2-7 魔術師
その後、私はリフレクソロジーに魔法を取り入れるために実験を始めた。
最初の実験台は、もちろん自分である。
そもそもリフレクソロジーでは、深いいたわりの心を込めて足に触れるものだ。
そこで、それに魔力も追加して込めてみる。
結果、一つの事がわかった。
リフレクソロジーの基本動作は大きく二種類ある。
それは、特定の範囲を面で刺激する動きと、ある一点を押す動きだ。
魔力を込めるには集中力が必要なため、点を押す時の方がやりやすい。
そこで、まずは点を押す時だけ魔力を込めることにしてみる。
そしてもう一つ。
魔法の基礎の本に載っていた『ウォーミング』という呪文の練習だ。
これで自分の手を温めるのだ。
これまでも自分の手が仕事中は常に温かいように注意してきたが、この呪文を使えれば手軽だ。
これは魔法の基礎でもあるからか、わりと簡単に習得できた。
一通り自分の体での実験が終了したので、一番お願いしやすいアニエスさんに声をかけてみる。
「近々、仕事に魔法を取り入れようと考えているのですが、練習の為に足を貸していただけませんか?」
アニエスさんは少し驚いたようだが、快諾してくれた。
ウォーミングの魔法を使い、ポイントポイントで魔力を込めながら施術する。
魔力を込めるときは、物理的な力を込めるのと同様に、ゆっくりその量を増やして、ゆっくり減らす。
その時はしっかりアニエスさんの表情を確認して、負担をかけていないか観察する。
終わった後、アニエスさんに感想を聞くと、笑顔でこう答えてくれた。
「とても気持ち良かったです。私としたことが、少し眠ってしまいました。」
「一部、私の魔力を込めたのですが、不快感とかありませんでしたか?」
「いいえ。真綿でくるまれるような心地よさがあっただけです。」
そう聞いて、私はホッとした。
そうして、私は他の侍女さんやエリクさんとディオンさんにも足を借りた。
アルバート殿下の部下で、私の最初のお客様でもあるコンラッドさんにもお願いした。
試しにシャルにもお願いしてみたところ快く了承してくれたので、練習させてもらった。
練習の回数を重ねるごとに、込める魔力の大きさの調整や、相性の感覚もつかめてきた。
こうして、いよいよ私はお仕事に魔法を使うことにしたのだ。
施術を始める前にはコンサルとしてお客様とお話をする。
その時に、念のため魔力を込めてよいか確認をする。
そうして了承の取れたお客様にのみ、魔力を込めた施術を行った。
結果は上々で、以前よりもお客様からの評判が良い。
私はホクホク顔で仕事を終え、王城へ帰るのだった。
自分の部屋に帰ってみると、アニエスさんから国王陛下が私に会いたいと言っていると伝言を受けた。
何かやらかしてしまったのかと一瞬焦ったが、どうやらヒーラーとして仕事をしに来てほしいらしい。
そういう事であれば私に断る理由なんてない。
もちろん伺いますと返事をして、陛下に指定された日時には王立病院へ行けない旨を病院長のコンスタンさんへ手紙で知らせた。
次に、アルバート殿下へ相談をしに行った。
私の話を聞いた殿下は、初耳だったらしく驚いた顔をした。
「父上がマリナを?」
「ええ。なので、陛下にご指定いただいた部屋に、必要な設備を用意したくて。いつ、どのように準備するかを相談させていただきたくて来たんです。」
「わかった。それは俺とオリバーで手配しよう。・・・マリナ、そなたは大丈夫か?」
気づかわし気な殿下の視線に、私は苦笑して答える。
「実は少し緊張しています。でも、普段通りの事をするだけでしょう?」
「いや・・・。父上の事だから、それだけとは限らない。ヒーラーとして呼んだのは事実だろうが、その他の事も同時に考えている可能性がある。一緒に行ってやりたいが・・・。」
「実の息子とはいえ、人に見られていては心から寛げないのでダメです。」
「ああ。そう言うだろうと思っていた。だが、気を付けて行ってきてくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
こうして、国王陛下に会う日がやってきたのだった。
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