1-23 杖のキング
連続投稿祭り 三日目の四本目です。
いよいよ夜会の日がやってきた。
アニエスさんを始めとする侍女さんたちが、普段以上に気合を入れて準備してくれる。
そうして飾り立てられた私は、別人のようになった自分を鏡で見て、相変わらずの技術に感心する。
準備が整った頃、アルバート殿下がエスコートの為に部屋に来てくれた。
「ああ、今日もきれいだな。」
優しく微笑まれて頬が熱くなる。
あれですか。
身分ある男性は女性をほめる義務でもあるんですか。
こちらは心臓がドキドキして大変なので、やめてもらいたい。
「ありがとうございます。殿下も、今日はいつもにも増して素敵です。」
私ばかり照れてしまって少し悔しかったので、ほめ返してみた。
しかし殿下は言われなれているのか、さして気にした様子もない。
「ありがとう。さあ、行くぞ。」
そう言って手を差し出してくれた。
私はマナー講義で教わったドレスでの歩き方を思い出しつつ、その手を取った。
夜会会場に着くと、侍従さんだと思われる人が扉を開き、殿下と私の到着を告げる。
途端に会場の中にいた多くの貴族らしき人たちの視線が私たちに集まる。
(ひぃえええぇぇぇぇ!)
私は心の中で悲鳴を上げる。
しかし、必死でポーカーフェイスを装い、柔和な笑顔を浮かべるように努力した。
これは、マナー講師のベルナール先生の教えである。
私は殿下のエスコートで会場の中央辺りまで進み、玉座だと思われる席に座っている男性の方を向いて止まる。
(あの方が国王陛下なのね。)
殿下と同じ髪と瞳の色から、一目で親子だと分かる。
しかし殿下よりも威厳があり、近寄りがたい神々しさがある。
私と殿下はその場で国王陛下へ礼をした後、向かい合わせに立つ。
楽団による音楽が奏でられ、私たちのダンスが始まった。
私のダンスレベルを知っている殿下は、何も話しかけてこない。
しかしダンスのリードの仕方で、私を気遣ってくれているのが分かる。
そんな殿下の気持ちにこたえるためにも、私は今できる最高のダンスをするべく集中した。
基本のステップに、ほんのわずかプラスアルファを加えただけの簡単な振り付けながら、何とかミスなく一曲を踊り終えた。
会場に拍手が響き渡り、私たちは改めて国王陛下の方を向いて礼をする。
ここからは通常の夜会が行われると聞いている。
役目を終えた私は退室してよいとも言われていた。
「アルバート殿下、見事なダンスでした!」
さっさと帰ろうと考えていたところに、殿下に話しかける男性の声がした。
「ギレム子爵か。」
話しかけられた殿下は、さすが自国の貴族の顔は把握しているようで、応対を始めた。
ギレム子爵と呼ばれた彼の目には殿下しか映っていないようなので、私は一人でそっと立ち去ろうと出口を目指して歩き始めた。
少しでもこの場にとどまって、何かやらかさないか不安だったのだ。
逃げるが勝ちなのである。
すると、私の行く手を阻むように、数人のご令嬢がやってきた。
どのご令嬢もとても美人で、中でもリーダーらしきポジションの女性は際立っていた。
しかし、私を見る目は、値踏みでもするかのような嫌な感じのものだった。
ありがとうございました。
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連続投稿祭りの詳細は、12/24の活動報告をご覧ください。