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01 神狩りたち

 降り積もる雪は膝の高さまでになり、俺の歩みはさらに鈍くなった。


「ゲコッ! おい、スカイ! もっと速く登れねぇのか!」


 鋭い風切り音とともに鞭で尻を打ち据えられ、危うく前のめりに倒れかける。

 今の俺はかなりの重量の『荷物』を牽引しているので、膝でも付こうものなら起き上がるだけでも大変だ。


「やめろ、フロッグ。俺はお前たちをソリで引っ張ってるんだ。何かあったらどうするんだよ」


「ゲコッ!? おい、スカイ! なんで『男爵』であるゲコにそんな言葉遣いなんだよ!

 まさかいまだにゲコたちの家族だなんて思ってるんじゃないだろうな!?

 『廃爵』されたお前はただの使用人なんだよ!

 役立たずの使用人は鞭で叩いて当然!

 叩かれたくなかったら、さっさと登れ! 口答えするな!」


「これ以上急がせたかったらマスクをくれよ。俺は高度1万メートルでマスクなしなんだぞ」


 ソリに乗っている俺の兄弟たちは、みんな魔法練成のマスクを着用していた。

 これには顔を寒さから守るだけでなく、空気の薄い場所での呼吸補助、防毒などの機能がある。


「ゲコッ! お前がマスクをしたら、毒があったときにわからねぇだろうが!

 お前は犬ぞりの犬で、鉱山のカナリアなんだよ!

 でも犬やカナリアのほうがまだマシだぜ! 無駄口を叩かないんだからな! なぁ!」


 フロッグが言うと、兄弟たちがどっと笑った。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 今回のクエストの目的地は、俺たちの住むセイクルド王国にある、霊峰シルバーフォールの頂上付近。

 そこにある渓谷に巣食う神竜、『ハザマノカミ』を狩ること。


 『神狩り』である兄弟たちは、戦いに備えて体力を温存、雑用係である俺がみなをソリに乗せて雪山を登山していた。

 俺はその途中、わずかではあるが、雪が不自然に盛り上がっている所を見つける。


「フロッグ、モンスターの待ち伏せだ。たぶん、スノーゴブリンだ」


「ゲコッ!? なんだとぉ!?」


 俺は気付いていることがバレないように声を潜めて伝えたのだが、リーダーであるフロッグが大声を出してしまったせいで、潜伏していたスノーゴブリンたちが一斉に飛び出してきた。

 兄弟たちはソリから飛び降り、武器を掲げる。


「ゲコッ! 神が堕ちた今、空を制する我らこそが神! 我らは、空になるっ!」


 俺たちハイランダー一族に伝わる戦いの前の宣誓をし、勇ましく突撃していく兄弟たち。


 俺は戦いの邪魔にならないように端っこによける。

 雪崩防止のため腰に提げていた、雪の精霊』を鎮めるポーションをあたりに振りまいて、兄弟たちの行く末を見守った。


「ゲコオッ! 一発でキメてやるっ!」


 スノーゴブリンたちの前で地を蹴り、跳躍するフロッグ。

 さすがは『神狩り』一族のエースと呼ばれているだけあって、そのジャンプ力には定評がある。


 その高さは、なんと俺の身長の3倍近くに達した。


「ゲコオッ! フライング・タン・トルネードっ!!」


 大空の覇者のごとく空を舞うフロッグは、彗星のごとき急降下で鞭を振り下ろした。

 衝撃で爆発するように雪が舞い上がり、スノーゴブリンたちをまとめて吹き飛ばす。


 その時、俺は思っていた。

 いや、ずっと思っていた。


 俺に少しでも戦いの技能(スキル)があったら……。

 あんなふうに戦えるようになるのになぁ……。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 道中のモンスターを難なく全滅させ、俺たちは頂上付近にある渓谷に来ていた。

 目の前には世界の裂け目のような、大きな溝が横たわっている。


 この谷底に、今回のターゲットである『ハザマノカミ』がいるという。

 俺はあらかじめ用意しておいた、とぐろを巻く大蛇のようなロープを抱え、崖っぷちで降下の準備を進める。


 すると、フロッグが俺に向かって言った。


「ゲコッ! おいスカイ! 降りる準備はしなくていいぞ!

 わざわざ降りるなんてめんどくせぇ! ヤツを引きずり出すんだ!」


「もう準備は終わったよ。それよりも引きずり出すなんて無理だろ。

 『ハザマノカミ』を谷底から呼び出すには生贄が必要なはずだ。

 それも、人間を生贄にしなきゃダメなはずだが……」


 俺はそこで、俺を取り囲む兄弟たちの視線がただならぬものであることに気付いた。


「なっ……!? まさか、この俺を谷から落として生贄にするつもりか!?」


「ゲコココ! そう、そのまさかだ!

 スカイよ、お前は『廃爵』から、『追放』されることに決まった!

 お前みたいなジャンプ力しか能がない者にいつまでもしがみつかれては、我らハイランダー一族の汚点にしかならないからなぁ!」


「なんだって!? たしかに俺はジャンプ力しか取り柄がないさ!

 でも俺なりに一族の支えになろうとしてるんだぞ!

 きっと(おさ)であるヒラクル様も、それを評価してくださっているはずだ!」


「ゲコッ! 『神狩り』の一族には、戦えぬ者はいらぬ!

 これがヒラクル様からのお言葉だ!

 かわいそうになぁ! お前のがんばりは、まったくの無駄だったってわけだ!」


 フロッグは『フライング・タン・トルネード』の構えを取る。

 俺は一縷の望みをかけて叫んだ。


「そんなことをしたら、お前がやったのがすぐバレるぞ!

 技能(スキル)で負傷した人間には、『スキル痕』が残るのを知らないわけじゃないだろう!?

 そしたらお前は人殺しだ! それでもいいのか!?」


「ゲコココ! その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!

 『スキル無罪』を知らないわけじゃないだろう!?」


 『スキル無罪』。それは移動系スキルにおける巻き添えは罪には問われないというもの。

 さらに攻撃系スキルの場合、直接ターゲットにしない巻き添えであれば罪には問われないというもの。


 これは爵位を持つ者だけに与えられた『特権』のひとつ。


 俺はあとずさろうとしたが、後ろには崖っぷち。

 フロッグはカエルを追いつめた蛇のように舌なめずり。


「ゲコココ! お前はずっと気に入らなかったんだ!

 スキルを直撃させられないのは残念だか、こうしてトドメを刺せるのは最高だぜぇ!

 さあっ、『堕ち』ろぉっ!

 この谷底から、そして我が一族からも!

 フライング・タン・トルネードぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!」


「やっ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 ……ズドォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 俺の足元で爆発がおこる。

 そのままゴミクズのように宙に舞い上げられ、ダストシュートのような暗闇に落ちた。


-------------------爵位一覧


大公

 ヒラクル


侯爵


伯爵 


子爵


男爵

 フロッグ


廃爵


追放

 ↓降格:スカイ


-------------------

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