09話 彼にできた部下は異なるものである。
俺がミドルの近くまで追いつくと、国王とミドルが何やら言い合っていた。
「貴様! わしを裏切るつもりか?」
「お前もあの少女を裏切っておいてよく言うよ」
国王は絶望を露にした表情を浮かべ、ミドルは其れを面白おかしそうに見ていた。
ミドル率いる下位の魔物の軍隊は、ミドルが腕を上に挙げると同時に一気に、
カサリタン王国へと攻め入る。
国王率いる軍隊は、身を構え魔物達への体勢を固めた。
カサリタン王国VS下位の魔物の戦が始まったのだ。
「ところで君は何で生きているのかな?」
「お前を倒すためだったら幾らでも蘇るさ」
ミドルは俺の存在に気づいていたらしく、後ろを振り向き俺と顔を合わせる。
俺達は空中で互いに睨み合っている。
「いいのかい?彼らを助けないで」
ミドルの言葉で下に視線を向けると、魔物の軍隊にカサリタン国軍が少し
押され始めていた。
目にした感じだと、魔物たちに押し切られるのは時間の問題だろう。
しかし、俺は奴らを助けるつもりはない。何故なら彼らは俺を裏切ったのだ。
そのような者に手助けをするほど俺は甘くは無い。
「いっただろ?お前を倒すってさ!」
その言葉を話し終えると同時に攻撃を仕掛ける。
が、当然のごとく俺の攻撃はミドルへと通らない。
全て直前で避けられるのだ。しかも腹の立つことに、向こうから攻撃を仕掛けてこない。
「そんなものか?」
ミドルは手に緑色のような球体状のものを纏わせる。
そして、その瞬間、俺の目では追えないほどの速さで此方に向かってくる。
気づいたころには懐に入り込まれており、その手が又もや俺の心臓を貫いた。
しかし、その体を地面に這いつくばらせたのは俺ではなくミドルであった。
「貴様何処でその天使族の力を!」
ミドルは驚いた表情で此方に眼をやる。
俺自身天使族の力など見につけた覚えが無いのだが、さっきレティーナが俺の体に
入り込んだ際、彼女の天使族の力を有したのだろう。
「お前の負けだな」
創造現送で作った剣を手に持ち、その先をミドルの首へと向ける。
ミドルは打つ手は無いのかと思考を巡らせていたようだが、次第に目を瞑り、
諦めた様子を浮かべる。
「成る程な。 こればっかりは俺の計算外だよ。 天使族の力を有した人間、
お前の今後の活躍を楽しみにしているよ」
「あぁそうだな。 あの世での楽しみが増えてよかったな」
俺は剣を振りかざしミドルの首を撥ねた。
彼は笑みを浮かべたままその表情を変えることは二度と無かった。
ふと、カサリタン王国のほうへ目をやる。
美しかった町並みは燃え果て、あの幸せそうな笑顔を浮かべていた住民達の顔は
恐怖で塗りつぶされている。
町の中央にある噴水の近くで国王が魔物達に囲まれ絶体絶命のピンチに陥っていた。
俺は国王の近くまで創造現送で作った羽で飛び降り立つ。
すると、魔物達は国王から俺に目線を移した。
「お、お前来てくれたのか! 早くわしを助けろ!」
これが国王の本性なのか、初めて会ったときより格段と口が悪い。
俺は国王を睨む。すると彼は怯んで俺に言葉を投げかけてきた。
「だ、騙したのは悪かった! 国王の座もやる! だから助けてくれ」
その言葉に俺は冷たい声で返す。
「お前のせいで俺は大切な人をまた一人無くした。 お前にはレティーナの命の
代償を償って貰うぞ」
そういい、創造現送で目の前に剣を出現させる。
其れを手に取り構え、俺は国王の首を切り落とした。
辺りに血しぶきが舞うが、俺はそれを気にも留めない。この世界に来てから
二回目の殺人。しかし相手は俺を騙すような卑怯者だと思うと、罪悪感は不思議と
無かった。
「下位の魔物どもよ、良く聴け!」
俺は大声量で魔物たちに語りかける。
人間の言葉が通じるかどうかは分からないが、言ってみるだけ言ってみるか。
「お前達の指揮官ミドルは俺が倒した。 お前達の敵軍の王、カサリタンもな。
お前達が戦を続ける必要はない! この場を去るがいい!」
どうやら、魔物たちにも言葉は伝わったらしく、飛び跳ねている者や
ひれ伏しているものなどがいる。ん?ひれ伏しているもの?
俺はある嫌な予感がしたのでその場から少し移動する。
すると魔物たちも俺についてくる。
次は全速力で走り、魔物たちから距離をとろうとする。
しかし、その後ろを魔物たちがついてくるのだ。
「嘘だろ・・・」
俺はどうやらこの魔物たちに認められたらしい。
俺がこの世界に転生して初めてできた部下。
其れは、一万二千という魔物たちの軍団であった。
落胆しつつ回りを見て初めて俺は、辺りに飛び散る血や、燃え果て炭と化した町を目にし、そのときこの町には俺以外、もう誰もいないのだと悟ったのだ。
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カサリタン王国を偵察していたほかの国々は、ある少女の事を耳に挟む。
そして、その少女の強さを知ったものたちは何とか自国の戦力に加えようと、
作戦を立てるのであった。
今回で天使族誕生編が終わりとなります。
次の章は何にしようかなと思っています。