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クロックホロウブレイブ〜時を戻った勇者は世界をもう一度巡ります〜  作者: D・D
第二章 待ち受けていた王国の城
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37. 『憂い、そして離別し』

 間断なく景色が映り変わって行くのを目にし、アルトは空中で驚きまじりに眉を上げた。


 風の抵抗にも慣れてきて遥か上空から大地を見渡すと、アルトの見覚えのある風景がチラホラと見えて来たのだ。

 

「もう着くのか?」


 マグニテヴィスという巨大な野鳥によりだいぶ長距離を移動することができていた。

 街道を通り過ぎ、草原を通り過ぎ、山を飛び越えた先に街が見えてくる。

 そこはアルトにとって何回か目にした場所でもあり、


「んん?アルト、そろそろ?」


「あぁ、…そうだな。ここら辺は俺も来たことある場所だ。王都まではもうちょいあるけど……でもこんな短時間で着くとはここまで行けるとは思ってなかった!」


 アルトが仰々しくそう口にするのも無理は無く、まだ時間帯はやっと燦々と降り注ぐ日が昇り始めた頃だ。

 つまり、この野鳥の背に乗って出発してから半時間も経ってないわけであり。


「それにしても見知った街とはいえ、まさかこんな真上から見ることができるなんて思いもしなかったな……」


 マグニテヴィスの巨大な背に乗りながらアルトは下の景色を見下ろしてそう呟く。彼にとってこの辺り一帯は騎士団に所属していた際に来たことがあるのだが、正直、これは壮観だ。


 見知った街が凄まじい速さで通り過ぎ、再び見えるのは一つの山。目前にあるこれを越えれば、


「あの山を越えれば王都が見える。そこまで飛んでもらえれば十分だ」


「了解!テンテンちゃん!もうちょいだよ!あの山を飛び越えろー!」


「クルルルゥァ!」


 リーネルの指差しとかけ声にマグニテヴィスが美しい鳴き声を響かせる。

 そのまま二人と一頭は目の前にある雄大に聳える山に向かって飛翔していき、


「くっ……」


 グングンと双翼を羽ばたかせながら山の斜面をかけ上っていく。

 次第に高度が高くなっていき、辺りに冷気が漂ってきた。山の中腹付近にかけて発生した白い霧に包まれ目の前が真っ白に覆われる。

 アルトは必死に背中の鳥毛にしがみつき、目を細めながらもかろうじて瞳を前へ向けていた。


「何も見えねっ………!」


 しかしあまりにも霧が濃すぎるため全くと言っていいほど方向など分からない。進むも進むも白の世界であるため上下左右の感覚など曖昧になり、行先など不透明なことこの上ない。


 しかし、壮麗なその大鳥、マグニテヴィスは速度は落とさず空をかっきり、堂々たる様で空に向かって飛び続けた。


 そして、


「…頂上だ!」


 リーネルの溌剌とした大きめの高い声音。それを聞き、アルトはすぼめていた瞳を開ける。

 すると、雑草と小柄な木々に覆われた山の天辺が拝観できた。下に目を向けると、それまで見上げていたはずの雲がある。

 どうやらここは地上からはるか上の場所のようだ。

 

「ってか、寒っ!風が冷てえ!」


「アルト我慢!少しの辛抱!」


「分かっとるわ!そんなもん!」


「よーし!テンテンちゃん!全速前進!」


「クルルゥゥァッッ!」


 山頂の真上でアルトとリーネルが軽口を叩き合う。

 そんな人間二人の場違い過ぎる言葉の言い合いに耳を貸し、マグニテヴィスは雑草だらけの頂上付近を凄まじいスピードで滑空する。そのまま低空を飛翔したかと思うと、瞬く間に真下に広大な空間が現れて、


