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クロックホロウブレイブ〜時を戻った勇者は世界をもう一度巡ります〜  作者: D・D
第二章 待ち受けていた王国の城
31/41

31. 『やっと辿り着いた先で』

「…ぅーん」


 と、小さくか細い声で一人の女性が呟く。それは聞こえるか聞こえないかのようなとても静寂な声音だ。


「アル…トぉぉ」


「うるせえ、お前もう、喋んな。苦しくなるだけだから」


「ごめぇぇ……ん」


 日が落ちた夜中、単なる普通の草道を二人の男女が歩いていた。

 一人は黒髪を生やし、透き通る青瞳を持つ少年。今は頭に包帯を巻きながら片目で前を見据え、道を歩くのはイルエス王国の王子アルト・セリージャ。通称アルトだ。

 そしてもう一人は、そんな彼に恋をする真紅の美しき髪を靡かせる少女。腰に炎を生み出す太刀を携えている村の娘リーネルである。


 今、その二人は深刻な苦しみに苛まれていた。


「くそ、なんでこんなことに」


「ううぅ、…ご、め、ん」


「いいから、お前はこのまま背負られてろ」

 

 か細く小さな声音で言葉をこぼすリーネルにアルトは覇気のない声をかける。


 ぐったりと力の無い様を見せるリーネルは今、アルトに背負られている状態だった。


 なぜ二人がこんな事になっているかと言うのなら、


「まさか、こいつが炊事に無頓着だったとは…」


 まともに食べ物を調理できない二人は、単純に食事がまともに出来ず飢餓に苛まれている状態だった。


「よく、お前、女として生きてこれたもんだな…」


「えうぅ、ぐうの音も…出ません」


 背中に乗っかっているリーネルに対しアルトはぶつくさに不平を投げる。

 

 何を隠そうこのリーネルという女性、全く料理ができなかった。

 せっかく仕留めた鹿やウサギを調理するため、彼女の炎魔法を利用しようとするも、その食材たちは無残にも黒焦げてしまう始末。

 彼女は次はできる!次はできる!と言いながら炎魔法を駆使して調理に没頭するが全て生肉は悲しい結末を辿り。


 どうやら、彼女は炎魔法の加減が全くできないようであり、全ての食材を真っ黒に焦がしてしまうという素敵な才能を持っていた。


「全部、黒焦げにした時は流石に肝が引いた。…お前は二度と…調理台に立つな。」


「…うぅ、ごめ、ん。何も…言えないです」


 空腹のせいで二人の会話には覇気がない。

 と、いうのも今は、アルトとリーネルが村を出発してから2日が経っていた。

 村の長老から「持っていきんさい」と渡された金貨となけなしの食料。しかし、それらは今役に立ってはいない。


 食料に至っては1日目で食べてしまったし、どうやらあの村は相当田舎村だったらしく、近くに街などが全くなかった。歩いても歩いても全て草道だったので金貨が役目を発揮できない状況だ。

