1-3 剣のナイト
ブクマ、評価、ありがとうございます!
「出ろ。」
そうしてしばらく待たされた後、先ほどの騎士から声をかけられた。
「はい。・・・あの、私はどうなるのでしょうか?」
不安いっぱいで思わず尋ねれば、
「この後、取り調べがある。それ次第で処分が決定するだろう。こちらへ。」
そう騎士が答え、また別の部屋へと連れていかれた。
今度の部屋は先ほどの部屋とほぼ同じで、しかしベッドは無く、中央に机と、向かい合わせに二人分の椅子が置かれていた。
「奥の席に座って待て。」
騎士に言われて、おとなしく席に着く。
少しすると、また違った男性が現れた。
銀色の髪は男性にしては長く、後ろで一つにまとめられている。
瞳の色はアメジストのような紫色だ。
中世ヨーロッパの貴族っぽい服装をしている。
年齢は私と同じくらいか。
「初めまして。私は王太子殿下の側近を務めております、オリバー・モンフォールと申します。」
(・・・疲れてる!この人めっちゃ疲れてる!)
そうなのだ。何よりも私が気になったのは、隠し切れないほど表に出ている疲労の色だった。
「初めまして。私はマリナ・ナカノと申します。この度は、勝手に建物内に侵入してしまったようで、申し訳ありません。」
とりあえず考えていた謝罪の言葉を述べながらも、つい観察してしまう。
顔色が悪い。目の下にはクマができている。
髪の毛も艶がなくパサついている感じで、少し乱れている。
動作もどこかぎこちない・・・っていうか、眠いのを無理して起きている感じだ。
「先ほどの騎士から、逃げる様子は無いと報告を受けました。何があったのか落ち着いて話してください。」
私の向かいの席に着くと、オリバーさんに問いかけられた。
「それが、私にもよく分からないんです。気が付いたらあの場所にいて・・・。あの、話しながらで構いませんので、手に触れさせていただいてもよろしいでしょうか?」
オリバーさんのあまりの疲れ具合に我慢できずにハンドリフレクソロジーをできないかと声をかけてみた。
リフレクソロジーは足に行うことが多いが、手や頭にも行うことができるのだ。
この部屋では足には行いづらいので、手を出してほしいとお願いしてみた。
これだけ疲れていれば、さぞや多くの老廃物があるだろう。
少しワクワクしてしまう。
「は?手、ですか?」
オリバーさんは怪訝な顔だが、私の言葉がいきなりすぎた事は自覚しているのでスルーする。
「はい。お嫌でなければ、お願いいたします。」
害意がないことを示すために、自分の両手を広げて見せる。
オリバーさんは怪訝な顔はそのままに、けれど手を出してくれた。
私は早速その手を取り、施術を始める。
「ブチュブチュブチュッ!」
始めた途端、すぐに体の中の老廃物がつぶれていく感触があった。
その後も、どこに触れても老廃物がたまっていて、全身疲労があることが伺える。
いったい、どうやったらこんなに疲れるのか。
「これは、何をしているのですか?」
オリバーさんに尋ねられ、すっかり仕事モードになった私は普段の接客のようにゆったり優しく答える。
「これはリフレクソロジーと言って、手に溜まっている老廃物を細かくしています。とてもお疲れのようですね。最近、お忙しかったのではありませんか?」
「確かに、ずっと忙しかったのですが、私の体の疲れが分かるのですか?」
「頭や神経に関わる反射区に特に多く老廃物が溜まっています。頭を使うお仕事が多かったり、精神的なストレスが多い感じがしますね。また、首、肩、腰にもお疲れがあるようです。もしかして、座りっぱなしの事が多いのではないですか?」
「その通りです。・・・ああ、何だか頭がスッキリしてきました。」
オリバーさんは目を閉じて、若干ホッとした様子だ。
「手は、第二の脳と呼ばれていますから。では最後に、私の合図に合わせて深呼吸をお願いできますか?」
「ええ」
オリバーさんの了承をもらえたので、私は自分の親指の腹をオリバーさんの手の中心付近にあるソーラープレクサスと呼ばれる場所にセットする。
「それでは。鼻から、ゆっくり息を吸ってー。」
合図をしつつ、ゆっくりと親指に自分の体重を乗せていく。
「ゆっくり息を吐いてくださーい・・・」
吐く息に合わせて、またゆっくりと親指の力を抜いていく。
「はい、お疲れさまでした。」
最後まで施術を終えた私は、オリバーさんへ微笑みかける。
オリバーさんは、閉じていた目をクワッ!と開いて、身を乗り出してきた。
「あなたは、ヒーラーなのですね?!」
急なことにビックリした私は、とっさに返事ができない。
「は・・・?え・・・?」
「あなた、人を眠らせることもできますか?」
勢いのまま続いて出た質問に、どうにか答える。
「えーと、普段は足に触れるのですが、お客様は8割か9割くらいの確率で眠ってくださいます。」
「できるのですね!!」
「た、たぶん・・・」
私の答えを聞いたオリバーさんはガタン!と椅子を蹴って立ち上がり、私の腕をガシッと掴んだ。
「眠らせてほしい人がいます!付いてきてください!」
「えぇ?!」
そうしてそのまま部屋を出ていく。
私は引きずられるようにして、連れていかれた。
連れてこられた部屋は、何やら豪華な部屋だった。
調度品はキラキラと輝き、カーテンも絨毯も艶々だ。
窓から差し込む光も美しい。
・・・が、雰囲気は重苦しかった。
部屋の中には数人の人がいたが、皆疲労の色が濃い。
中でも部屋の主らしき位置の机に座っている男性からは、どす黒いオーラが見えるかのような状態だ。
にも係わらず、その机の上には書類が山のように積まれている。
(ブラック企業の、社畜・・・?)
机にかじりついて仕事をしているようなので顔は見えないが、とりあえず常軌を逸していることは分かった。
「殿下、寝てください!」
そんな彼に向って、オリバーさんが声をかけた。
「オリバー、それが出来ないことはもう知っているだろう」
「ヒーラーを見つけました。とにかく寝室へ行きましょう!」
オリバーさんは社畜状態だった彼の腕も掴んで、また移動を始めた。
私は訳が分からないまま、引きずられ続ける。
そうして次に連れてこられた部屋は、これまた豪華な部屋だった。
部屋の奥の中央には天蓋付きの巨大なベッドが置いてある。
オリバーさんはそのベッドに男性を放り込むと私に言った。
「御覧の通り、この人は限界を超えています。眠らせてください。」
「わ、わかりました。」
「おい、オリバー。この者がヒーラーか?」
「そうですよ、殿下。早く横になってください」
オリバーさんの言葉に、殿下と呼ばれた彼は大人しく従うようだ。
私は再び仕事モードをオンにして、施術しやすい位置に横になってもらうようお願いする。
さあ、仕事だ。そう思うと自然と口角が上がる。
ここまで疲れた人の施術をするのは初めてだ。
いったい、どんな足をしているのか、ワクワクしてきた。
「俺の名はアルバート・デ・ロス・シュトライゼンだ。そなたの名は?」
社畜状態だった彼はアルバートというらしい。
初めて見たその瞳は、タンザナイトのような美しいバイオレットブルーだった。
「はい。本日担当させていただきます、私はマリナ・ナカノと申します。特にお疲れが気になる所はございますか?」
「全身、何もかもだ。よろしく頼む。」
「かしこまりました。よろしくお願いいたします。」
そう言葉を交わして、私は施術を始めた。
お読みいただき、ありがとうございました。