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3-8 杖の5

「ごきげんよう。ラジヴィウ侯爵令嬢、アンジュー伯爵令嬢、ソビエスキ伯爵令嬢、ネーデルラント子爵令嬢。お楽しみいただけていますでしょうか。」

私が全員の家名を言ってのけたことに驚いたのか、全員が口をつぐんだ。

しかし、リーダー格らしいラジヴィウ侯爵令嬢はすぐに立て直して口を開いた。

「ごきげんよう。マリナさん。」

この呼び方は、あくまで私を平民として扱うという意味だと思った。

しかし、なめてもらっては困る。

話したこともない全員の家名を言えたのは、お妃教育のたまものだ。

既に国内の貴族については全て頭に入っている。

彼女たちの家族は、ロレーヌ家を敵に回したくないと思っていることも。

しかし彼女たちはそんなことも分からずに、私だけでなく、ロレーヌ家とエリィ様にも喧嘩を売ってきた。

ただで済ますつもりは毛頭ない。

「ラジヴィウ侯爵様のご領地では、質の高い羊毛がとれるそうですわね。お父様が口利きをして王城にも献上することになったと聞き及んでいますわ。」

「そうよ。それが何か?」

「でも、献上することが決まったあたりから、質が落ち始めたそうですわね。何かお困りごとでもありましたか?」

そうなのだ。

王城にも献上するからと生産量を増やそうとした結果、失敗して質が格段に落ちてしまったらしい。

「べ、別に何もありませんわ!品質も問題ないものを献上する予定です!」

指摘されたラジヴィウ侯爵令嬢は、その表情に怒りを灯して返してくる。

「それを聞いて安心いたしました。もしも質が落ちてしまうようでしたら、口利きをしたお父様の評判にも係わりますし、アルバート殿下にもご迷惑をおかけしてしまいますから。」

「・・・っ!」

ラジヴィウ侯爵令嬢はギリっと奥歯をかみしめた。

「アンジュー伯爵様のご領地では、陶器が特産とか。お母様が新しい茶器を注文する先を検討中ですの。でも、きっとアンジュー伯爵様のもとへは注文しないでしょうね。お母様は私の事をそれは可愛がってくださっていますもの。」

アンジュー伯爵令嬢が青ざめた。

国一番の貴族であるロレーヌ家の女主人が使っている茶器なら、きっとヒット商品になっただろう。

なのにまさか、自分の家の領地経営に関わる話にまで及ぶとは考えていなかったのだろう。

「あ、あの、マリナ様・・・。」

慌てて取り繕おうとしたところ、私のお母様によって阻まれた。

「ごめんなさいね。もう全部聞こえてしまったわ。今後、アンジュー伯爵家とのお付き合いは考えなくてはね。」

そう言われてしまったアンジュー伯爵令嬢の顔色は、青を通り越して白くなっていた。

「ソビエスキ伯爵令嬢には、たしか兄上様がいらっしゃいましたよね?」

わたしがニッコリと令嬢に話しかけると、今度は後ろから私のお兄様が出てきた。

「今度、君の兄上に言っておいてもらえるかな。おべっかばかりで結果を出せない人間を近くに置くつもりは無いって。」

ソビエスキ伯爵令嬢の兄上様は、出世の為にオースティンお兄様のそばに置いてもらおうと必死になっていたはずだ。

「そ、そんな・・・。」

ソビエスキ伯爵令嬢の顔色も白くなってしまった。

「そうそう。隣国の王女殿下であるエリザベス様は、王弟殿下のご子息であるルーイ様とご婚約なさったのをご存じですか?それは仲睦まじい様子で、微笑ましいんですのよ。」

「ルーイ様と、ご婚約・・・?」

呆然とネーデルラント子爵令嬢が呟く。

そう、エリィ様は敗戦国の王女ではなく、未来のシュトライゼンの王族なのだ。

無礼が許されるはずもない。

ご令嬢方が全員黙ってしまったのを見て、私は言った。

「まあ、皆さまお顔色が良くありませんわ。お医者様をお呼びしましょうか?」

「結構ですわ。でも、今日はもう帰らせていただきますわ。」

何とかラジヴィウ侯爵令嬢が答える。

「では、馬車を用意させましょう。皆様、お体をお大事になさってくださいませ。」

こうして陰口を言っていた四人は帰っていった。

本当は他にも私に嫌な視線を送ってきた令嬢はいたのだけど、このやり取りを見て、喧嘩を売るのはやめたらしい。

賢明な判断だ。

「マリナ。さすがだな。」

「ロレーヌ家の名誉も守ってくれたのだろう?ありがとう。」

アル様とお父様がやってきた。

「エリィ様とロレーヌ家に無礼を働く人は許せなかったので・・・。」

「私、マリナと仲良くなれて良かったですわ。爽快でしたもの。」

シャルにも褒められてしまう。

「さあ、改めて夜会を楽しみましょう。」

そうお母様に促されて、アル様のエスコートで夜会会場を歩き始めた。

王太子とその婚約者ということで、つながりを持っておきたい貴族は多いらしく、たくさんの人たちに話しかけられた。

お妃教育のおかげで、それらにもそつなく対応し、ダンスやシャンパンを楽しんだりもした。

そうこうしているうちに夜も更けて、アル様と一緒に王城へと帰るのだった。





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