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八話

気付かぬ内に魔物を舐めた意識になってて、うっかり都市の外にも居れないと嘆いての出戻り。

最近は自由都市ルビアルテ内を不定期に移動している。

原因はいまだに照り焼きタレで。

作成の手間がとかボヤく気は無いのだが、どうしても供給源が俺のみって部分での面倒が回避できんのです。

その代表格が、有象無象の商人。

最初は馬鹿な貴族との遭遇フラグでも踏んだかなーと訝しんだのだが、この都市に限って言えば貴族よりも商人の方が質が悪かったようで。

冒険者ギルドを窓口に買い付けるより、その製法を知って抜け駆けしようっていうやつですよ。

まぁ、現代の企業戦争経験者からしてみれば特に珍しくもない輩なので。

日本の場合はほぽ公然と談合話になって楽なのだが、外国でだと普通に強盗のような手段で来る。しかも場合によっては其処の自治体とか国の看板背負ってとか。

そうなると一企業戦士なんぞ平気で不審者にされるので、対応手段は最大にして最悪の手の一択になる。ここら辺の意識は強烈だったんだろう、名前すら消された前世の自分の中にもしっかりと対応法が根付いているし。


とりあえず、立場的に後ろ楯となる冒険者ギルドには、それとな~く相談はしている。

更に世間的に静かな対処がどの程度可能かまでとか。

その情報を元に、ちゃんと自衛の手段は設置済み。

……まぁ、穏便に行く方が面倒は無いのだけど。


そんな一部の商人は置いとくとして、状況的にはまともな対応も始まっている。俺の提供した味から、自分也の模倣で成果を出そうという連中だ。

どうやら食事は燃料補給といった意識から娯楽の一つだという感じに、意識の改革は始まったらしい。最近は屋台で提供される品も其々に個性を主張しようという風には変化している。

……まぁ、八割は珍料理な感想になるけど。

それでも、俺のように楽して誤魔化す手段でなく、言わば正当な技術での変化を試してる分、料理の世界の人間としては真っ当で尊敬できる訳だけど。


とりあえず、今でも俺の中でメインの食事処にしているベアハッグ亭には贔屓のテコ入れをしている。

実にささやかなテコ入れだが。

採取したハーブの中にミントに似た成分の物があった。これをワイン水に混ぜ込んだ、常温でも冷たく感じるかもな、ワイン水というやつ。

いわゆる涼感飲料だ。

肉料理メインなので、その口直しにも良い。チート関係無しの物なので、誰でも何時でも作れるし。

俺基準の配合値は教えたが、アレンジは御自由に。下手に入れ過ぎると舌が死ぬが、其処は自業自得である。


これで将来的にスパイスワインにでも発展したら……的な作為の意識も有ったり。他の地方とかで既に有るなら、其れに越した事は無いのだけども。



さて、照り焼きタレの納品でギルドに顔を出した折りに、担当さんから少し変な質問を受けた。

「ショウガさんは、特殊な手段で魔物を倒しているのですか?」というもの。

そう言われると、まぁ実に特殊なチートで殺ってますな答えな訳だが、正直にそう言う訳にもいかないので。

「ちょっと企業秘密なもんで」と言葉を濁すしか無い俺である。

で、逆に何故にそんな質問がと問えば。

「実は貴方の納品した品に少し変わった効果が出てまして……」と、俺の想像を越えた答えが返ってきたのである。


俺が照り焼きタレ以外でギルドに納品している物となると、その代表はホーンラビットの角と毛皮になる。最初は大人しく五体とか七体とか、独りで狩って独りで運べる程度に抑えていた。

が、丁度料理の試作に凝り出したあたりで資金源を気にするのが面倒になり、チートの体力で運べる範囲ならイイじゃんと枷を緩めて……ちょっとヤンチャな伝説を築く感じになっちゃっていたり。

