1-14 金貨の3
連続投稿祭り 一日目の五本目です。
次の木曜日。
またしてもマナーの講義でぐったりと疲れてしまった私は、アニエスさんに手伝ってもらいながらドレスを脱いでいた。
先週と同じように楽な服に着替えようとしていると、アニエスさんが青いワンピースを用意してくれた。
「こちらは、本日届いたばかりのものですわ。」
「もしかして、アルバート殿下からの・・・?」
ワンピースの青が、殿下の瞳の色にそっくりでピン!ときた私が尋ねると、アニエスさんがものすごく良い笑顔で頷いた。
早速着てみると、さすがオーダーメイドなだけあって、私の体にピッタリだ。
上質な布が使われているらしく、着心地がとても良い。
全身が映る鏡の前に立った私は、くるんと一回転して後ろも確認する。
スカート部分にも生地がたっぷりと使われているようで、ふわりと広がった。
やばい、何このワンピース。
すごくときめく!
着ただけで気分がウキウキしてしまう。
講義の疲れなんてどこかへ行ってしまった。
「アニエスさん。アルバート殿下にお礼を言いたいのですが、お忙しいでしょうか?」
「殿下から、マリナ様がこの服を着たら、ぜひ見せに来てほしいと伝言をお預かりしております。この時間なら執務室にいらっしゃるかと思いますので、伺ってみてはいかがでしょう?」
そう言われ、早速私は殿下の執務室を訪ねてみた。
執務室の扉をノックする。
「マリナです。アルバート殿下はいらっしゃいますでしょうか?」
扉越しに名乗ると、すぐに扉が開けられた。
なんと、アルバート殿下が自ら扉を開けてくれたらしい。
私の姿を見て、目を細めてくれた。
「ああ。よく似合っている。」
ドキドキでいたたまれなくなった私は、うつむき気味で返事をする。
「ありがとうございます。あの、こんな素敵な服を贈っていただいて、とても嬉しいです。本当にありがとうございます。」
「俺の方こそ、着てくれてうれしいぞ。」
扉のところで立ったままやりとりしていると、部屋の中のオリバーさんから声がかかった。
「殿下、せっかくマリナさんがいらしてくれたんですから、座って話されてはいかがですか?」
私はオリバーさんの声にハッとする。
うっかり他の人がいることを忘れて、殿下しか見ていなかった。
恥ずかしい・・・!
顔を赤くした私を、殿下はスマートにエスコートしてソファに座らせてくれた。
「あの、お仕事中にお邪魔してしまって、すみません。お礼を伝えたかっただけなので、すぐにお暇します。」
オリバーさんがお茶の用意をしようとしていたので、慌ててそう告げる。
「その服が城に届いたと聞いて待っていたんだ。仕事のことは大丈夫だから、もう少しいてくれ。」
殿下はそう言うし、オリバーさんはサクサクとお茶を用意してしまうので、私は仕方なくソファに座りなおした。
「王家御用達の仕立て屋に作らせたのですよね?相変わらず、良い出来です。お似合いですよ、マリナさん。」
「ありがとうございます。」
オリバーさんにも褒められ、ますます恥ずかしくなってくる。
しかも、あの服屋さんは王家御用達だったのか。
この服の値段は、知らない方が良いかもしれない。
「とても着心地が良いし、デザインも可愛いです。すっかり気に入ってしまいました。」
照れながらもお礼を言いに来たのだからと自分を鼓舞して気持ちを言葉にする。
「気に入ってくれたのか。良かった。」
私の言葉を聞いて、殿下の機嫌が良くなったような気がする。
ところが。
「今度は私からも贈り物をさせてください。」
というオリバーさんの言葉で、一気に不機嫌な顔になった。
「いえ、あの、いただくばかりでは申し訳ないので・・・。」
「オリバー。あまりマリナを困らせるな。」
私が遠慮がちに断りの言葉を口にすると、殿下がピシャっと言ってくれた。
いや、殿下も私が断ってるのにむりやりプレゼントしたよね?!
自分のことは棚上げですか?!
内心、ツッコミをいれるが、もう貰ってしまったものは仕方がない。
(何か、お礼にできることがないか考えよう。)
そう私が考えている横で、殿下とオリバーさんは何やら言い合っていた。
「困らせるつもりはありませんよ。日頃お世話になっているお礼です。」
「それは俺から贈ったから、もういらん。」
「殿下は結構、心が狭い方だったんですねぇ・・・。」
「どういう意味だ。」
「いえ、別に。仕事にさえ支障をきたさなければ結構ですよ。」
「俺が仕事を疎かにするわけがないだろう。」
「はい。存じ上げております。」
漫才のような会話のテンポの良さから、二人が仲良しだと感じられる。
思わずクスクスと笑ってしまった私は二人に声をかける。
「お二人は仲がよろしいんですね。」
すると殿下とオリバーさんは一瞬だけ「え?」という顔をした後、苦笑した。
「俺たちは幼馴染なんだ。物心ついた頃から一緒にいたからな。」
「もう二十年近い付き合いになりますね。」
なるほど。
だから王太子とその側近という立場でも、お互いに気の置けない会話ができるのか。
「私にはそこまで長い付き合いの友人はいませんので、お二人が羨ましいです。」
今も付き合いのある友人で古株と言えば、高校で知り合った人ばかりだ。
そして、その友人とも、この世界では会えないのだと気づいて、少し心が痛んだ。
「付き合いが長くなくとも、気の合う友人はできる。」
すこし寂しそうにした私に気付いたのか、殿下が元気づけてくれた。
「そうですね。この世界でも良い友人が出来るように頑張ります。」
笑って答えて、私は自分の部屋に戻ることにした。
本日の連続投稿はこれで終わります。
また明日のお昼に投稿しますので、よろしくお願いします。
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連続投稿祭りの詳細は、12/24の活動報告をご覧ください。