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六話

予定外の宴会からの翌日。

何故か冒険者ランクが[D1]に上がっていた。

理由を聞いたら「ギルドでの評価が上がったので」と理由になってないような理由にて。

これが先日納品したハイドクロウの格上依頼の結果と言うならまだ納得なのだが、そん時は特に何も言われて無いのだから残る理由は……。

あの宴会しかねーじゃねぇか。

良いのか? 評価の査定がそんなアバウトなもんで?


ついでに、照り焼きタレの納品が常設依頼のとこに出てたり。

いいのか、冒険者ギルドがそんなんで?


そこそこ良い報酬なので俺的には助かる依頼とも言える。

ただちょっと困った部分はある。

それはタレの賞味期限。

あれは照り焼き味にはしてるものの、その正体は溶いて煮つめた小麦粉だ。極論、可食可能な期間は数日あれば良い方だろう。悪けりゃ翌日には使えない。あくまで、俺の時間無視な[収納]チート有りきのもんなのだ。

それも結局、在庫はあの宴会で使いきったし。

あれはあれで試作気分で問題無しだったが、流石に製品化して出すとなると話は別だ。小麦粉系の食中毒とかマジで洒落にならん。地球基準が何処まで通じるかは置いといたとしても。

小麦粉に限らず、発酵食品はそれだけ普通に腐りやすい素材が原料な訳だし。


何時もの狩り場に行き、ホーンラットとついでの野草を採取中。採取依頼として出る薬草も有るが、普通にハーブの類もあるから。香草って基本的に雑草だし。此方は魔物って訳でもないのに毎日刈り尽す勢いで採っても元気に繁殖している。

流石は雑草。

此処の森での活動は既に作業と化しつつあるので、意識を他に向ける事もできる。

……さて、味改変に使える保存性のある素材は無いかしらん……。


まぁ、候補はあるんだよなぁ。

庶民の飲料水の代替品な、ワイン水である。

この世界だって、水も煮沸すりゃ飲めるくらいの常識はある。そして経験として、そうして作った白湯でも日保ちはしないのも知っている。そこで生まれたのはワインとの混合飲料。微量でもアルコールが入れば雑菌が増え難いって部分を理解してるかは謎。というか、そんな地球の常識が通用してんのかは俺も知らん。

ただ世間ではそれで通用しているってのは事実だ。

この世界ではワインは酒であると同時に貴重な保存料でも有る訳。

素で保存性が高いなら、コレを使うのが一番コストが低そうという想像をしている。


問題はタレに偽装するためのトロミだが、そこは心配していない。もともとワインとはそういう物だ。

[天使の取り分]、ワインを樽で熟成させる時に醸造家よく使う例え。

時間の経過で樽の木を通して揮発し抜ける水分を、実に綺麗に表現した言葉だな。

さらに言うと、あまり長く樽詰めすると今度は逆に樽木の成分がワインに混ざってしまい、味が壊れて駄目になる。その前に瓶詰めして今度はコルク栓を通して水分を抜く事にも使う例えでもある。

で、この工程が行き過ぎるとどうなるか?

最終的に、瓶の中で水分が抜け過ぎたワインはジュレ化するのだ。

貧相な例えで悪いが、その感触はウィスキーボンボンのそれに非常に近い。


で、要はそれを意図的に再現してやりゃ良い訳だな。


因みに、昔々のワイナリーが雲霞の如く存在した時代にはそう言った品が良く出たらしい。潰れたワイナリーの誰も知らなかった倉庫から百年振りに発掘で、とかな。

または年に何万本も出荷してるとこの忘れものとか。

その他、自然発酵に任せる製造の時代は不良品も大量に出る。ワインビネガーとかが良い例。他には酒のままでも飲んで飲めない事は無いが、買い手には不評をかいそうな……的なのとか。

そういったもんを普通の物も含めて全部混ぜ込んで味の均一化を計ったもんが、いわゆるブランドワインってやつ。美味くできた逸品のみを高く売るじゃなくて、そこそこの味の物を大量に売りましょうの精神なわけだな。

そう言う事で、俺基準だがワインに関して産地に煩い連中には呆れの気持ちが大きい。そのまま飲んで美味いならそれで良し。不味けりゃ、自分で美味くなるよう調整すれば良いだけ。日本での外国産などほぼ混合酒なのだから、素の味に拘るだけアホらしいという意識で良いと思う訳よ。