そうして大量に納品した物が巡り巡って、様々な職人を経て世間に出回った所で……妙な効果が有るのでは? と言った話が出ていた。


其の1、毛皮。

毛皮はなめし加工をされて様々な革製品へと生まれ変わるが、中にはそのまま毛皮として活用される事もある。旅人などが使用する外套やマントなどだ。地肌剥き出しの革は水気に弱いので、雨避け等撥水効果を期待する場合は体毛を残したままの製品になる。ホーンラビットの毛皮は毛穴の密度も高いので、伸したり継いだりしても高い撥水性や防寒性を残したまま、全体的に軽く仕上がるために人気なのだとか。

で、そんな旅人の何人かが街道を移動中に魔物と遭遇する。

気づいたのは中規模の商隊として移動中だった商人の一人。それは本来小規模の活動しかできない個人商会が集まり、合同で移動し護衛人数の出費を抑えたもの。

人に対して無差別な凶暴性を発揮する魔物は、遭遇した相手を選り好まない。手当たり次第といった感じで、近くの者から襲うのが普通というのが常識。

だが、その時の状況は明らかに異常だったそうだ。

何故か、特定の商人関係者のみが被害ゼロ。当時の事態の話では、まるで魔物から避けて行くように移動してたらしい。襲撃の撃退後にその理由を当事者達が調べてみれば、襲われなかった者達は原因に気づいた商人の部下達で今回の移動用に揃って外套を新調したという事だけ。後は商人の強みを使って調べてみれば、その外套の素材が俺がギルドに納品した事まで遡れたという訳だ。

また別の例では、革紙関係でちょっとしたトラブルが。

この都市では羊皮紙の一種として商人が契約書に利用しているのだが、その筆記担当に揃って変な症状が現れるのだそう。何故か涙が出てきて、鼻がムズ痒くなりクシャミも出る。そんな感じに。


其の2、角。

主に錬金薬への触媒で使われる。別の素材と混ぜて、その主剤となる効果を魔力で増強する云々な感じ。

だがその配合基準が随分と変わってしまっているらしい。お陰で薬効に期待通りの結果で出ない等の苦情が出ていた。

それと何故か、その錬金薬を服用した御婦人諸姉から冷え症が治まったとの反響があって別の意味で需要が増えてるとか。

当の製作者にしてみれば自分の製品が異常化してる訳で、こりゃ一大事と調査してみて角の性能への変化に気づいたらしい。


……聞いた内容には全くの門外漢なんで意味不明な部分が多いが、出ている症例だけに注目すると……、なんか問題の原因が想像しやすい。


これ、完全に俺の[万色の調味能]が原因じゃん。


ホーンラビットは激辛スパイスの効果で瀕死にしての捕獲としている。それは時間無視の[収納]に死体で詰め込むよりも効率的だから。心臓が動いてる方が血抜きに関しては都合がいいのだ。ギルドに納品して解体してもらう際にも良い鮮度での扱いにしてもらえる。なので、狩猟活動には積極的に使っていた俺独自の手法だった。

買い取りの評判は良いものの、反面その大量半殺し納品にはドン引かれ気味でもあるが。

ただ、あくまで偶然に知ったのだが、瀕死の魔物は収納へ入れれるから止める理由も無かったんだよなぁ。


あー、これは……、無視してもいいが理由を言っとかんと納品不備とか言われそうな感じか。

装備類や道具は無視しても関係無いと言い張れるが、流石に薬の効果を変えるとかは洒落にならんし。


激辛攻撃での試行錯誤で収納の中にはその試作品も残っている。

今では武器その物の味付けだが、付着式のどれかをサンプルとして出しといた方が納得はされやすいだろう。油の改造品がそれっぽいか。

「魔物には毒だが人間には辛いだけの油だ」と言って提出。色々と素材に出ている変化は、その効果が魔物に移っての可能性とも伝えておく。

もし本格的な問題になるようなら、狩猟の方法を変えるので教えてほしいと言づけ、その日は帰った。


……後日。


[雷油]なる激辛調味料が世間に出回る事となるのだが……、この時の俺には、そういう異世界フラグを踏んだとは欠片も思ってなかった事だったり。


……やっちまったぜぇぇ。




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