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2-12 剣のキング

その日の午後。

予約いただいていた通り、私は国王陛下の元へと向かった。

二回目なので、前回ほどの緊張はなく、落ち着いていられた。

以前と同じ部屋で待っていると、間もなく陛下がやってきた。

最上級の礼をして出迎える。

「本来は講義の日に、すまないな。」

「とんでもございません。私の方こそ、先ほどはありがとうございました。」

「なに、たいしたことではない。」

早速午前中のヴァンドーム侯爵様の件のお礼を言うと、陛下は微笑んでそう言ってくれた。

その微笑みがアルバート殿下とそっくりで、思わず殿下も歳を取ったらこうなるのだろうかと考えてしまう。

「その後、お疲れはいかがでいらっしゃいますか?」

「そうだな・・・。やはり、疲れは溜まっているな。」

「お仕事柄、心労も多いことでしょうね。短い時間ですが、リラックスなさってくださいませ。」

そう言って、早速施術(せじゅつ)を開始した。

一国をしょって立つ。

そのプレッシャーがどれほどのものか、分からないながらも想像して、心を込めて行う。

そうして施術が終わると、陛下の表情もスッキリしたものに変わった。

「相変わらず素晴らしい腕だな。礼を言う。」

「恐れ入ります。」

陛下は機嫌良さそうにハーブティーを飲んでいる。

私は、ふと湧いた疑問を、思い切って口にしてみることにした。

「陛下。お伺いしてもよろしいでしょうか。」

「何だ?」

「陛下は、『国王』とはどんな存在だと思ってらっしゃるのでしょうか。」

すると、陛下は目を丸くした後、ふっと笑った。

「面白いことを聞くな。」

「施術をしている間、陛下のお仕事やお立場、どんなことに疲れ、どんな喜びがあるのかと考えていたもので・・・。」

陛下は、少しの間考えたのち、こう答えてくれた。

「王族や貴族は、民の上に立つものだ。しかし、それは民を踏みつけているということではない。民が足元を支えてくれるからこそ、我らは立っていられるのだと、そう考えている。」

その答えに、何だか胸がジンとしてしまった。

「さすがは国王陛下です。素晴らしいお考えです。」

「あの侯爵などには否定されるだろうがな。」

陛下はいたずらっぽく笑って言った。

確かに、自分は偉いんだと声高に言っていたヴァンドーム侯爵様なら、嫌な顔をしそうだ。

「そなたの祖国ではどうなのだ?」

陛下は、私の方に話を振ってきた。

「皇族はいらっしゃいますが、あくまで国の象徴で、政治は行っておりません。」

「では、誰が政治を?」

「民の代表です。身分制度がありませんので、一定の年齢になれば誰でも立候補できます。その中から民によって選ばれた人々が政治を行っています。」

「ほお。民が自ら政治を行うのか。面白い。」

そう言って、陛下は自分の髭を撫でた。

「マリナ。そなたは女性だというのに、政治の話もできるのだな。」

「祖国では義務教育というものがあって、全ての民が一定の教育を受けるんです。政治に関する事も、ごく基本の部分のみですが学びました。」

「この国では一定の身分の者、しかも主に男子にのみ行う教育だ。そなたの祖国は実に興味深い。また話を聞かせてくれ。」

「私の話でよろしければ、喜んで。」

こうして、陛下は仕事へ戻っていった。


その日の夕方。

私の部屋にアルバート殿下が尋ねてきた。

「父上といったい何を話したんだ?」

殿下はとても不思議そうに聞いてきた。

「えっと・・・。あ、政治の話をしました。」

そう答えると、殿下は少し驚いた顔をした。

「マリナは政治の事が分かるのか?」

「日本の政治の基本的な仕組みなら子供のころに勉強しましたけど・・・。」

「だからか・・・。」

殿下は少し考えこんだ。

「何かあったんですか?」

「マリナに妃教育を受けさせてみないかと打診があった。」

「妃教育・・・ですか?」

私はきょとんとしてしまう。

「ああ。マリナは我が国では高等とされる教育を受けているらしいことが分かったから、試しに妃教育を受けてみないかと父上から話があった。俺としては賛成だが、マリナはどうだ?」

そう問われて考えてみる。

仕事に関しては、仲間が育ってくれた分、私の負担は減りつつある。

教育の内容はシャルから少し聞いているが、この国で生活していくなら必要になりそうな知識も多かったはずだ。

何より、教養や知識はあって損はないだろう。

「そうですね。私も受けさせていただきたいと思います。」

「わかった。では、講師を用意する。」

「よろしくお願いします。」

そこでふと、気になったことがあった事を思い出した。

「殿下。ヴァンドーム侯爵様の事はお聞きになりましたか?」

「ああ。父上が諫めたらしいな。」

「実は、同じように『自分を優先しろ』という貴族のお客様が何名かいらっしゃって。今回、こうしてトラブルにもなってしまいましたし、対応を相談させていただければ嬉しいのですが。」

そう言うと、殿下は厳しい顔つきになった。

「その貴族たちをリストアップできるか?」

「はい。可能です。」

「では、そのリストを提出してくれ。対応を検討する。」

「助かります。よろしくお願いいたします。」

私がホッとした笑顔を見せると、殿下が口を開いた。

「ところでマリナ。手を握っても良いか?」

「はい・・・?」

殿下はそっと私の手を取り、自身の両手で包み込むようにしてぎゅっと握った。

(え?え?なに、どういうこと?!)

私がパニックで顔を赤くしていると、殿下がふわりと微笑んだ。

「最近、スキンシップが足りなくて寂しかったんだ。たまにはこうしてマリナに触れないと、頑張れない。」

断らなければならないのに、私も嬉しくなってしまって拒絶できない。

殿下の手は温かくて大きくて、ドキドキもするが、安心もできる手だ。

しばらくそうしていた後、殿下は名残惜しそうに私の手を放した。

「そろそろ仕事に戻らねば。マリナ、またな。」

「はい。」

そう答えて礼をするのがやっとだった。









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