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1-5 剣の2

ブクマ、評価、いつもありがとうございます!

翌朝。

目を覚ました私は、布団の中に入ったまま、ぼんやりと考える。

(今日は仕事休みか。何をしようかな・・・。)

次の瞬間、ハッと覚醒して体を起こし、部屋を見回す。

昨夜の記憶そのままのヨーロッパ風の豪華な部屋だ。

次に自分の頬をつねる。痛い。

「夢じゃなかったかー・・・。」

呟いてがっくり項垂れた。

昨夜の記憶は全て夢で、目が覚めたら自分の部屋でした、というのを期待したのだが、どうやら現実だったようだ。

すると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「おはようございます。アニエスでございます。入ってもよろしいでしょうか?」

「おはようございます!どうぞ。」

私は慌てて髪を手櫛で整えつつ返事をした。

部屋に入ってきたアニエスさんは、綺麗な花模様の入った大きめの器を持っていた。

中には水が入っているようだ。

「どうぞ、お顔を洗ってくださいませ。」

「あ、ありがとうございます。」

お言葉に甘えて顔を洗わせてもらう。

アニエスさんの後ろから、同じお仕着せを着た侍女らしき人が白い布を差し出してくれたので、それで顔を拭かせてもらう。

「早速お支度に移りたいのですが、よろしいでしょうか?」

顔を拭き終わったところで、アニエスさんに問いかけられた。

「お支度?何のですか?」

「アルバート殿下にお会いするためのお支度です。」

そういえば。

疲労の色が濃すぎて昨日は気にならなかったけど、アルバートさんは“殿下”と呼ばれていた。

「あの、アルバート殿下というのは・・・?」

「ここ、シュトライゼン王国の王太子殿下にございます。」

めっちゃ身分の高い人だったー!

そんな人に会うためのお支度。

何だか気が重くなるが、庶民の私では断ることもできないのだろう。

ここはアニエスさんに任せるのが正解な気がする。

「・・・よろしくお願いします。」

「はい。お任せくださいませ!」

ニッコリと良い笑顔のアニエスさんの言葉に合わせるように、靴やらドレスやらを持った数人の侍女さんが部屋に入ってきた。


女の本気の支度は、ある意味で戦いだと思う。

ギリギリとコルセットを締め上げられながら、私はそんなことを考える。

最初にドレスを見た時には、女性としてちょっとときめいたのだが、コルセットを付け始めたところでそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。

「マリナ様はコルセットに慣れていらっしゃらないのですね。では、本日は少しだけ緩めにいたしましょう。」

アニエスさんはそう言うが、もう充分すぎるくらいに苦しい。吐きそう。

これで緩めとは、世のお嬢様方はどれだけ苦しいのを我慢しているのだろうか。

いや、もともとウエストが細いのかもしれない。

私だって、決して太っているわけではない。

しかし特別細いわけでもなく、20代の日本人女性としては平均的なウエストだと思う。

洋服のサイズはMサイズだし、ジーンズを買う時のサイズ探しに苦労したことも無いのだから。

それを、細く締め上げているから苦しいのだと思う。

何とかコルセットを装着し、ドレスを着せられる。

髪やメイクも施されて、鏡に映った自分は別人のようになっていた。

プロの仕事ってすごい。

「お疲れ様でございました。休憩もかねて軽く朝食をお召し上がりいただいた後、殿下の執務室へご案内いたします。」

アニエスさんの言葉にテーブルに目を向けると、紅茶とサンドイッチが用意されていた。

コルセットが苦しいが、このくらいの量なら食べられそうだ。

ありがたく頂戴することにする。

そうして朝食を終えて一息ついた後、アニエスさんの案内でアルバート殿下のもとへと向かった。


アニエスさんが執務室の扉をノックする。

「アニエスでございます。マリナ様をお連れいたしました。」

「入れ。」

入室を許可する低い声が聞こえ、アニエスさんが扉を開く。

「さ、マリナ様。」

どうやらアニエスさんは入らず、私だけで入れという事らしい。

「失礼いたします・・・。」

私はと言えば、王太子殿下と会うマナーなんて知らないので、ガチガチに緊張していた。

が、緊張はすぐに別の種類に変わった。

「待っていた。さあ、座ってくれ。」

そういってアルバート殿下が柔らかく微笑んだからだ。

(イケメンの微笑み、破壊力がすごい!っていうか、声も素敵ー!)

