてソファに移動する間に、急いで手を洗ってハーブティーを用意する。
今日のハーブティーは、カモミールティーだ。
寝不足のコンラッドさんにはぴったりだと思う。
そうして一息ついた後、コンラッドさんは笑顔で帰っていった。
結局、その後も次々とお客様がいらっしゃって、無理矢理とった昼食の時間以外は休みなく働いた。
王城に勤めている人、貴族の人、平民の人。
どうやらこの病院は来るもの拒まずらしく、色々なお客様がいらっしゃった。
最後のお客様をお見送りした後、今日の分のカウンセリングシートを見返して、その場で書ききれなかった部分を補足して整頓した。
そこまで終わった私はへとへとではあったが、充実感でいっぱいになりながら王城へと帰ってきた。
「ただいま戻りましたー。」
「お帰りなさいませ、マリナ様。お疲れ様でございます。」
出迎えてくれたアニエスさんが、手際よく紅茶を出してくれる。
ありがたくそれを飲んで一息つく。
ホッと寛いでいると、アニエスさんが一通の封筒が乗せられた銀のトレーを差し出した。
「アルバート殿下よりマリナ様へ、お手紙を預かっております。」
「アルバート殿下から?」
いったい何だろうと思いながら封筒を受け取り、中身を確認する。
「・・・明日の朝食を一緒にって書いてあるんですけど・・・」
「まあ!では、明日は早起きしてお支度しなければなりませんね!」
オロオロする私とは対照的に、アニエスさんは嬉しそうだ。
「わ、私、テーブルマナーが怪しいですよ?!」
「朝食でしたら大丈夫ですわ。スープとパンとサラダくらいですもの。」
たしかに、フルコースのディナーと違って、この国の朝食は軽めだ。
それなら何とかなる・・・のかな?
「ドレスはどんなものにしましょうか?」
アニエスさんはウキウキしている。
「え。ドレス着るんですか?」
今朝はこの部屋で、ヒーラーの服を着て朝食をとったのに。
「殿下とご一緒されるのでしたら、ドレスでなければ!」
アニエスさんは譲らない。
「・・・わかりました。早起きします。」
渋々私は頷いたのだった。
お読みいただきありがとうございました。