1-10 金貨の9
連続投稿祭り一日目の一本目です。
翌日。
不安からほとんど眠れなかった私は、寝不足状態で朝を迎えた。
しかし、色々と良くしてもらっている恩返しを仕事ですると決めていたので、気合で朝の支度をして王立病院へと向かった。
これまでは体の疲労を訴えてくるお客様ばかりだったので、全員にリフレクソロジーを行っていたのだが、今日は少し違った。
城下町で野菜やフルーツを売っているという女性からの悩み相談があったのだ。
「最近、売り上げが伸び悩んでいて・・・。品物自体の質は戦後の復興とともに良くなってきたけど、値段を上げても客が離れないか心配で、食事もまともにとれないんだよ」
「それでしたら、お仕事について占ってみましょうか?」
「ああ、是非お願いするよ!」
お客様の了承も取れたので、さっそく私はタロットカードを用意する。
お客様にはソファでお茶を飲んでもらいつつ、すぐ前のテーブルでカードをシャッフルする。
今回はギリシャ十字というスプレッドで五枚のカードを十字になるよう展開していく。
「現状がカップのキングですね。結構、世話好きですか?」
「おや、よくわかるね。実はうちの客は貧しい人も多いんだよ。そういう客には、傷んで売り物にならない品をおまけで付けたりするんだ。」
「お優しいんですね。障害となっていることのところに、塔のカードが出ています。何か、予期せぬトラブル等の心配がありますね。」
そう告げると心当たりがあるのか、お客様は渋い表情になった。
「傾向のところにはソードの6が出ています。最低限の変化は必要なのではないでしょうか。対策のところは愚者なので、これまでにない斬新な変化も有りだと思います。そして、結果のところにペンタクルのキングが出ています。これはとても良いカードで、経済的な安定を表します。」
渋い表情が、まじめなものへと変わっていく。
「これまでの人間関係や思いやりを活かして、最低限の改革をすれば、うまくいくのではないでしょうか。」
占い結果をそうまとめると、お客様は深く考えているようだった。
「・・・うん。何となくだが、自分がどうするべきかが見えてきたような気がするよ。ありがとう。」
少しして、お客様はそう言葉にして笑ってくれた。
「まだすこし時間に余裕がありますので、軽く首肩をほぐしましょうか?」
そう言って、お客様の後ろに回り、軽く肩もみをしてからお見送りした。
今後もこういった相談が来るかもしれない。
占いについても経験を積んで精進しようと思う出来事だった。
翌日は木曜日だ。
前日よりは幾分眠ることができた私は、朝からアニエスさんにドレスを着せてもらい、マナーの講義を受けに向かう。
場所は王城内の一室。
先日侵入者があったばかりなので、少し城内の騎士の皆さんにも緊張が見える中、部屋へと入っていった。
中には一人の男性がいた。
紳士という言葉をそのまま形にしたようなおじ様で、とても品が良い。
「初めまして。私が講師のベルナールと申します。」
「初めまして。私はマリナと申します。よろしくお願いします。」
互いに挨拶をかわす。
もちろん私は日本式に腰を折って頭を下げる。
「礼の仕方が違いますな。本日はそこから始めましょう。」
早速ダメ出しが出てしまった。
こうして私は、ドレスでの立ち居振る舞いから学んでいくことになった。
カーテシーという礼の仕方や、ドレスを着た時の歩き方、立ち方、座り方。
リフレクソロジーとは違う筋肉を使うらしく、背中や脚がつりそうになりながらも必死で練習した。
ランチも食事マナーの勉強になってしまい、食べた気がしない。
もはや頭の中がグルグルである。
しかし自分で望んだものだ。やるしかない。
頑張れ!私!!
自分で自分を鼓舞しながら一日を過ごした。
仕事に支障が出てはいけないから、との理由で、午後の早めの時間に講義は終了となり、自分の部屋へと戻ってきた。
「つ・・・疲れた・・・。」
アニエスさんに手伝ってもらってドレスを脱ぎ、楽なワンピースに着替えた私はソファに沈み込んだ。
「お疲れ様でございます。マリナ様。」
クスクスと笑いながらアニエスさんが紅茶とお菓子を用意してくれる。
私は早速お菓子に手を伸ばし、一つ食べた後に紅茶を一口飲む。
「はぁ・・・美味しい・・・。アニエスさん、素晴らしいです。ありがとうございます。」
最高に癒された私がそう言うと、アニエスさんはニッコリして答えてくれた。
「マリナ様のお口に合って良かったですわ。」
そこで、部屋の扉がノックされた。
すぐにアニエスさんが対応に向ってくれる。
いったい誰だろうと思っていると、ノックをした人物が部屋へと入ってきた。
「マリナ。突然すまない。話があるのだが良いか?」
「アルバート殿下?!」
そう。やってきたのは殿下だったのだ。
驚いた私は慌てて対面のソファを勧める。
「どうぞ、おかけください。アニエスさん、お茶をお願いできますか?」
「かしこまりました。」
できる侍女のアニエスさんは、すぐさま殿下の分のお茶を用意してくれた。
それを一口飲んで、殿下が話し始める。
「そなたを襲った暗殺者の件だ。」
「はい。」
私も背筋を伸ばして殿下の話を聞く。
「すまない。取り押さえることも、正体をハッキリと確認することもできなかった。だが、侵入経路については特定できた。今後はあのような者の侵入は許さないから安心してほしい。」
「わかりました。」
「おそらくは隣国の残党が雇った者だろう。終戦から二か月も経つのに、しつこいことだ。」
やや不機嫌そうな顔をして言う。
「また、お疲れが溜まってきているのではありませんか?私でお役に立てることがあれば、いつでも呼んでください。」
表情に疲労の色も見える気がして、そう声をかける。
すると、ふっと殿下が微笑んだ。
「ありがとう。そなたは優しいな。」
相変わらずの破壊力に、心臓が飛び出しそうになる。
ふと、何かを思い出したように殿下が口を開いた。
「そなたは、オリバーと仲が良いのか?」
「オリバーさん、ですか?アルバート殿下と同じようにお世話になっていますが、仲が良いというわけではないと思いますが・・・」
何故急にそんなことを聞かれるのかと疑問に思いながら答えると、殿下の顔にわずかに嬉しそうな色が浮かんだ。
「そうか。いや、すまない。気にしなくていい。」
「はあ・・・。」
よく分からないが、とりあえず了承しておく。
「俺はまだ仕事があるから戻ることにする。またな、マリナ。」
「はい。ありがとうございました。アルバート殿下。」
殿下は颯爽と私の部屋から出ていった。
最後に私の名前を呼んだ声に、甘さが含まれていたような気がするのは、私の妄想だろうか・・・?
お読みいただき、ありがとうございました。
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連続投稿祭りの詳細は、12/24の活動報告をご覧ください。