 残された手段は自給自足だったのだが、料理に無頓着な二人にとってその手段は難問であり、捕らえた獲物は全て黒く焼け焦げた異様な物体に変わり果てていた。


 つまり、空腹状態のまま二人は丸一日歩き続けている。


「お腹、がぁ」


「いいから、お前もう…喋んな。もう…街が見えてきたから」


 一人が一人を背負いながら道行く道を歩く。飢餓状態のままアルトは根性で足を動かし、ようやく森を抜けようと奮闘する。

 そしてその甲斐もあったようでありそれなりに大きな街が見えてきて、


「耐えろ、もう…ちょっとだ」


「ありがとう…アルトォ、好きぃ」


「その言葉はいらん」


「んふふぅ、…何回でも、言ってあげ……うぇ、なんか気持ち悪い」


「馬鹿!……吐くなよそこで。…マジで、耐えろ」


「吐くって…言っても、何も食べてないから…吐くものないよぅ」


「……それも、そうか」


 背中にいる彼女の言に対しゾッと怖気が走ったが、何も口にしていないことが功を奏したようでアルトはホッと胸を撫で下ろす。


 だが、依然としてリーネルは飢餓に苦しんでいるようであり、


「うぅ、お腹が…苦しい。何か、食べ物ぉ…」


「耐えろ、…もうちょいだから」


「うぅ、おえ」


「おい?平気か?まあ、吐きはしないだろ?」


「なんか、…出そう」


「何で⁈さっき何も出ないっつったよな⁈」


「なんか、なんだろう?胃液?」


「やめろ!絶対に引っ込めろ!飲み込め」


「えぅぅ、うん」


「そうだ、耐えろ。今は口閉じてろ」


「……あ、」


「⁈…んあ⁈」


 リーネルがか細い声で一言告げた瞬間、何か首筋にピチャリとした感覚が伝わった。

 途端に鳥肌が体中に迸る。


「ごめん、…垂れた」


「馬鹿!耐えろっつったろ⁈汚ねえ!」


「……大丈夫。これ、…胃液じゃないから」


「………はっあ?じゃあ、何だよ?これは」


「…鼻」


「あ?鼻?」


「鼻、…垂れちゃった」


「変わんねぇ!」


 力無く、てへへと小さな笑い声が背中から聞こえる。

 一方、首筋あたりに水っぽい異様な感触を感じたアルトは戦慄して喚き散らし、


「なんで鼻水が垂れんだよ⁈汚ったねえ!」


「口閉じるの、…集中してたら、…鼻水出ちゃった」


「わけわかんねえ!」


 口は閉じれても鼻は閉じれないから仕方ないとでもいうのか。兎にも角にも感じたくない感覚が首筋に伝わり、最悪だ。


「あぁ、もういい!考えるな、考えるな!もう街はすぐだ!背中のこいつが何しようと、俺は歩き続ける!」


「アルトは、逞しいぃぃ…」


「お前はもう二度と喋んな!速攻で宿屋見つける!」


「おおぅ…」


 余計なことを考えず無理やり自己暗示し、アルトは気合で歩みを進める。

 目的地はもう視界に入っているあの街。あそこまで行けばとりあえずなんとかなる。

 廃れてしまったなけなしの力を振り絞り、アルトはリーネルを抱えながら街へと歩いていった。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ここ、か、ここで、いいか」


「…ぅぅえ」


 なんとかぶっ倒れる事なくアルトは街の中に入り、一つの店の前で立ち止まる。


 宿泊屋、と建物の看板に書かれた小さな店舗だ。

この際、泊まれる場所ならどこでもいい、一番最初に目をつけた宿泊できるところに立ち止まり、アルトはゼェゼェとか細く息を荒げながら寂れてしまった目を向ける。


「やってる…よな?」


 今は日が落ちてからだいぶ時が経っている。店内はぼんやりと小さな灯りは付いているが、すでに夜も遅いため取り寄ってくれない可能性もある。


 もうリーネルが虫の息なのでそれは勘弁して欲しいところなのだが、


「いや、どうこう言ってらんねえ。」


 そう言ってアルトは店に目を向け、コンコンと扉をノックした。

 だが、中から反応は特にない。


「嘘だろ?ダメなのか?」


 苦しい現状に嘆声を吐くが、まだ諦めるのは早いと思い、アルトはすかさず再び扉を叩く。

 しかし、結果は同じく反応は無しだ。


「勘弁しろ…よ。こっちはギリギリだってのに」


 変わらぬ現状になりふり構わず、アルトは扉に拳を叩きつける。

 三度目のノックはできるだけ強めに叩いたが、相変わらず反応無く、無音と無言が返るだけだ。


 絶望が現実となり、自然と目蓋が閉じそうになる。


「くそ、なんで。…もう、きついんだが…」


「うるっさいよお!なぁにやってんだい!鈴鳴らしてんだろい!」


「があっ⁈」


 と、苦しさに苛まれとうとう限界が来たと思った瞬間、急に凄まじい勢いで開かれた扉にアルトの額が強打した。 


 だいぶ強い力だったので図らずも後ろによろけてしまい、そのまま二人して道端にぶっ倒れる。


「ぐっ、なんつう馬鹿力…」


「うえぇ…」


「おや?」


 一方、扉を開けた当人は不思議そうに地に突っ伏したアルトたちを見つめており、


「こんな夜遅くに若い男女が何やってんだい?」


 と、こちらに声をかけてきた者は顔に少しのシワが浮き出た元気の良いおばちゃんだった。


 クルクルとクセのある髪質にエプロンを前にかけたそのおばちゃん。

 そんな威勢の良い女性は怪訝な目をアルトに向けて、


「あんたたち、若いからって道端でヤっちゃいけないよ。最近の若い子は場所なんて関係ないのかい?そんなに疲弊して、どんだけ精力持ってかれてんだ。女の子の方なんてぐったりじゃないか」


「おい、なんか違げえ、…勘違いが酷すぎる。」


「んん?違うって何がだい?」


「…とりあえず、何も言い返さねえから…俺とこいつに飯をくれ」


「飯?」


 よろよろと力の無い指でリーネルを指差してアルトは前に佇むおばちゃんにご飯の要求。

 

 その様を見たおばちゃんは腰に手を当てて嘆息し、


「んん、腹減ってる若者二人。どうやら、そういうことだけ、みたいだね。こんな夜中に二人でくっついて地面に寝ていたからびっくりしたじゃないか」


「それは…知らねえ。つか、マジで、水くれ。まず、水分が…欲しい」


「はあ…。なんかよく分からんが、とりあえずあんたたち店ん中入りな。うちは宿屋だ、客としてもてなしてやるよ」


「ありがてぇ…」


「腹減ってるもんがいるんならそれを満たしたくなるのがアタシの性分さ。それが若いもんなら尚更ね。あんた、立てるかい?女の子の方はキツそうだね」


「あぁ、俺は…平気だ。…こいつは運んでもらえたら頼む」


「全く、夜遅くに大層な客が来たもんだ」


 そう言うと、おばちゃんはため息を吐いてから地に突っ伏しているリーネルをひょいと持ち上げる。

 アルトもなんとかそこから立ち上がり、足を踏みしめながら宿泊屋の中へと入っていった。




 


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