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1-1 剣の6 

はじめまして。

成人女性の異世界転移小説、始まります。

よろしくお願いします。

「ありがとうございました」

駅ビルの片隅にあるサロンから、にっこり笑顔でお客様をお見送りする。

私はこの瞬間が一番好きだ。


私、中野(なかの) 真梨菜(まりな)は24歳のリフレクソロジストだ。

リフレクソロジストとはリフレクソロジーをする人のことで、リフレクソロジーとは反射療法のことだ。

私が勤めるサロンは英国式なので、痛くない足つぼマッサージとでも思ってもらえば分かりやすいだろうか。

主に足裏を優しく刺激することで、反射している体の個所が楽になるのだ。

そんなサロンにいらっしゃるお客様方は、基本的に疲れている人ばかりだ。

病院にかかるほどではないが、疲労で体に不調が出てしまっている人が多い。

自然と来店時は暗い表情になりがちだ。

しかし、施術を受けて帰るときには、たいていスッキリとした笑顔になっているのである。

それを見られる事が、私の喜びなのだ。

人々を癒すことこそが私の使命なのだと思っている。

その為に、リフレクソロジーだけでなくアロマテラピーの勉強もしたし、タロット占いやパワーストーン等のスピリチュアル系のものにも興味があり、趣味として楽しんでいる。

体よりも心が疲れている友人などには、占いで前向きなアドバイスをしたり、お守りとしてパワーストーンのおすすめを教えている。

今日は早番だったので、仕事の後で友人と約束がある。

悩みがあるので占いってほしいとのことで、パワーストーンのショップへも行く予定だ。

「お先に失礼します。」

同僚に小声で挨拶して、サロンを出る。

小声なのは、お客様が眠っていることが多いからだ。

スタッフの話し声で起こしてしまってはいけない。

サロンの中は癒し系のBGMが流れ、アロマも香っている。

そして何より、リフレクソロジーはぐっすり眠れるほど気持ち良いんだよねー。

そんなことを考えつつ、友人との待ち合わせ場所へと向かった。


「真梨菜!お疲れさま!」

先に到着していたらしい友人の花音(かのん)が声をかけてくれる。

「花音、お待たせ。」

「私も少し前に着いたところだよ。いつものカフェで良い?」

「もちろん、良いよー。」

学生時代からの付き合いだ。

気の置けない友人といるのは楽だ。

そこまで暗い感じは無いが、悩みとは何だろうか。

そう考えながら、二人で近くのカフェへと移動した。

「実はね、転職を考えてるの」

カフェに入り注文を済ませた後、花音が切り出した。

「今やってる事務みたいな、誰でもできる仕事じゃなくて、私らしく働ける仕事がしたいなって思ってるんだ。だって、真梨菜っていつも楽しそうに仕事してるし、羨ましくて。」

「いや、私もいつも楽しいわけじゃないよ?下心アリの男性のお客様の施術とか気持ち悪いし」

苦笑しながら答える。

「まあでも、天職だと思ってはいるね」

「でしょ?!私も天職を見つけたいの!!」

花音が身を乗り出して主張する。

「分かった。とりあえず占ってみようか。」

そういって、私はカバンから一組のタロットを取り出した。

タロットというと怖い絵柄を想像する人も多いのかもしれないが、最近は色々なタロットが売られている。

私が愛用しているのは花を持ったうさぎが描かれた、可愛らしいデッキだ。

裏返しのままテーブルの上に広げて、右回りでぐちゃぐちゃとシャッフルする。

その後、ひとまとめに揃えて左手で3つに分け、順番が同じにならないように再びひとまとめにする。

上から6枚を横によけて、7枚目以降をテーブルに並べた。

スプレッド(並べ方)は、有名なケルト十字だ。

「まずは現状とキーになるカード」

そう口にしつつ、中央に2枚重ねたカードをめくる。

「現状でペンタクルの4が出てて、キーカードはワンドのクイーンだね。今の仕事を辞めるのに、お金の不安があるんじゃない?よほどの情熱が無いと、転職できなさそうだよ」

そう言うと、花音がすこしギクリとした顔になった。

「建前のところにはペンタクルの10が逆位置で出てる。実はお給料には満足しているのに、それへの感謝の気持ちを忘れちゃダメ。潜在意識のところにはカップのクイーンが出てる。花音は優しいから、思いやりをもって仕事をすることが大事みたいだね。最近、以前から薄々感じてたことが実際に起こったってことはない?」

「尊敬してた先輩が、妊娠を機に辞めちゃったんだよね・・・」

「そっか。でも、近々新しいパートナーに恵まれるっぽいよ。」

そう言って、カップの2のカードを見せる。

「ここのワンドの3は、花音が転職したいって言ってることを表してるみたいだね。何か転職活動で保留にしてたことは無い?それが動き出しそうなんだけど・・・」

「転職サイトに登録はしたけど、それっきり見てないなー。」

「恐れるもののところに、ワンドのエースが逆位置で出てる。感情に任せて行動することはお勧めしないなー。最終結果は節制か・・・。花音の場合、重要なのは思いやりの心みたいだね。看護師とか介護職とか。あとはワークライフバランスも大事かな。とりあえず、その先輩の代わりの人が来るまで待ってみたら?今の職場でも思いやりをもって仕事することは可能でしょう?」

そう語りかけると、花音は少し考えてから口を開いた。

「たしかに、先輩は皆が仕事をしやすいよう気をまわすのが上手かったな。真似してみようかな。」

「そうそう、事務だって、誰でもできる仕事じゃないよ!」

そう力強く言うと、花音はニッコリしてくれた。

「だよね、ありがとう!元気出たよ!」

よかった。また一人、笑顔にできた。

「そしたら、この後は対人関係をサポートしてくれるようなパワーストーンを見てみようか。」

「賛成!」

そうしてこの後、花音は私が勧めたピンクアクアマリンのネックレスを購入して家路についた。


花音と別れ、一人になった帰り道、何か違和感を感じた。

上手く説明できないが、誰かに呼ばれているような、そんな感じだ。

スピリチュアルが好きな私は、こういった勘に従ってみることにしている。

私を呼んでいる気がするのは、公園の中央付近にある大きな木のようだ。

広がった枝葉は、秋に向けて少しずつ色づいている。

「なあに?」

何となく木に語り掛けながら、手を伸ばして木に触れた。

その瞬間、突然眩い光に包まれてしまい、思わず目を閉じる。

次に目を開けた時には、私は全く違う場所に立っていた。










お読みいただき、ありがとうございました。

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