インクの出ないペンです。図書館で置き去りにされました。
深夜ではないのに深夜テンションです。
頭の中を空っぽにしてお読みください。
※メタ注意
――《段ボールの丸焼きのターン》――――
図書館を訪ねる客もおらず、司書も自らの家に帰り、みんなが眠りに落ちた頃。
夜の、灯りの無い静まり返った図書館。
自習室の机の下に、一人佇む者がいた。
書館で自習をしていた学生が机から落とし、そのまま忘れられてしまった、インクの出ないノック式のペン。
彼は、独り言を呟いた。
「俺、まさかここに置いて行かれたのか……?」
夜の闇は、一寸先を黒で塗りつぶし、その先が安全かどうかも分からない。
さらに、図書館に来る時は筆箱の中にいたために、ここから家までの道のりも分からない。
完全に、詰みの状況だった。
「当然じゃない。だってアンタ、シャープペンシルに向かって『ここは俺に任せて先に行け!』って言ってたじゃない。その結果アンタだけ机の下に落ちて、あの少年から忘れ去られたとしても、仕方が無いんじゃないかしら?」
近くから声が返ってきて、慌ててインクの出ないペンは周囲を見渡す。
すると、歩み寄るかのように、角の丸まった消しゴムが転がってきた。
話し相手がいると安心したせいなのか、インクの出ないペンはついつい弱音を口にしてしまった。
「でも、俺、家に帰ったら赤ペンちゃんと結婚するって約束したんだよ……。まさか、こんな時に限って、俺だけ置いて行かれるなんて……」
「ふうん。アタシと似てるのね」
「どういうことだ……?」
「簡単な話よ。私は小学生のバカが二人で始めやがった、消しゴム弾きゲームとかいうふざけたゲームですっ飛んでいって、そのまま見つけられずじまいよ。アタシの身体は丸いんだから、弾いたら転がっていってどこに行ったか分からなくなるって、どうしてわからないのかしら?」
「それはそれで辛いな……」
「そうよ。だから正直な話、アンタに親近感がわいたわ。……そうだ、アンタに協力してあげる。アンタ、家に帰りたいんでしょ?」
「ああ、ありがとうな。でも、いいのか? 君も帰るべき家があるんじゃないのか?」
「あんなバカに使われてたら、いつ失くされるか分かったもんじゃないわよ」
「小学生に使われるのも大変そうだな……。ところで、図書館を出るにはどうすればいいんだ?」
営業時間外の図書館は、ふつう鍵が閉まっている。
防犯のため誰かが外から入れないようにするためなのだが、中から外に入ることもできないというのが一般的だ。
どうにかして、鍵を開けなければならないはずなのだが……。
「まずは、窓と交渉をして外に出るのが先決だわ。とりあえず、窓の近くまで行くわよ」
まさかの、窓から出るつもりだった。
しかも、窓と交渉とかいうパワーワード。
本当にそんなことができるのか? とインクの出ないペンが困惑していると、先導してくれていた角の丸まった消しゴムが立ち止まった。
「ここを通してほりけりゃ、俺を倒してからにしな」
現れたのは、本棚だった。
その巨体で、窓へ向かう通路を塞いでいる。
「あー、めんどくさいからあっちの窓に行きましょう?」
「そうだな。それがいい」
行き止まりがあったなら、引き返す。
そのノリで、消しゴムとペンは踵を返し、逆方向にある窓へと向かった。
「ちょっ、待てや! ここは普通俺と戦う流れだろうが!」
後ろの方で、誰かが叫んでいるかもしれないが、そんなことは気にしない。
しかし、場所は図書館。
本棚は有り余るように存在する場所だ。
「よくも俺の仲間のことを無視してくれたな。調子に乗りやがって」
「こうやって囲んでやれば、お前たちも逃げられないだろう? 大人しくここで戦って敗れてもらうか」
「そうだな、力の差を見せつけてやろうぜ」
さっきの本棚に加え、別の3台の本棚が、ペンと消しゴムを囲う。
そうして、所蔵する本をいきなり発射し、攻撃を仕掛けてくる。
間髪入れずに、4冊の本が襲い掛かる。
ペンと消しゴムは、一斉に飛び退き、それを躱す。
「消しゴムさん! 気をつけて!」
「このくらい大丈夫よ!」
「ほう、まだ余裕か。ならば、少し本気を出すとするか」
怪しく本棚が光る。
それと同時に、本が次々と発射され、まるで弾幕のように襲い掛かる。
それが、四方向から。
ほとんど隙間なく、前後左右から発射される、本の嵐。
しかし、インクの出ないペンは口角を吊り上げた。
「消しゴムさん、俺につかまってて」
「アンタ、何する気よ。下手なことしたら許さないからね」
