表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/85

四話

冒険の朝。

俺はギルドの中で調査中。

対象は……鳥だ。

一昨日からの照り焼き欲求が治まらない。

昨日は自炊でホーンラビットの照り焼きをしたのだが……違うのだ。

やっぱ獣肉と鳥肉では、俺の中では別物だったのである。


で、ギルドの資料室で魔物図鑑をあさり、常設依頼のボードを眺めて狩猟依頼なんかを確認してみた。

結果的に今の俺がやれそうなのは、『ハイドクロウの蹴爪の採取』というもの。

依頼制限はCランクという、今の俺のランクからは一つ上のものになる。


ギルドへの依頼は信用が必要になる場合が殆んどだ。故に、その依頼に失敗するような人材に仕事の許可が下りる事は無い。

が、常設依頼に限ってならばその制限も意味は無い。

要は、現物を持ってきて依頼達成という強引な手段も可能なのだからして。

とは言え、それは対象となる魔物を無事に倒せる前提の話。

返り討ちにあって生涯を終える感じな自己責任で、結構冒険者の増減率は激しいらしい。

実も蓋も無い言い方をすると、向こう見ずな馬鹿が多いとも言うのだが。


さて今回目標とするハイドクロウは、俺が普段活動する森とは、都市部を挟んで反対側にある森林部が舞台になる。背の高い針葉樹が多い植生で、その木々に隠れるようにして人を襲う事から[隠れ身カラス]の名前がついたのだそう。

図鑑に描かれた物での特徴は、鳥型ではあるが脚が四脚である事か。採取目標である蹴爪は踵に当る部分の物で、一羽から最大四つ採れる事になる。研いだ鉄刃並みの斬撃性能があるので、蹴り攻撃には最大の注意をという文があった。


依頼完了は討伐証明となる蹴爪の提出で。

報酬は常設依頼なので、蹴爪の納品数で変わる。一個で50ルテ。一体からは四個採れる予定なので、最低200ルテからの歩合となる……と。


因みに、[ルテ]とは自由都市ルビアルテで通用する貨幣の単位。

大体、300から400で庶民家庭の生活費一ヶ月分だそうだ。

ただ、俺にはまだこっちの経済感覚がねえ……。食い道楽以外だと、ほぼ冒険者活動の雑費にしか金使ってないから。

まぁ、追々慣れよう。


さてチェックを続ける。

ふむふむ、素材としては全身くまなくなので、最終的には一体の納品で大体1000近くまでになる。ただし蹴爪以外は時価なのでその価格が絶対とはいえん……と。

「担当さん担当さん、最近の、肉を除いた価格帯は?」と聞いてみる。すると「大体800前後でしょうかねぇ」との応え。

余り肉の需要は無いようだ。まぁ、カラスだしなあ。でも記録では食用にはなっている。時期にもよるが全体的に脂身の多い肉質だそう。言い方を変えると、それで肉の劣化が早くて買い取り不可になる場合が多いのだとか。


……まぁ、なんだ。

それならそれで好都合。

俺持ってますし。異世界人チートの代表格、時間経過無しの[収納]能力。

日々の納品からは外したホーンラビットが既に大量ストックしとります。

ホント、よく絶滅しないよな。魔物。

今日から其処にハイドクロウも追加しよう。



……と、気軽に考えて後悔した。


現着。場所は[黒槍の森]と呼ばれる、黒めの幹な木々が鬱蒼とした昼でも暗い針葉樹の森。無数の柱と言うか、20mはある鉄の杭が刺さりまくった雰囲気。木々の間隔は其れなりに広めなのに、何故か奥行きは闇に塗り潰されている。単純にどんだけ広大なんだという感想が湧いた。

最初は弓での対応をと考えてたが、武器をショートソードに切りかえてた。

同じ森って括りでも、此処は今まで俺が活動していたとことは別物だ。先制攻撃を狙えるだけの情報は無いと判断し、迎撃スタイルで行く事にした。

なんせ魔物って、こっち見つけたら攻撃決定な生態だし。


四脚のカラスというファンタジーな魔物だが、俺の中ではカラスという認識ができてた事で、昼の日差しを完全に覆い隠す高い位置の枝葉の死角から襲ってくるのだと錯覚していた。

MAP内に反応は有るものの、それは上空と言っていい位置の闇に隠れているのだと意識してたのだ。

で、突然の接近反応。接敵する程に近づかれても肉眼で確認できない事に驚いた。

直後に腹への衝撃。慌てて視線を下にやれば、其処には大型犬サイズの巨大な鳥型の四足獣が居た訳だ。

地上走行かよっ!?

一瞬目が有ったハイドクロウは直ぐさまバックに跳躍。近くの木の後ろに着地して、そりを盾に身を隠す。黒い羽毛は暗い森の中では完璧な保護色となっていて、MAPの反応無しでは簡単に居場所を見失っていたろう。


何と言うか……予想外過ぎた相手であった。


突進攻撃は嘴を槍の穂先にした刺突攻撃だった。幸い、初撃は革の胴鎧に穴を穿っただけで、生身の腹には軽傷。痛みは其れなりにだが、半分反射的に行使してしまう回復の魔術で傷は消え、出血もほぼ無い。

まぁ、でもチートが無ければ即死一歩手前くらい? 

ホーンラビットもそうだが、一撃の殺意が異様に高い。流石は魔物って感じなんだろうなあ。


木の後ろに隠れてのヒット&アウェイは地上スレスレが基本だったが、時折は俺の頭の位置からも来た。あの巨躯でも木に登る事はできるらしい。と言うか、鳥独特の鉤爪からして普通にできるか。

遭遇したのが一体だった事もあり、最初は慌てたものの徐々に攻撃のパターンも把握できてきた。俺の意識の死角を狙いように来るが、それはMAP反応で対応可能。しかも大体は2m程の距離からの刺突込みの体当たり。短い距離ではあれ直線的なものなので、回避が不可能な攻撃では無かった。

最終的には向こうの攻撃に合わせたカウンターで。嘴と交差する感じに剣を振れば、そのまま頭部に命中して即死攻撃として決まってくれた。


……ああ、味付け毒攻撃する余裕が無かったわ。


次からはと思い、剣にデスなソースの味付けをしたらあら不思議。

MAPに表示してた魔物の反応が一気に活性化。なんか大集団な感じで襲撃してくるような動きに。

……どうやら、調味能の効果で香る臭気には魔物を刺激する効果もあったらしい。


とりあえず全力で逃げた。


……でも逃げ切れずに森の出口付近での大乱闘となりました。

生き残れたのは、偏にチートで頑丈だったが故に。


うん、チート大事。

もうちょっと使い勝手良かったらとか贅沢な意識でした。

神様ごめんなさい。そしてありがとう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