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1-4 杖のナイト

結論から言おう。

硬かった。ものすっごく硬かった。

アルバートさんの足は、これまで経験したことがないほど硬かったのだ。

通常、足の施術には50分かけるのだが、そんなものでは足りなかった。

そばで控えていたオリバーさんへチラッと視線を向けると、無言のまま頷ずかれた。

普段の仕事と違って次の予約があるわけでもないので、私はたっぷりと時間をかけて足を全体的にほぐしていった。

アルバートさんはと言えば、施術を始めて間もなく、

「お力加減はいかがですか?」

「ああ、丁度いい。」

という会話を交わして、すぐ寝てしまった。

規則正しい寝息が、気持ちよさそうだ。

本来であれば施術の最後には、先ほどのオリバーさんのように深呼吸をしてもらうのだが、今回は眠らせることが目的だったようなので、声はかけずに静かに施術を終わらせた。

アルバートさんの足から手を放し、立ち上がって振り返ると、オリバーさんが静かに扉を開いた。

私もオリバーさんに続いて部屋を出る。

扉をそっと閉じて、オリバーさんが微笑んだ。

「ありがとうございます。あの方はずっと眠れずにいたので、助かりました。」

「いえ、お役に立てて良かったです。」

「貴女もお疲れでしょう。部屋を用意しましたので、どうぞ休んでください。今後の話は、また明日にしましょう。」

オリバーさんはそう言って、部屋へと案内してくれた。

最初に連れていかれた牢屋みたいな部屋ではなく、来客用の部屋のようだ。

アルバートさんの部屋ほど豪華ではないが、庶民の私からすればホテルのスイートルームにでも来たような感じだ。

どうやら、ここの人々にとって、私は犯罪者ではなくなったらしい。

ちょっとホッとした。

窓の外に目を向ければ、夕方から夜へと変わろうとしているところだった。

「私は仕事に戻らねばならないので、何かあればこの者に言ってください。」

「アニエスと申します。何なりとお申し付けください。」

オリバーさんが部屋の中にいたお仕着せを着た女性を紹介してくれる。

「私はマリナといいます。よろしくお願いします。」

少し恐縮しながら、私も自己紹介する。

私とアニエスさんが挨拶を交わしたのを見届けると、オリバーさんは戻っていった。

「マリナ様、お腹は空いてらっしゃいますか?よろしければディナーをご用意いたしましょう。」

「ありがとうございます!実はお腹ペコペコだったんです」

アニエスさんの提案に、私は苦笑しながら答えた。

・・・が、間違いだったかもしれない。

だって、運ばれてきたのは、フランス料理のフルコースを彷彿とさせるメニューだったのだ。

友人の結婚披露宴に参加するときに「カトラリーは外側から使う」と覚えた程度だ。

本格的なテーブルマナーなんて知らない。

オードブルとスープまでは何とかごまかしたものの、次に魚料理が出てきて、お手上げになってしまった。

「あの・・・アニエスさん。私、マナーを知らなくて・・・。どうやって食べたら良いのでしょう?」

知らないことは恥ではない。知ったかぶりをすることが恥なのだ。

そう自分に言い聞かせて、アニエスさんに尋ねる。

アニエスさんはニッコリ微笑んでくれた。

「ここには私とマリナ様しかおりませんので、どうぞお気になさらずお召し上がりください。」

そう言ってもらえた私は、心底ホッとして、その後の食事を楽しんだ。


全て食べ終わり、私は部屋のソファでアニエスさんが淹れてくれた珈琲を飲んでいた。

ソファはふっかふかで、とても寛げる。

あまりにも不可思議な一日を振り返り、疲れがどっと襲ってきた。

自然とソファに埋もれてしまう。

そんな私を見て、次にアニエスさんが提案してくれたのは湯あみだった。

純日本人な私は、つい日本風のお風呂を思い浮かべ、喜び勇んで向かったのだが、

ここもヨーロッパ風で、湯船につかってのんびり、というわけにはいかなかった。

少し残念に思いながらも用意された寝間着に着替え、疲れていたので早々にベッドへ入った。

「お休みなさいませ。」

そう言ってアニエスさんが部屋から出ていくと、私もすぐに眠りに落ちてしまった。

今回もお読みいただき、ありがとうございます。

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