2-20 法王
王城へと帰ってきた私は、アルバート殿下の執務室へと向かっていた。
帰ってきたことの挨拶と、ロレーヌ家の養女になる件の相談のためだ。
「マリナです。入ってもよろしいでしょうか。」
執務室の扉をノックして名乗る。
すぐに内側から扉が開けられた。
自分の机に座って仕事をしていた殿下が微笑みかけてくれる。
「ただいま戻りました。」
淑女の礼で、まずは報告をする。
「おかえり、マリナ。ロレーヌ家はどうだった?」
「はい。本当の家族のように温かく接してくださいました。」
「そうか。良かったな。」
いつものようにソファに座り、オリバーさんが淹れてくれた紅茶に口をつける。
「それで、養女になるという件は、答えは出ましたか?」
オリバーさんが自身もソファに座りつつ尋ねてくる。
「そのお話、私は受けようと思います。殿下とオリバーさんはどうお考えですか?」
「公爵家の後ろ盾ができれば文句を言う貴族もずっと減るだろうし、俺は賛成だな。」
「そうですね。デメリットよりメリットの方がはるかに大きいです。私も賛成ですね。」
二人の賛同ももらえて、ひとまずホッとする。
「そこで、疑問点が二つあります。一つ目は、私は異世界から来た人間です。養女になる手続き上の問題は起こらないでしょうか?」
「それこそ我々の出番です。書類上の事はどうとでもなりますよ。」
オリバーさんから頼もしい答えが返ってきた。
「ありがとうございます。もう一つの疑問ですが、ヒーラーとしてのお仕事はどうなるでしょう?」
「公爵令嬢となる以上、今まで通りに続けるのは難しいだろうな。」
やはりヒーラーとしては働けなくなるらしい。
「新しいヒーラーを育成するのも無理ですか?」
「それくらいなら、何とか大丈夫だろう。」
「では、もう少しヒーラーを増やして、後は後輩の子たちに育成も含めて全て任せる形で進めます。」
「わかった。」
となると、心配事はあと一つ。
「ヒーラーを増やすとなると、警備はどうなりますか?」
今は私も含め、全員に王城の騎士がついてくれている。
「もう少しで残党たちの尻尾を掴めそうなんだ。そうしたら警備も必要なくなる。」
「そうなんですね!安心しました。よろしくお願いします。」
「ああ。任せておけ。」
自信たっぷりに殿下は微笑んでくれたのだった。
翌日。
私は王立病院で皆にも話をした。
エマ、アリア、リリィ。
全員が驚き、戸惑っていた。
それはそうだろう。
店長的な立場だった私が突然いなくなることになり、あとを三人でやらなければならないのだ。
とはいえ、私は心配していなかった。
「これまでも私はほとんど出張でいなかったけど、三人でうまくやってくれてたよね。王立病院には来なくなっても、新しいヒーラーを育てる仕事は続けるから、時々様子を見に来るつもりだし、きっと大丈夫だと思ってるよ。」
そう言うと、私の信頼が伝わったのか、三人とも真剣な目になった。
「そこで、三人に質問なんだけど、新しいリーダーは誰が良いかな?コンスタン病院長とのやり取りとかもあるし、そこは決めておいた方が良いと思うんだ。」
私が提案すると、三人は少し考えているのか沈黙した。
ややして、アリアが手を上げる。
「エマとリリィが認めてくれるなら、挑戦してみたいです。」
「うん、これまでもマリナさんがいないときはアリアがまとめてくれてたし、良いと思う!」
「私も、賛成!」
こうして、王立病院は今後、アリアを中心に回していくことになった。
同時に、誰でも貴族の家に出張で行けるように、最低限のマナーも教えることとなった。
コンスタン病院長には、アリアと二人で挨拶に行き、事の次第を伝えた。
私と気軽に会えなくなることを惜しんでくれたが、貴族令嬢になるということで祝福もしてくれた。
私の側の準備をもろもろ整えて、正式にロレーヌ公爵様に養女の件の了承の手紙を送る。
手続きや準備に時間はかかったが、すべて順調に進み、晴れて私はマリナ・ロレーヌとなったのだった。
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