「まあ、大丈夫だって」
「ずいぶん余裕そうだな。本はすぐそこまで迫っているっていうのに」
「ああ、俺がキャップ式のペンじゃなくてノック式のペンだってことを君たちは忘れているのか?」
そう言うと同時に、インクの出ないペンは逆立ちし、ノック式のバネの力を使って、空中に跳躍した。
前後左右から弾幕が来るが、上からは来ていない。
逃げるなら、上だった。
「「「「何だとッ?!」」」」
そのまま大跳躍で、本棚を跳び越す。
そして、包囲から抜け出し、ペンと消しゴムは窓に向かって走る。
「ほう、なかなかやるナ。しかし、これで決まりダ」
着地地点には、図書カードが待ち構えていた。
図書カードが体をクシャッと丸め込み、ペンと消しゴムを捕らえる。
「残念、それは残像だ」
「お前の残像はもらったんだナ!」
「何だと?! 俺の残像を返せ!」
「返してほしければ、そこの女を寄越すんだナ!」
「しょうもないことやってないで、さっさと行くわよ。そもそも残像をもらったとか意味わかんないし」
「そうだな。じゃあな、図書カード」
「お前の残像なんていらないからそこの女を寄越すんだナ!」
「よし、さっさと行くか」
「そうね」
ペンと消しゴムは窓へと歩を進める。
「逃がさないんだナ!」
「待てい!」
「煩わしいわね。消えて頂戴」
角の丸まった消しゴムがそう言った瞬間、図書カードと本棚が消滅した。
「消しゴムさん! それって……」
「存在抹消の術よ。まあ、使ったら体を削ることになるからなるべく使わないようにしてたけどね」
「すごい……」
「使いすぎるとどんどん私が小さくなっちゃうから、なるべく使わせないでよね」
「もちろんです……」
消しゴムが凄い能力を持っていると知って、畏怖してしまうペンであった。
そして、しばらくの後。
二人は、窓の前まで来ていた。
消しゴムの恐ろしい能力を目の当たりにしたためか、あの後絡んでくる者は一人もいなかった。
「窓さん、ちょっと窓を開けて通してもらえないでしょうか」
「話は聞いていたよ。儂は窓から別の窓へワープさせる能力を持っているんだ。如何せん、この小説がとてつもなく長くなっちまうからのう。いわゆるご都合主義ってやつよ。ただ、ペン君の家の場合、到着するのが昼頃になりそうだが、それで構わんかね?」
「「え……っ!?」」
あまりのご都合主義展開に、二人揃って絶句してしまった。
一体作者はどんな考えで、こんなぶっ壊れ性能を生み出してしまったのだろうか。
「ということで、二人とも、目が覚めたらペン君の家だ。準備はいいかね?」
「「はい!」」
そして、二人は窓に吸い込まれ、真っ暗な図書館は静寂に包まれた。
――《携帯充電器のターン》――――
二人が気がついたら、そこはペンの家だった。部屋には色々なものが散乱し、とある少年漫画のポスターが壁に貼られてある。
間違いなくペンの持ち主の部屋であった。
「帰ってこれたんだな、俺」
「ここがあなたの帰る場所なのね…かなり汚いけど」
「たまに綺麗になるんだが、今日は一段とひどいな」
その惨状は見慣れているはずのペンですらそう呟いてしまうほどひどい有様だった。
ジャージや寝巻きは脱ぎっぱなしなのは当然、サッカーボールや断線したイヤホン、壊れたフィギュアなどの玩具が床に散らばっているのだ。
「持ち主に人の心はないと何度思ったことか、赤ペンちゃんがいなかったら俺はここに帰りたいとは思わなかった」
「あなたの家に行こうと思った私が愚かだったのかしら」
「無茶な使われ方をされるか、壊れたあと放って置かれるかの違いしかないな」
ペンは消しゴムに返事をしながら赤ペンちゃんを探すが、いつもいるペン立ての中にいない。
「…おかしいな、いつもはここにいるはずなんだけど」
「帰ってくるのが遅かったから拗ねてるんじゃないの?」
「いや、赤ペンちゃんはそんな遅刻程度で拗ねる子じゃない。何かあったんじゃないか?」
ペンがそう言った瞬間だった。
ガチャリ、と部屋の扉が開けられた。
入ってきたのは一人の少年、そして彼の右手に握られていたのはキャップ式の赤いペンだった。
「赤ペンちゃん!?」
「えっ?彼女が?」
赤ペンは少年の掌の中でぐったりとしていた。
「ペンくん…逃げて!この人はあなたを狙ってる!」
「なんだって!」
しかし、ペンに逃げる選択肢など存在しなかった。愛する赤ペンを見捨てて逃げることなんてできるはずがないのだ。
「赤ペンちゃんを離せ!」
ペンが少年に飛びかかろうとしたその瞬間!
