2-16 金貨の10
今日の出張先はロレーヌ公爵家だ。
といっても、お客様はシャルではなく、そのお父さんの公爵様だ。
「やあ。よく来てくれたね。こちらに部屋を用意しているから、そこでお願いするよ。」
シャルのお父さんは、シャルと同じ柔らかい雰囲気の方だった。
「かしこまりました。よろしくお願いいたします。」
そうして案内された部屋でいつも通りに施術をし、ハーブティーをお出しする。
すると、ロレーヌ公爵様はこんなことを言い出した。
「突然で驚くかもしれないが、我がロレーヌ家の養女になるつもりはないかい?」
「養女・・・ですか?」
公爵様が何故そんなことを言い出すのかわからず、戸惑ってしまう。
「君がこうして貴族の家で仕事をするようになってから、貴族の間で評判が上がっていてね。他の家にとられる前に我が家に迎え入れたい。それに、君はアルバート殿下から求婚されているのだろう?公爵家の養女となれば身分の問題はなくなるし、ロレーヌ家としても王族と縁を繋げられる。どうだろうか?」
なるほど。
理由には納得したが、返事をできかねないでいると、さらに公爵様は口を開いた。
「まあ、それは建前で、シャルから話を聞き、こうして実際に会ってみて、娘として迎えたくなってしまったのが本音だけどね。」
いたずらっぽく笑ってそう言ったあと、窓の方へ視線を移した。
公爵様は本当はもう一人娘が欲しかったらしく、
「仲良し姉妹、いいよねぇ・・・。」
とかつぶやいている。
「とてもありがたいお話なのですが、突然の事で戸惑ってしまって・・・。少し考える時間をいただけませんか?」
そう話すと、公爵様は満面の笑みで快諾してくれた。
さて、どうしたものか。
私は悩みながら仕事を終えて王城へ帰ってきた。
一見メリットしかない話のように思える。
でもだからこそ、どこかに落とし穴があるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、向こうからオリバーさんがやってくるのが見えた。
「オリバーさん!丁度良いところに!ちょっと相談に乗ってくれませんか?」
「マリナさん。お疲れ様です。相談、ですか?」
「ええ、実はちょっと迷っていることが・・・。」
と、そこまで話したところで、後ろから抱きしめられてビックリする。
「なぜオリバーを頼る。相談なら俺にしろ。」
安定のアルバート殿下だった。
「殿下・・・。過度なスキンシップはおやめください。あと、相談の内容的に殿下に聞かせる話ではないかと思ったんです。」
そう言うと、殿下はしょぼんとしながら手を放してくれた。
私は一つため息をつくと、
「わかりました。殿下にもお話します。執務室をお借りしてもよろしいでしょうか?」
そう言ったのだった。
とたんに機嫌を取り戻した殿下と呆れ顔のオリバーさんとともに、殿下の執務室へ向かう。
「それで、相談とはなんだ?」
さっそく殿下が切り出してきた。
「今日、仕事でロレーヌ公爵様と会ったのですが、ロレーヌ家の養女にならないかと言われました。殿下からの求婚についても、身分の問題が無くなるからどうか、と。そういうお話だったから、殿下ではなくオリバーさんに相談しようと思ったんです。」
そう言ってオリバーさんの方を見る。
「確かに、良い案のように思えますね。マリナさんとしては身分の問題が解決する。ロレーヌ家としては王家と縁が結べる。」
「そうなんです。メリットしか無いように見えるんですよね。だから、落とし穴がありそうで怖くもあります。」
「それなら、試してみれば良いのではないか?」
殿下が声を出す。
「試す?」
私が首をかしげると、殿下は話し始めた。
「ロレーヌ家に一晩くらい滞在してみればよい。公爵家であればそれなりの警備体制がしかれているはずだ。あとはエリクとディオンを連れて行けば問題ないだろう。」
「良いアイディアですね。さっそくロレーヌ公爵家にお願いしてみましょう!」
私は殿下の案にのって、ロレーヌ家へと手紙を出したのだった。
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