3-3 杯の5
「マリナさん、お忙しいとは思いますが、殿下の事もかまってもらえませんか?」
お妃教育が終わり、エリィ様の部屋へと向かう途中、偶然会ったオリバーさんにそう言われた。
「アル殿下に何かあったのですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが・・・。」
オリバーさんは言葉を濁して苦笑している。
「マリナさんにかまってもらえないので不機嫌なのですよ。それが仕事にも影響していまして。」
アル様に会っていないのは、ここ数日だけのことだ。
それで仕事に支障が出るほど拗ねているの?
呆れてもしまうが、少し嬉しいとも思ってしまった。
「わかりました。これから執務室へ行ってもよろしいでしょうか?」
「助かります。お願いします。」
こうして私はオリバーさんと二人でアル様の執務室へと寄り道することになった。
執務室に入ると、私の姿を見たアル様はすぐさまこちらにやってきて、私の事を抱きしめた。
「婚約者である俺が会えていないのに、何故オリバーがマリナと一緒にいるんだ。」
抱きしめつつも不機嫌な声を出す。
「オリバーさんに会ったのは偶然です。それに、私にアル様に会うように促してくれたのもオリバーさんですよ?」
「そうだったのか。すまない、オリバー。ありがとう。」
「いえいえ。」
そうやり取りをすると、アル様は私を横抱きに抱きあげた。
いわゆる、お姫様抱っこ状態である。
・・・って、こんな抱っこされたの初めてなんですけど?!
まして他の人もいるところで、恥ずかしい!
にわかに慌てる私をよそに、アル様はそのまま執務室内のソファへと腰かけた。
自然と私はアル様の膝の上に座る形になる。
「婚約すれば、毎日のように会えると思っていたのに・・・。」
アル様はそのままの体勢でもう一度私を抱きしめると、私にだけ聞こえる声で囁いた。
そんな切ない声を出されては、何も言えなくなってしまう。
「やれやれ。今からこの調子では、先が思いやられますね。殿下、将来ご自分のお子様が生まれた時もそうしてヤキモチをやくつもりですか?」
オリバーさんが肩をすくめつつそう言った。
「その頃には一緒の寝室になっているはずだから問題ない。」
お子様とか一緒の寝室とかいう言葉に真っ赤になる私をよそに、二人はいつも通り言い合いを続けていた。
相変わらずこの二人は息ピッタリだ。
しばらくして言い合いがひと段落すると、アル様は私を抱きしめていた腕を放して、頭にポンと手をのせた。
「よし。これでまたしばらくは仕事が頑張れそうだ。ありがとう、マリナ。」
「お役に立てて良かったです。もう少し頻繁に顔を出すようにしますね。」
「ああ。ぜひそうしてくれ。待っている。」
とろける様な笑顔を向けられて、鼓動が早くなる。
そのことに幸せを感じながら、私は執務室を後にした。
エリィ様の部屋へ戻ってくると、エリィ様はやや不機嫌な様子だった。
「エリィ様?いかがなさいましたか?」
「・・・マリナ、いつもより遅かった。」
なんと、私の戻りが遅いから不安になってしまっていたらしい。
「申し訳ございません。アルバート殿下の元へ少し寄っていたもので・・・。」
「そうなの・・・。一緒におままごとしてくれたら許してあげる。一緒にやろ?」
「はい。喜んでご一緒します。」
可愛らしいおねだりに、思わず笑顔になりながら了承する。
こうして、ディナーの時間までおままごとを楽しんだのだった。
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