1-21 金貨の7
連続投稿祭り 三日目の二本目です。
「マリナ様、嬉しそうですね。」
翌朝、アニエスさんにそう言われて鏡を覗いてみると、ニマニマしている自分が映っていた。
慌てて顔を引き締める。
「昨日、初めてのお茶会が成功して、ホッとして・・・。」
と、言い訳めいたことを口にしてしまう。
そして、本当はそうではないことを、私は自覚してしまった。
アルバート殿下が喜んでくれた。
そのことが、とてつもなく嬉しくて仕方がないのだ。
殿下の微笑みを思い出すだけで、顔が勝手にニマニマしてしまう。
(これって、恋愛的な意味で好きってことなのかな・・・?)
殿下の身分を考えれば畏れ多いことなのだが、心臓は勝手にドキドキとしてしまう。
そして、考えまいとしても、殿下の顔が頭の中をちらつくのだ。
一応、日本の成人女性として、初恋は学生時代にもう済ませている。
しかし働き始めてからもう何年も、恋どころか男性とは縁のない生活をしていたので、こういう時にどうしたら良いのかがわからない。
(でも、身分が違い過ぎるもの。私の片思いで終わりね。)
見返りを求めず、勝手に一方的に好きでいる分には問題ないだろうと結論付けた。
王太子である以上、いずれは相応しい身分の女性と結婚するだろう。
それを祝えるかどうかは不安だが、その時に悩むことにして、今は考えないことにした。
そして、私が殿下の為に出来ることといえば、殿下の国の皆さんのお疲れをとること。
(よし、今日もお仕事がんばろう!!)
私は気合を入れなおして、王立病院へと向かったのだった。
そうして、お客様の笑顔に支えられて充実した毎日を過ごしていたある日。
アルバート殿下が私の部屋を訪ねてきた。
「近く、王家主催の夜会がある。そなたにも出席してもらうことになった。」
「・・・はい?」
夜会って、あの夜会?
貴族の人たちが集まって、ダンスしたり談笑したりする、アレ?
私、庶民なんで、関係ないと思うのですが・・・。
そんな気持ちを込めて殿下を見ていると、再び殿下が口を開いた。
「すまないが、これは決定事項だ。断ることはできない。」
真剣な顔でそう言われてしまって、私は黙る事しかできない。
殿下の後ろに控えていたオリバーさんが、理由を説明してくれた。
「この大陸において、ヒーラーの人口は一種のバロメーターでして、その国の平和の度合いを示すんですよ。ヒーラーの職に就く人々は争いごとを嫌う傾向にあります。それ故にヒーラーの人口が多いことはその国が平和である証拠になるのです。この機会にマリナさんを貴族たちにお披露目して、シュトライゼン王国は平和を取り戻しつつあるのだと、そう世の中に示したいのです。」
「なるほど・・・。理由はわかりました。でも、私は夜会に出席できるほどマナーが完ぺきではありませんが、大丈夫でしょうか?」
そう。心配なのはそこだ。
何か失態をやらかして、私を保護してくれている殿下たちの評判にまで傷をつけることになるのではないだろうか。
「マリナのエスコートは俺がする。当日は俺と一曲踊ったら下がってよいと父上の許可をとってあるから、安心していい。」
「いや、私、踊れませんよ!」
慌ててそう言うと、オリバーさんがニッコリ笑って言った。
「今日から夜会の日まで、ヒーラーの仕事はお休みです。頑張って特訓しましょうね!」
そういうことですか?!
私は若干あおい顔になりながら、恐る恐る尋ねる。
「あの、その夜会って、いつですか?」
「一週間後だ。」
殿下の答えにめまいがした。
たった一週間で、一曲だけとはいえ、踊れるようにならなければならない。
ちなみに、私は学校の体育の授業でダンスをしたことがあるだけだ。
あとは、小学生の頃に盆踊りくらいはやっている。
その程度のスキルしかないというのに、大勢の見ている前で、殿下と踊るのか。
そう思うと気分が暗くなるばかりだった。
ありがとうございました。
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