三話
冒険者にはランク分けの格付け制度がある。
ギルドで正式に情報共有しているのは四種類。ABCDって括り。Aが最上位で。
ただ、各地方のギルドに、これを基準にしたローカルな細分化もあるそうだ。
ルビアルテの場合は各ランクが更に三分割する。[A1][A2][A3]という感じ。
これは「Aランクの能力は有しているが、其々に適性の違いが有る」っていう区分けだそうだ。
まず[A3]は、最低限Aランクの資格有り。言いかえれば、一個下のBランクに毛が生えた程度の実力というもの。
次に[A2]は、平均的なAランクの能力持ち。ただし、個性には問題が有るので注意。要は仕事内容以外の期待は持てない人材。
最後に[A1]、これがまぁ、本当の意味でAランクと呼べる対象。依頼相手が貴族とか権力者だったとしても、コミュニケーションとかの問題は起き難いよという感じ。
……異世界な展開によくあるよねぇ。貴族とのトラブル。
まぁ、貴族が相手なのは本当にAランクかららしいので俺には関係無し。
B以下の詳細も基本は同じ感じで、要は数字の1未満な格付けは何処かにマイナス評価を受ける素養がある訳だ。
それ以前に、新米冒険者は強制的に最低ランクなのだけど。
異世界生活を一月程過ごした俺のランクは[D2]になっている。
評価の内容は常設依頼のホーンラビット素材で質の良い物を納品し続けたから。
とは言っても、それがギルドにとって特別良い評価という事でもない。大体、依頼内容に関係無く一ヶ月の冒険者活動が黒字で続けばそう評価されるんだと。
とりあえず、冒険者への適性は有るだろうな感じで。
この都市では新人時代の出費が低くできるお陰で黒字活動はし易い。
ただし、貯蓄の意味ではまだまだその日暮らしの域は脱出できない。せいぜい、異様な節制無しで半年は無職で居られる程度だ。逆に放蕩すれば一晩ででも路頭に迷える。
しかし現状、俺に一攫千金を狙う気分は皆無である。
まだこの世界の事が良く解ってないからなぁ。
将来は自由気ままに行くとしても、今は悪目立ちだけはしたくないのだ。
なので貧乏人の日銭稼ぎで、偶に同業者との酒盛りを楽しむ程度で充分。
冒険者と地元住民が入り交じる安酒場なんかで、世間の常識を勉強中で御座います。
そうして酒場の店主や女給娘とも打ち解ける程度にはなった。
店主はベルコフ、女給娘はエルナとモニカ。
ベルコフとモニカは親子で、エルナは通いの半娼婦。こういう酒場ではよくあるシステムだ。ただしエルナは気性は良いが少し外見が俺の趣味じゃない。今のとこは単なる話相手の範疇で。
モニカの外見はまだ子供過ぎ。と言うかそういう目で見たらベルコフに絶対殺されるので対象外。あくまで無邪気な姪っ子を愛でるような気持ちである。
なにせ酒場の名前がベアハッグ亭。看板はテディなデフォルメの効いたクマ二頭がじゃれあう……いや、一頭がもう一頭に見事なサバ折りを決めてるもので、ベルコフ自身がそのクマを彷彿とさせる巨漢なのだ。
故に、この店に集う客層は特殊な性癖は有さない健全な層で占められる。
……該当しなかった客層が既に〆られ済みなのかは……俺の知らない時代の話だろう。
真実は知りたくも無いので話題にゃしないが。
俺はこの酒場を通してこの世界の料理の味を知った。
酒場の料理って事で濃い味付けだと思うのだけど、やっぱり基本は塩味。後は地域的に豊富なハーブ類。植生が地球に似てるのかハーブの類の中に辛いや酸っぱいは存在するが、主要な部分は香りな感じだ。特に肉類の臭み消しとも。芥子菜に近い菜っ葉も良く使われてるが、胡椒の類は現状見て無かった。
また狩猟での供給が盛んなせいか畜産は微妙。その関係で乳やチーズにも出会ってない。ニワトリなのかガチョウなのかは判別してないが鳥系の食材はある。市場で生きた鳥で売ってるのは見てないので。
流石に羽毟られた加工済みの肉では判別できんわ。売り子に種別を聞いても「食える鳥」としか返してこないし。都市内ではないとこから調達してようで確認もしようが無いのが残念。
味付け肉の代表となるとやっぱり鳥肉なんだよなぁ。一度試したいと思う反面、ホーンラビットでの代用も充分な気持ちも有って手を出せていない。と言うか微妙に高い。
フライドチキンの腿肉が食いたい気持ちで丸ごとターキーを買わにゃいかん状況はちょっとな。
……今度、鳥の魔物が居るかとかチェックしてみるか。
菜種かオリーブかは謎だが、植物油での揚げ肉調理は店で食った方が確実に経済的。なので注文がそちらに傾くのが今の俺のマイブーム。ハーブの香りを移した程度の素揚げなので、俺の味付けチートでアレンジを楽しんでおります。
雑多な店内だしカウンター席だしなので、派手な匂いの着く味は避けてるが。
それでも本日は漬け醤油風に。偶にあの独特の風味が恋しくて。なんせ日本人の業持ちですんで。
……あー……、明日は自炊で照り焼き風味にしよう。
何かちょっと醤油系の気分に火が点いた。