同僚は全員女性だし、お客様だって9割が女性だ。

男性自体に免疫のない私に、イケメンと話すなんてハードルが高すぎる!

ドキドキと心臓が早鐘を打ち始める。

(ど、どうしたらいいの?)

心の中は大慌てである。

昨日はあまりにも疲労の色が濃すぎて見ることのできなかった美貌が、今日は思いっきりこちらを見ている。

とりあえず、勧められた応接セットのソファに腰かける。

動作が少しギクシャクしてしまったのは仕方ないと思う。

「昨夜はよく眠れましたか?」

訪ねてくれるのはアルバート殿下のすぐ後ろにいたオリバーさんだ。

こちらも、昨日とは違ってスッキリした表情で髪も整えられていて、殿下に負けず劣らずのイケメンだった。

「は、はい・・・。おかげさまで・・・。」

「俺も、かつてないほど良く眠れた。マリナといったな。礼を言おう。」

「そんな・・・!めっそうもございません・・・。」

私の対面のソファに腰かけたアルバート殿下に再び話しかけられる。

私はと言えば、恐縮するやら照れるやらで心の中が忙しい。

もう、二人を直視することなどできず、終始俯いたままだ。

「そなたには、今後も城に滞在してもらいたいのだが、構わぬか?」

「え・・・?」

アルバート殿下からの急な提案に、戸惑ってしまう。

「ヒーラーであれば、命を狙われるかもしれません。貴女のことは、我々がきちんと保護しますよ。」

つづくオリバーさんの言葉にも戸惑う事しかできない。

(命を狙われる・・・?)

訳が分からないといった表情の私を見て、オリバーさんがこの国のことについて説明を始めてくれた。

「我らがシュトライゼン王国は、つい2か月ほど前まで隣国と戦争をしていたのですよ。この戦争は長きにわたっており、その過程で医者やヒーラーといった人々が暗殺の標的になったのです。」

つまり、戦う兵士を癒す存在を消せば、自分たちが有利になると隣国の人たちは考えたらしい。

暗殺者を大量に雇い入れてこの国に送り、そういった人々を殺したのだという。

結果、医者もヒーラーも、人数がとても少なくなってしまったのだそうだ。

「戦争自体は我が国の勝利で幕を閉じています。ですが、まだ残党が残っている可能性もあります。貴女の安全のためにも、この城に残っていただくのが最善かと。」

わずかに残った医者やヒーラーも、戦争中に国で保護しようとしたらしい。

しかし保護できたのは医者だけで、ヒーラー達は戦争に巻き込まれることを嫌って姿を消してしまったそうだ。

その為、病気や怪我の治療はできても、疲労を取るということは困難になってしまったのだとか。

「そうなんですか・・・。」

命を狙われるなんて言われても、まったく実感がわかない。

だって私は平和な時代に生きる日本人だ。

自分が殺されるかもしれないなんて、考えたこともない。

根拠もなく、自分はおばあちゃんになるまで生きていられると信じていた。

「そなたは、シュトライゼンについて何も知らないのだな。昨日の服装もこの国や近隣の国のものではなかった。そなたはどこから来たのだ?」

一通りオリバーさんの説明が終わったところで、アルバート殿下に尋ねられた。

「・・・日本という国です。」

やや迷って、でも正直に答えた。

自慢じゃないが地理は大の苦手科目だった。

私が知らないだけで、世界にはシュトライゼンという国があるのかも、そう期待したからだ。

しかし、その期待はすぐに裏切られた。

「ニホン?聞いたことがないな。オリバー、知っているか?」

「いえ、私も聞いたことがありませんね。」

薄々感じていたことが、現実味を帯びてくる。

つまりここは、私にとって異世界なのだ・・・。




お読みいただき、ありがとうございました。

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