2-8 杖の8
国王陛下に呼び出された当日。
指定された部屋で待っていると、程なくして陛下がやってきた。
私はマナー講義で覚えた、最上級の礼をする。
「そなたも忙しいだろうに呼び出してすまなかったな。早速頼む。」
「承知いたしました。」
こうして、私は他のお客様と同じように対応を始めた。
普段からお客様には失礼のないように対応していたので、そこは心配していない。
国王陛下もやはり立場上、疲れが溜まっていたようで、施術を開始するとしばらくして眠ってしまった。
規則正しい寝息が、少し緊張していた私の心もほぐしてくれる。
私は普段通りにいたわりの心を込めて行った。
施術が終わると、国王陛下の表情も最初より明るくなってホッとする。
いつも通りにハーブティーをお出しする。
「少し話せるか?そなたも座ってくれ。」
そう言って、陛下の対面のソファを勧められてしまった。
「で、では、失礼して・・・。」
どうするのが正解か分からず、とりあえず言われたままに腰かける。
「そなたの仕事ぶりは報告を受けていたが、やはり実際に体験すると違うな。想像以上だった。」
「恐れ入ります。」
内心嬉しくて仕方なくなりながら、何とかポーカーフェイスで返事をする。
「先日は、無理に夜会に出席させることになってしまい、すまなかったな。しかし、堂々とした踊りっぷりに驚いたぞ。よくやってくれた。」
「ありがとうございます。アルバート殿下とベルナール先生のおかげです。」
「ふむ。そのアルバートだが、そなたに求婚したらしいな?」
いきなり爆弾が投下されて、息が止まるかと思った。
「しかしそなたは断ったと聞いておる。」
そこまで知りながら、何で聞いてきたの?!
心の中は慌てだすが、何とか表情には出ないように抑え込む。
「今の私では、王太子妃にふさわしくありませんから・・・。」
「『今の』か。中々面白いことを言う。」
アルバート殿下と同じタンザナイトの瞳は、笑っているように見えて、何を考えているのか分からない底の深さがあった。
これが、一国を治める王というものか。
雰囲気にのまれてしまって、言葉を発することができない。
一気に緊張してしまった私を見て、陛下は微笑んで言う。
「そんなに固くなるな。今日はそなたをこの目で見てみたかっただけだ。」
ちょうどそこで、部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします。陛下、そろそろお時間です。」
シャルのお父さんであり、この国の宰相でもあるロレーヌ公爵様が陛下を呼びに来たようだ。
「わかった。執務室へ戻ろう。」
そう言って陛下が立ち上がったので、私も立ち上がって礼の姿勢をとる。
これで終わりだと少しホッとしたところで、陛下が振り返って言った。
「そうそう、我が妃もそなたに興味があると言っていたぞ。茶会の誘いがあるかもしれんが、よろしく頼む。」
なんと、王妃様まで私なんかに興味を持っているらしい。
「承知いたしました。」
動揺しながらも何とか返事をする。
陛下は満足そうに部屋を後にした。
私はといえば、扉が閉まって一人になると同時に、その場にへたり込んでしまった。
王族、恐るべし。
日本では社長さんがお客様として来てくれることもあったが、それとは違う迫力があった。
私は、その場で数回深呼吸を繰り返して心を落ち着ける。
そこでちょうど侍女さんが来てくれたので一緒に部屋を片付けて、仕事の為に王立病院へと向かったのだった。
それから数日後、国王陛下がおっしゃっていた通り、王妃様からお茶会の招待状が届いた。
正直ビビりながらも、断ることも出来ずに了承の返事をする。
アニエスさんが私を着飾るために張り切るのとは逆に、私は憂鬱になってしまった。
ちなみに、このことをアルバート殿下に話すと、
「母上まで?!いったい二人して何を考えているんだ・・・。」
と頭を抱えていた。
唯一の救いは、二人きりではないこと。
何人かのご令嬢も招待されているらしい。
シャルも参加するのだと聞いて、私は少しだけホッとした。
王妃様のお茶会で失礼があってはいけないので、改めてベルナール先生から作法を学んで、当日に挑んだのだった。
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