更に言えば、日本にしろ外国にしろ、現地で飲む(売り物じゃない)混合前の単一酒はどんなランクでも普通に美味い。「味の深みが~」とかはあくまで個人差。俺には単なる雑味だ。自分が踏みしめる土地に根付いた味だけを楽しめる訳で、気分的にはその方が楽しめる。……俺はね。


閑話休題。


さて、アルコール成分を残したまま水分を減らしたいわけなので、先ずはワイン水は除外。ついでに果皮の名残りの多い赤も外す。つまりは白か。単純に皮取り作業工程の手間の分、この世界じゃ高めのワインになるなぁ。


野外ノルマを終えた帰りに、午後でも開いてる酒問屋にてチェック。そして驚愕。

やっべぇ、また地球での誤解が出てた。

……瓶のワイン、ちょっと価格がトンデモナイ。

庶民のワインは、どんなサイズであれ普通に樽売りでござんした。瓶ワインは完全富裕層向け。質より量を求める相手には、人の頭サイズと言うか、手持ちサイズの樽とかで売るのね。

と言うか忘れてたよ。ガラス製品、普通に高価なもんでした。


何でもワイン水に使ってる瓶は何処ぞで誰かが空けたワイン瓶の回収再利用品だったらしい。元のメーカーでの括りとか普通に無視。一応流通用に規格はどの産地でも(ほぼ)揃えているから、そういったごちゃ混ぜ再利用でも市場は困らないのだと。

他は、此処にもあった焼き物の壺売り。サイズは小樽と同じらしい。やはり樽に比べれば割れるので評判は悪い。ただし、買い置きでの品質の安定さでは壺に軍配有り。どちらも一長一短な感じだねえ。

しかし、今回に限ってはどっちの仕様も有り難くない。樽は勿論木にワインの成分が染みてるから中身をタレにした時の不安。壺も似たようなもんだ。内側に釉薬塗ってのものなら良いが、両面とも素焼きのアンフォラ仕様じゃやっぱり染みてしまう。

そうなると……独自に空きビン回収してって感じになんのかねぇ。

……なんか随分と手間の増えそうな気配。


焼き物で素焼き以外の無いかねぇ。

備前焼きみたいに、素焼きのつもりで焼いたら自然に釉薬付きみたいになった的なやつ。あれって確か、田んぼの土を熟成させたのだったっけ? 稲の成分が土に取り込まれてたとかな。麦畑はあるし、同じような性質か試して……いや無いか。自分で言ったじゃんか、熟成って。何年計画するかって話だ。

あと考えてて思い出したが、釉薬が全て保存に都合の良いもんじゃないのを忘れてた。中には樽木以上に変な味を中身に染みださせるやつもある。最低でも無味無臭な釉薬と確認してからでないと使えねーわ。



で、結局。素焼きの巨大土鍋といった品を見つけての作成とした。味は原料とする小樽の白ワインの投入時に改変。その後に生活魔術の乾燥を使いながら撹拌し、徐々に濃度を上げていった。水分が少ない方が保存性も上がるため自分用のよりトロミも強くした。その後に再びの味の改変。これで鍋にワインの残り香は無いだろうから、後で変な味に変わるなんて事故も無いだろう。

アルコール分はタレとして使って火を通せば普通に飛ぶだろうし。むしろ酔っ払いの連中が使うのだから気にしないんじゃ……な感じだし。


一応は現物ができても品質チェックしてから納品の積もりだったのだが、どうやら欲しがる奴等には作成中から気づかれていたらしい。どうやって感づいたのかは謎だが、完成した途端引き取りに来やがった。

保存に関しての話をしても聞きやしない。結果、使って死んでも自己責任でという恐ろしい同意書付きで最初の納品とあいなった。

……冒険者、馬鹿スグル。


土鍋丸ごとの納品で、それを各自で瓶詰めしての分配式に。うん飲兵衛共だし、空き瓶は山ほど持ってるんだろう。

結果、20本換算となり、総額10万ルテになりました。

一本あたり5000ルテ。

金持ってんだねえ、冒険者。


因みに、原価は500もしなかった。

良い金づるがデキタゾー。


……明日になって誰も死んでなきゃな話になるが。




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