「テンテンちゃん!急降下!」


「クルルルゥァァァ!」


「急降下って、おいっ⁈」


 リーネルが笑みを浮かべて下を指差すと同時にマグニテヴィスが鋭い眼差しを大地へと向けた。そのまま野鳥は勢いを殺さずに山の斜面を凄まじい速さのまま降下していく。


「おおおわああぁっっっ!」


「きゃあああっっ!」


「クルルルゥァァァッッ!」


 一人の絶叫と、一人の笑声、そして一頭の盛大な咆哮が山の斜面に響き渡り、そのまま霧の中に突入。

 白霧の中、それぞれの音響が木霊しながら猛スピードで急降下。そして、そのあまりの速さに霧の中もあっという間に通過し目前に新たな景色が広がった。


「……っ!ここはっ!」


 霧が晴れた上空、そこを飛翔しているマグニテヴィスの背からアルトは下に広がる世界を見下ろす。

 その景色は彼にとって郷愁を感じさせるものでもあって、


「帰って…きた……王都だ。」


 マグニテヴィスの背に乗りながらアルトは目を見開かせてその光景を瞳に映した。

 自分が生まれ育った国、自分が生まれ育った街、自分が生まれ育った王城が目の前に広がっている。

 その全てが懐かしく、その全てが待ち焦がれた光景だ。

 朝の陽光に照らされたキラキラとした王都は遠目ではあるが、まだ静かなように感じれた。王城もここから見た限りでは何も変化は無さそうであり、


「よしっ。じゃあこのまま、あの城の近くまで飛んで………ぐおあっ⁈」


「うえっ⁈んっ⁈どうしたの⁈テンテンちゃん?」


 すると突然、何があったのか上空で翼をはためかせていたマグニテヴィスが唐突にその場で暴れ始めた。

 それまで順調に飛び進んでいた壮麗な野鳥がいきなりであり、マグニテヴィスは周りに奇声を発しては飛び続けるのを躊躇うかのように翼を荒げさせながら羽ばたかせており、


「クルララゥァァ!クルラァッッ!」


「落ち着いて!落ち着いて!テンテンちゃん!」


 急な大鳥の変事にリーネルは慌てながらも宥めるように毛並みを撫でつける。しかし、依然としてマグニテヴィスは乱暴に翼をはためかせそれ以上飛ぶことを躊躇っているままだ。


 まるでそこから先は行きたくないとでも言うかのように。


「………一旦降りる?テンテンちゃん。落ち着いて、落ち着いて。怖くないから。」


「なんだ?大丈夫なのか?いったい何が?」


「分かんないけど。……とりあえず降りていいアルト?なんかこの子、凄く嫌がってるみたいで」


「そうだな。まあ、それが無難だろ」


 アルトの言葉にリーネルは「うん」と頷くと、彼女は暴れる野鳥を優しく撫でながら地に降りろと指示する。

 いったいどうやって操っているのか、なぜ彼女にそんな腕があるのか聞きたいことは多々あるがそれは後にすることだ。

 

 とにかく今はこの大鳥を落ち着かせるのが先決であり、


「そそ、ゆっくり地面に着地してテンテンちゃん。よしよし、いい子。」


 リーネルは優しい声をかけながらマグニテヴィスを王都から少し離れた大地の元へと降着させる。

 それからリーネルとアルトはその野鳥の背中から飛び降りて未だ息を荒げているマグニテヴィスを目にして、


「どうしたんだろう。急に興奮して…」


「分かんねえ。空中でいきなりだったからな」


「なんか嫌がってるんだよね。怯えてる…?みたいなそんな感じにも思えるけど」


 地に降ろさせたマグニテヴィスを温情の目つきで見ながらリーネルは小さくそう告げる。

 彼女の言う通り、今の大鳥はよほど興奮している様子だった。低く重々しい鳴き声を荒げ立てており、翼の鳥毛が逆立っているのが分かる。

 それはつまり野生の獣として威嚇のあらわれでもあり、このマグニテヴィスが何かに危険を察知したということでもある。

 そして、その大鳥が何に警戒しているのかといえば、


「城の方になんかあんのか?」


 壮麗な獣が息を荒げながら鋭い眼光で睨め付ける先、それはアルトたちが今から向かうイルエス王国の城だった。

 息を荒げ、威嚇の鳴き声を発しながらマグニテヴィスは王国の城に向けて敵視のような鋭利な目線を向けていて、


「飛んでる途中で止まったのは、王都に入る寸前だったからな。そこでいきなり飛び進むのを嫌がった。つまり、これ以上先に何かあるのに勘付いたってことか」


「そうだよね。テンテンちゃん?何か、気が付いたの?」


「ーーーーーー」


 慮るような目線を向けてリーネルは大鳥に話しかけるが、依然としてマグニテヴィスは威嚇の鳴き声を発するだけだ。それはこれ以上行きたくない、そう感じ取れるような獣の声にも聞こえて、


