1-17 杯のキング
連続投稿祭り 二日目の三本目です。
そうして翌日、さっそく魔法道具を起動させて音を流すと、一気に部屋の雰囲気がやわらかくなった。
王立病院のスタッフの人たちにも聞いてもらったが、みんなも心地よいと感じるようだ。
(やったぁ!)
心の中でガッツポーズをする。
それからいつものように仕事を開始したのだが、数人目のお客様は知っている人だった。
「コンラッド様、いらっしゃいませ。」
そう、アルバート殿下の部下で、王立病院での私の最初のお客様であるコンラッドさんが再び来てくれたのだ。
「殿下から色々と改善していると聞いて来てみたのですが、ますます落ち着ける部屋になりましたね。」
コンラッドさんからもお褒めの言葉をいただき、嬉しくなる。
「ありがとうございます。その後、睡眠はいかがですか?」
前回、眠りが浅いのだと話していたことを思い出し、尋ねてみる。
「あれ以来、普通に眠れるようになりました。助かりました。」
「それは良かったです。本日はお疲れが気になる部分はございますか?」
「最近は書類仕事ばかりで、目と首肩が気になります。」
「承知しました。では、目、首、肩に関わる部分を重点的にほぐしますね。」
そう言って、施術を開始した。
お疲れの内容から言って、足裏の刺激だけでなく、首肩も直接ほぐした方が良いだろうと判断した私は、先に首肩に触れる。
確かに硬くこっているようなので、それをほぐしていく。
その後、足裏の目、首、肩に関わる反射区も重点的に刺激する。
その分、あまりお疲れが溜まっていなさそうな部分は軽くして、時間を調整する。
そうして他のお客様たちと同じ、五十分間の施術を終了した。
「コンラッド様、お疲れ様でございました。いかがでしたか?」
「いやぁ、すごくスッキリしました!また仕事に打ち込めそうです。」
「ありがとうございます。おっしゃっていた通り、首肩がこってらっしゃいましたね。特に目の反射区のお疲れが目立っていたので、目の疲労からのこりかもしれません。お仕事に集中することも大切ですが、見る距離を時々変えてあげるだけでも目のストレッチになりますので、よろしければお試しください。」
「わかりました。」
その後、いつものようにハーブティーをお出しする。
今日のお茶はハイビスカスティーだ。
赤くて酸味のあるハーブティーで、目の疲労回復にも良いだろう。
それを飲んで一息ついた後、コンラッドさんは笑顔で帰っていった。
それ以降も、基本的にはご新規のお客様がメインだったが、時々リピーター様も来てくれるようになってきた。
リピーター様がいなければ、商売は成立しない。
大切にしていかなければと、改めて決意した。
ところで、私にはここ数日悩みごとがある。
それはアルバート殿下からいただいたワンピースのお礼をどうするか問題だ。
一日の仕事を終え王城に帰ってきた私は、自分の部屋に向かう途中の回廊で、オリバーさんを見かけて声をかける。
「オリバーさん、お疲れ様です。」
「おやマリナさん。お疲れ様です。今お帰りですか?」
突然声をかけたのにも関わらず、オリバーさんは笑顔で対応してくれる。
「はい、そうです。あの、オリバーさんに相談したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
少しはイケメンに慣れてきた私は、何とか普通に会話をする。
「もちろんお受けしますよ。どうなさいましたか?」
「先日、アルバート殿下からワンピースをいただいてしまったので、何かお礼ができないかと考えているのですが、良い案が思い浮かばなくて困っているんです。」
「殿下なら、マリナさんが自分の贈った服を着てくれただけで充分喜んでいらっしゃいましたよ?」
「いや、それだけでは私の気持ち的に納得できなくて・・・。」
そう相談すると、オリバーさんは軽く握った手を口元にあてて、少し考えてくれた。
「ふむ・・・。それならば、守り石をお贈りするのはいかがでしょう?」
「守り石、ですか?」
「ええ。健康やお金のことなど、様々な願いを込めた石をプレゼントするのです。石は高価な宝石から安価なものまで様々ありますので、民の間でも贈りあうことが多いようですよ。」
つまり、日本で言うお守りやパワーストーンのような物が、この世界にもあるのか。
「それは良いアイディアですね!・・・あ、でも私、お金が・・・。」
「ご安心ください。間もなくマリナさんへお給金をお支払いできるはずなので。」
「え!お給金が出るんですか?!」
初耳である。
というか、衣食住を提供してもらっているのに、さらにお金までいただいて良いのだろうか。
「マリナさんの仕事ぶりや評判を確認したうえで金額を計算しています。正当な報酬ですから、安心してお受け取りください。」
「そうだったんですか?!ありがとうございます!」
こうして私は、初めてのお給金で殿下に守り石をプレゼントすることを決めたのだった。
ありがとうございました。
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