3-13 太陽
いよいよ、結婚式当日がやってきた。
ここまで、長かったような、短かったような、複雑な気持ちだ。
私は、朝早くからアニエスさんを始めとする侍女さんたちに、ピカピカに磨き上げられていた。
されるがままになりながらも、少しずつ胸がドキドキとしていくのが分かる。
ときめきと、緊張と、それから未来への期待と。
色々な思いが混じっていく。
鏡の向こうには、丁寧に少しずつ花嫁さんになっていく自分の姿がある。
実の両親にこの姿を見せられなかったことだけが少し残念だが、その代わりにロレーヌの家族が祝ってくれるはずだ。
それも面映ゆい感じがするが、やはり嬉しい。
「マリナ様、いつもにも増してお綺麗ですわ。」
ある程度出来上がってきたところで、アニエスさんが声をかけてくれる。
「ありがとう。アル様も気に入ってくださるかしら?」
「ええ。必ず。」
アニエスさんと微笑みあう。
「マリナ、とても綺麗よ。」
「お母様・・・。ありがとうございます。」
ロレーヌのお母様が支度部屋へ来てくれた。
花嫁の支度の仕上げである、ウェディングヴェールをかぶせるのは、花嫁の母親の役目なのだ。
私が軽くひざを折って頭を下げると、お母様がふわりとヴェールをかぶせてくれる。
ヴェールをかぶせてもらった私は顔を上げ、お母様と目を合わせて微笑みあった。
すると、次にはロレーヌのお父様が来てくれる。
花嫁を花婿の元へとエスコートするのは花嫁の父親の役目だ。
「マリナ・・・。やっと娘として迎えたというのに、もう嫁に行ってしまうのか。」
お父様は早くも泣きそうになっている。
「お父様。私はいつまでもお父様の娘です。これからもよろしくお願いします。」
「ああ。そうだな。殿下なら心配ないとは思うが、何かあればいつでも帰ってきなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
そう言葉を交わすと、お父様は私の隣に立って腕を差し出してくれる。
私はその腕にそっと触れて、お父様のエスコートに従った。
今日、私たちの結婚式が行われるのは国で一番大きな大聖堂だ。
この国の国教は女神を頂点とする多神教で、神話になぞらえた彫刻がそこここに彫られている。
お父様のエスコートで花嫁の入り口の前まで来た私は、緊張でソワソワし始めてしまっていた。
何度も復讐した結婚式の段取りを頭の中に思い描く。
「緊張するかい?」
「はい。結婚式は一度きりですから。」
お父様が話しかけてくれる。
「何度も練習したのだろう?大丈夫だ。」
「はい。」
私は一度大きく深呼吸して、心を落ち着かせる。
「お時間です。」
そう声をかけて、扉の前に控えていた人が扉を開け放つ。
国内の貴族や近隣諸国の要人たちに迎えられて、祭壇へと向かう。
トレーンの長いドレスを着ているためにゆっくりとしか歩けない私に合わせて、お父様がゆっくりとエスコートしてくれる。
そうして、祭壇の前で待っているアル様の元へとたどり着いた。
王族の正装に身を包んだアル様は、最高に格好良かった。
そのアル様がお父様と視線で会話した後、私に手を差し出してくれる。
私もお父様と一瞬だけ目線を合わせて、手をお父様の腕からアル様の手へと移動させる。
アル様がゆっくりと私をエスコートしてくれて、二人で並んで司祭様の前に立った。
さあ、結婚式の始まりだ。
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