1-24 塔
連続投稿祭り 三日目の五本目です。
「あなたがヒーラーですのね。お名前はマリナ、だったかしら?」
リーダー令嬢の言葉に何だか嫌な予感がしつつも、淑女の礼をとる。
「はい。マリナ・ナカノと申します。」
すると彼女たちは、自分が名乗ることもせずに嫌味を言い始めた。
「どれだけ美しい方がいらっしゃるのかと期待していましたのに、残念ですわ。」
「あまりにも花が無くて、アルバート殿下しか見えませんでしたわ。」
「お美しいアルバート殿下とダンスするなんて、とても勇気がありますのね。」
「私なら畏れ多くて辞退していますわ。」
扇子で口元は隠しているが、それが醜くゆがんでいるのが目を見ただけで分かる。
「ねえ、マリナさん。あの程度のダンスしか踊れず、お美しい殿下のパートナーを務めるなんて、どんなお気持ち?」
「ぜひ聞きたいですわ。さぞやお辛かったでしょうね。」
ダンスの為に扇子というアイテムを持っていなかった私は、手で口元を覆って感情を抑え込もうとする。
ご令嬢たちからも目をそらした。
それでも感情が抑えきれず、小刻みに肩が震えてしまう。
「まあ!やはりあなた程度の女性では、殿下のお相手は務まりませんのね。」
そんな私を見て、ご令嬢たちはクスクスと笑い始める。
「失礼します。」
もう限界だ!と思った私は、その一言だけどうにか口にして、会場を後にした。
ドレスなので走ることは出来ないが、それでもできるだけ急いで移動した私は、夜会会場の近くにある休憩用の部屋へと入る。
扉を閉めて一人になると同時に、ぶふっ!と吹き出した。
「あははははは!何あれ!悪役令嬢ってマニュアルでもあるのかな?!」
そう。抑えていたのは涙ではない。笑いだ。
「テ・・・テンプレ過ぎる展開だよ!おかしい~~~!!!」
私はお腹をかかえて大爆笑する。
物語ではありがちなことだが、まさか自分がその当事者になるなんて思ってもみなかったのだ。
接客業をなめてもらっては困る。
世の中にはクレーマーという、無駄に声の大きい高圧的な人がいるのだ。
そういう人たちは、こちらに非が無くてもつっかかってくる。
そんなクレーマーに比べれば、あの程度の嫌味なんて大したことは無い。
私はダメージを受けるどころか、テンプレ通りの行動をした彼女たちに拍手を送りたい気分だ。
ひとしきり笑いまくった私は、長く息を吐いて気分を落ち着ける。
「あー、面白かった。」
そうつぶやいたところで、部屋の扉がノックされた。
「マリナ?ここにいるのか?」
扉越しに聞こえた声は、アルバート殿下のものだった。
「はい、います!」
私は慌てて扉を開く。
部屋に入ってきた殿下は心配そうな顔で私を見る。
「令嬢たちにつかまっていたようだが、大丈夫か?」
どうやら先ほどの出来事を見かけて、心配して追いかけてきてくれたらしい。
私は殿下を安心させるようにニッコリと笑った。
「はい。問題ありません。あの程度の魂レベルの方は相手にしませんから。」
「魂レベル?」
「日本の占い業界でよく使う言葉です。魂レベルというのは、簡単に言えば心の清らかさの度合いでしょうか。魂レベルが高いと、曇りがなく、不安や恐れもバネにして頑張れるようになるんですよ。」
そう話すと、殿下はホッとしたように「なるほど」と頷いた。
「そうか。心配は無用だったか。」
「いいえ。ご心配いただけたことは嬉しいです。ありがとうございます。」
ほんの一時だが、二人で微笑みあう。
「すまないが、俺はまた戻らねばならん。」
殿下はまだ挨拶が残っているらしい。
扉を開けると、そこには私の護衛の為に迎えに来てくれたエリクさんとディオンさんが来ていた。
二人と共に自室へと戻る。
大勢の前でダンスを踊るという不慣れなことをしたため、すっかり疲れ切っていたので、私は部屋に戻ると早々に寝る支度を整えてベッドへと潜ったのだった。
ありがとうございました。
連続投稿祭りはこれで終了となります。
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