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七話

異世界生活も二ヶ月程が過ぎた。

少なくともこの地域の常識は頭に入ったし、ある程度の貯蓄もできた。

特に貯蓄に関しては、八割をルテからゴルドに換金したので、移動の足枷も無いと言っていいだろう。

ああ、ゴルドとは、これも貨幣の単位の事。

自由都市ルビアルテを含む、この地方に興った国々による文化圏で使える共有貨幣を指して言う。この貨幣を使うのは国家間の取引や、同じような商取引を頻繁にする大商人、そして各国を渡り歩く冒険者となる。

日本で例えるとすれば、ルテは特定の商店が発行したポイントカードの点数。ゴルドが円な感じかな。

ルビアルテの中で一生を過ごすならルテさえ有れば問題無い。むしろゴルドよりも使い勝手は良いだろう。正にポイントカードに例えたように特典な感じのもんもあるし。

財産性で言えばゴルドの方が上な訳だから当然の仕様と言える。極端な話、明日ルビアルテが消滅したらルテは財産としての価値を失うのだし。


……てな感じで、なんとなく旅立ちを演出しているのには理由がある。


あの照り焼きタレの一件。やっぱりと言うか、異世界トラブルの気配を醸し始めていた。食に関する新商品が爆発的なブームを呼ぶのは地球でも良くあった事。冒険者たちの宴会を発端にジワジワと周辺へと広まって行き、一般の酒場や屋台でも活用され始めてるらしい。

流出元がギルドなのは疑いようも無い事。誰がとまでは解ってないが、まぁ一蓮托生の共犯でいい。特に責める理由も無いし。俺は依頼された物を売っただけだものなぁ。

ただやはり、俺自身に興味を持たれるのは勘弁願いたい。


……な、訳で。

何時でもトンズラできる用意を始めた俺なのである。


都市に居辛くなった気分なので、最近はホーンラビットの森に籠もる時間が増えている。チートの体力に任せ、適当な高さにウッドハウスをでっち上げるくらいに。

最初はもっと樹高のあるハイドクロウの森をと思ったのだが、地上型だとばかり思ってたハイドクロウが平気で幹を登って来やがったので断念。考えてみりゃ当然か。あんな立派な鉤爪持ってんだし、俺の背丈程度には普通に幹を登ってたんだし。要は必要な事だけをする効率的な戦いであのスタイルって訳だ。

流石は魔物でも三次元機動な鳥型って感じかね。


そこへ行くとウサギの跳躍はあってもホーンラビットは二次元機動止まり。地上5m程に陣取れば俺の脅威とは成りえん木っ端よ。ふはははははっ。


人の少ない場所に拠点を置いた事で、今まで躊躇していた事もやれるようになった。

味は辛味主体なれど、その中には絶妙な甘味と旨みを内包し、さりとて主役は味に非ず。香りである。鼻腔を様々な刺激によって擽り、痒みを与える。それは数多の食材と組み合わさる事で混純の味へと変化させるが、それでも尚、主役を張る強さを持つ。

黄金を基礎に朱や緑、時には青にすら染まるそれは……カレーである。

味も強烈だが香りはもっと強烈なコレだけは、人里で再現したらエライ事になるのが必至だったんで、今まで我慢してたのだ。


例によって味は何とでもなるので、手間の部分は食感。カレーライスが材料的に無理なのは解っているので、現状で試みるのはカレー味の肉。

また肉だ。いや肉しか無いと言うか。

葉野菜や根菜は有るので焼きカレーや揚げカレーって手段も取れないでは無いのだが、俺の中では、其れにはどうしてもご飯の御供を連想する。

故に、故にっ、泣く泣く単品物の再現に抑えて揺れる精神を安定させてる訳である。


そう言う事で、肉を素材にカレー風味の代表格。過去に何度か言葉にもしているタンドリーチキンの再現だ。

本物はカレー粉とヨーグルトを主体に様々な調味料を染みさせた肉を焼けば良いだけなのだが、残念な事にこの地方では乳製品が壊滅的。代替品としてはもう使い慣れた小麦粉の溶き汁をメインに使う事になる。

……が、足りない。

今回はそれにプラスした、スパイスの粉の食感が非常に大事なのである。

そちらの代替品は……今回は煎り豆で。カシューナッツ風のそれをカリカリに煎って粉砕。軽く胡椒っぽい味にして追加した。

デコレーションが済んだら、もう俺用七輪と化した素焼き鍋での網焼きへ。

後は弱火でじっくりと肉の中まで熱を通せば、ほぼタンドリーチキン(俺独断)の完成である。


さて、実食。


肉はハイドクロウのなので脂の濃い部分がカレーの風味と良く合う。

チャプチャプ、ブチリと噛み千切る食感も良し。今回の菜っ葉はエグミの無い素で噛んでも甘味のある物なので、口直しにも最適。

酒は……流石に魔物の生息地なので自重しとこう。


と言うか。

やっぱり完成後には大量のホーンラビットが足下に。

何処から集合したかってぐらいにツリーハウスの土台の木へと群がっていた。


なんだろう、この状況はハイドクロウにタコ殴りされた時に非常に似ている。

と言うか、俺が[万色の調味能]を使った直後って展開は、まんまあの時の再現だ。

なんだろう、俺のチートは魔物に対して変な影響を与えるのだろうか?


……いやまぁ、無視できないだろうな刺激臭を盛大に振り撒いてるって部分もあるんだが。

なんかこう、魔物も正気じゃない感じの反応だしなぁ。


食事を半端にするのも糧になった者への冒涜なので、今の気分は味の堪能がメインで状況分析はその次。食ったら考えるの精神。

……酒は自重するが、お茶でスパイス風味をスッキリさせるのは必要かな。

水出し煎茶味に改造済みで、尚且つ冷や冷やのまま[収納]に収めていた物で一服。

この事態になった工程がMAPでどんな感じだったかを、記憶から呼び出そうと暫し考えてみて、やはり本来の、ホーンラビットの索敵範囲よりも遠くから反応して集まったのだと確認した。


……ふむ、やっぱりチートに反応してって推測しとくのが正解かね?

ちょっと香りだけで集まるには異常な感じだし。


ただなぁ、観測の意識は途中からだから精度がなぁ。しかし確度を高めるには……もう一枚、焼いて食うか。


肉一枚じゃいまいち腹に貯まらなかった、とかじゃないぞ。

今度は今の事態の発生理由の考察で精度を高めるためだ。

今度は最初から周囲に注目しつつ、肉を焼く。

あ、一枚じゃなくて二枚、いや三枚は焼くのが良いかな。脂っこいがお茶と合わせると案外……あ、いやいや。データ取りは複数回の平均値が大事なのだからして。

今度はもうちょい、キリっとした辛味強めも良いかも……あ、いやいや……。


結局、この考察は魔物の圧で土台の耐久限界を迎えるまで続いたのであった。

流石は魔物。雑魚とはいえ数が揃えば大木すら薙ぎ倒せるとは。

この油断は次への糧とするべしの精神で。


ともあれ、カレー肉。美味しゅう御座いました。




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