1-22 金貨のクイーン
連続投稿祭り 三日目の三本目です。
私のダンス特訓の日々が幕を開けた。
普段はマナー講義のある木曜日にしか着なかったドレスを毎朝着せられることになる。
朝食をとった後は王城内のホールに移動して、ダンスの訓練だ。
マナー講師でもあるベルナール先生がダンスも得意だというので教えてもらうことになった。
初めての先生じゃないだけ、少しホッとする。
曲目は既に決まっていて、ワルツだとのこと。
「ではまず、基本のステップから始めましょう。」
ベルナール先生はそう言って、「1・2・3」とカウントしながら手本を見せてくれる。
私はマネをしてみるものの、右足と左足がこんがらがって転びそうになる。
それでも、何度も練習しているうちに、だんだんと出来るようになってきた。
(これでも、幼稚園の頃の将来の夢は歌って踊れるアイドルだったんだから!)
そう自分を励ましながら練習していった。
「では次に、私と組んで今のステップをやってみましょう。」
まずは練習と言うことで、よく見る社交ダンスのあれではなく、対面に立って互いの両手をつなぐ組み方だ。
「私とは逆の足を動かすことになります。はい、右足を後ろに引くところから。」
先生はそう言って、またカウントしながら動き出す。
私は必死になりながら先生の動きについていった。
もちろん目線は足元だ。
自分の足と先生の足をしっかり見ながら行った。
その練習をしばらくすると、組み方が社交ダンスでよく見る形に変わった。
まずはその組み方での姿勢を指導されるが、体の右半分は先生に密着するので足元が見えなくなった。
また、両腕を上げっぱなしにするのも辛いし、胸を張って少し体を後ろにそらす感じになるので、背中がつりそうになってしまった。
「では、先ほどのステップをやってみましょう。」
先生は簡単そうに言ってカウントを始めるが、少しステップを踏んだところで足を間違え、先生の足を踏んでしまった。
「す、すみません!すみません!」
「誰でも最初にやる失敗です。気にすることはありませんぞ。」
そう先生は励ましてくれるが、この後も何度も先生の足を踏むことになった。
相手が殿下でないだけマシだ、とでも思わなければ、やっていられない。
そんな状態の私でも、毎日朝から晩まで練習していれば、多少はまともになってくる。
練習を始めて四日目は、いよいよアルバート殿下と組んでの練習となった。
「あの、殿下。私、さんざんベルナール先生の足を踏んでいたんです。殿下の足も踏んでしまうかもしれません。すみません!」
緊張状態の私は、アワアワとそう殿下に言う。
すると殿下は軽く噴き出して笑い始めた。
「まだ始めてもいないのに謝るな。足くらい踏まれても、どうということはない。」
そう明るく返されて、少しだけ緊張がほぐれた。
けれど、やっぱり全く失敗せずに踊れるはずもなく、私はそのたびに殿下と先生に謝ることとなった。
本来なら、ワルツのようなゆったりとしたダンスは、ダンスをしながら会話も楽しむものらしい。
しかし、たった一週間しか時間の無かった私にそんな余裕はなく、黙ったままで踊るだけならギリギリ見れる、というレベルが精いっぱいだった。
それでもどうにか一曲を踊り切れるようになり、いよいよ夜会当日を迎えることになったのだった。
ありがとうございました。
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連続投稿祭りの詳細は、12/24の活動報告をご覧ください。