少年の左手がペンを捕らえ、右手の赤ペンが机に叩きつけられた。
消しゴムは何も言わずにただじっと少年を見つめている。
「うわぁ!」
「ペンくん!」
2人の叫びを無視して少年はペンと赤ペンの体をバラバラに分解していく。
「…うわぁ、キモい」
「おい消しゴム!そんなこと言ってないで助けてくれよ!」
「いや、バラバラの状態で言われても手遅れでしょ」
少年はペンからインクの切れた芯を抜き取り、赤ペンの芯と入れ替えられる。
もう用済みだと言わんばかりに赤ペンの外側はゴミ箱に捨てられるが、それに反応する余裕などペンにはなかった。
「う…うわぁ、赤ペンちゃんと一緒になった」
「気持ち悪いこと言うな!」
恍惚だと上ずった声でペンが呟く。
体がインクで満たされている満足感と高揚感、そしてそのインクが愛する赤ペンのものなのだと実感すればするほど込み上がってくる背徳感。
「なんか…イケナイことしてる気分になる」
消しゴムはもう何も言わなかった。ただただ呆れた様子でペンのことを見つめていた。
そして、消しゴムは一人で部屋を出ようと机から降りてドアに歩いて行く。
ドアの外は大きな風の音が聞こえていたが、もうどうでもよかった。変わってしまった彼らのことを寂しく思う気持ちもあったが、それ以上になんだかもうどうでもよくなっていた。
そんな精神状態だったからだろうか、向かってくる脅威に気がつかなかったのだ。
轟音を上げて迫ってくる掃除機に。
「危ないぞ嬢ちゃん!」
「なっ!? 消えなさい!」
とっさに消しゴムは掃除機の存在を消し去る。消失した脅威にため息をついていると、彼女は真上から何者かに掴み取られてしまった。
「…何これ? 消しゴム?」
「ちょっと! 離しなさいよ!」
それは名前も知らぬ女性だった。
しかし、その女性は興味深げに消しゴムを見つめては何かを考える仕草をしていた。
「これは…ご都合主義だね」
「…は?」
いったい何を言っているのだろうかと消しゴムは女性を睨んだが、女性は気にした様子もなく独り言をベラベラと話し出す。
「作者にとって邪魔な存在を都合よく、能力と言う体で消し去っていく。理論や技術、過程も何も関係なくいとも簡単に消し去る消しゴム。ご都合主義の塊じゃないか」
「…それが、なんだって言うのよ!」
消しゴムがそう叫んでも女性は微笑みを崩すことはない。
「だから、困っているのさ」
「…何がよ?」
「作者だよ、作者は今困っているのさ」
消しゴムは女性が何を言っているのかわからなかったが、女性がメタいことを言っているのは理解できた。
「だから、アンタに頑張ってもらおうと考えたんだよ」
そう言うと、女性は消しゴムを強く握る。
「これで、話のオチは消える」
こうして、カオスな小説のオチは消えた。
残されたのは話に取り残された読者と作者の申し訳ないと思う気持ちのみだった。