「まあ、動物ってのは感づくのが鋭いって言うからな。本能的な何かで危険を感じ取ったんだろ」


「そうなのかな。こんなに立派な子が怯えるなんて………」


「どっちにしろ、やっぱ城には何かあったってことだ。」


「どうする?アルト。この子は…」


「……………」


 リーネルが壮大な大鳥、マグニテヴィスの処遇について静かにアルトへ問いかける。


 こんなに短時間でここまで進めたのがこの野鳥のおかげだということは灼然たる事実だ。

 アルトは壮大で絢爛たるマグニテヴィスという大鳥に対し、ジッと柔らかく目を向けて、


「俺は向かう。たとえ危険が待ち受けてるって分かってても俺は行かなきゃなんねえ。だから…」


「……………」


「だから、そんな憂いげな目をするな」


「クルルゥゥ…」


 アルトが微笑して見つめる先、それは瞳を少し落とし心配げな高い鳴き声を発しているマグニテヴィスだ。

 危険を承知でその場に向かうというアルトとリーネルの様子を見て大鳥は憂慮の念を抱いたのだろう。 壮麗な大鳥が今発している綺麗な鳴き声からは存分にそう感じ取れる。

 二人にこれ以上先へ行って欲しくないと強く優しく思っているのだと、それが分かるさえずりで、


「ありがとね。テンテンちゃん。心配してくれて。でもね、もし危ないとしても私たちは行くの。だから…」


「クルルルゥァァァッッ」


「きゃっ!もう、甘えんぼさんなんだから」


 優しいリーネルの声かけにマグニテヴィスがくちばしを彼女の頬に擦り寄せる。それは気を許したことの証でもあり、離れたくないという意志の表れだ。


「平気、平気。ほら、立派な獣がそんな情けない鳴き声出さないの。私もアルトも大丈夫だから」


 綺麗で、か細い鳴き声を響かせるマグニテヴィスの鳥毛を撫でつけながらリーネルは柔らかくそう言い聞かせる。大鳥の美しい毛並みを心ゆくまで摩ってやりながら彼女は優しい笑みを浮かべ、


「じゃあね、ここでお別れ。心配しなくてもまたいつか会えるよ」


「助かった、ありがとな」


「クルルルゥゥァ…」


 二人の別れの言葉にマグニテヴィスが小さく吠えた。まん丸とした大鳥の瞳はずっとアルトとリーネルを見つめていて目を逸らすことはない。

 しかし、アルトとリーネルにとってさっきの言葉が最後の言葉のようであり、二人はもうすでにイルエス王国の方へと走り出していた。

 

「クルルゥゥッ…」


 アルトとリーネルの姿を見ながらマグニテヴィスは再び憂いに満ちた鳴き声を小さく響かせる。

 なぜならこの気高く獰猛さも兼ね備えた大鳥にとって先程の感覚は今まで体感した事のないものだったからだ。


 大鳥が上空で抱いた感覚。それはまるで命を根こそぎ奪われるようなかつて無いほどの恐怖心に覆われたような。

 獣としての本能で感じたそれは重々しい異様な感覚だった。


 向こうに見えるあの城。あそこから降り注ぐこの感覚はひとえに言うのなら黒く禍々しいものだろうか。

 尠くも本能を逆撫でしてくる感覚であり、それは一瞬で畏怖の念を無理やり引き起こさせるものだった。あの城にいるのは何かは分からない。だがとてつもなく黒く不気味で悍しい存在だ。


「クルゥ…」


 力なく小さな鳴き声で大鳥はもう一度喉を震わせる。それはアルトとリーネルのことを思い焦がれた故の鳴き声だったのだが、


「………」


 もう、獣の瞳に二人の姿は映ってはいなかった。

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