07話 彼彼女らはこうして悲劇へと巻き込まれるのだ
温泉から上がり、外へ出る。
暗さは行きの時よりも一層増していた。
温泉本来の疲れを取るという効果に反して俺の体は疲労困憊だった。
覚束ない足取りでギルドへと帰る。
受付の方へ目をやったが、其処にお姉さんの姿は無い。
気力の無いまま、二階に行き自分の部屋に入る。
「あ! ようやく帰ってきたわね!」
そういえば、レティーナを蓋付コップの中に閉じ込めていること忘れてた。
俺は蓋を開け、レティーナを外の世界へと開放してやる。
「まったく。 それで、そんなひどい顔してどうしたのよ」
レティーナは俺の顔をのぞきつつ問いかける。
そんなにひどい顔をしてるのか。まぁ無理も無い。俺がこの世界に来てから親切にしてくれた人の一人が亡くなったのだ。俺は小声で呟くように言った。
「ギルドのお姉さん食べられたってさ・・・」
「そう」
「吸血鬼の最強とかいうリベルが犯人だった」
「リベルってあの魔王幹部の!?」
レティーナは驚いた表情を顔に浮かべつつ、それでそいつはどうしたのかと
問いかけてきたので、「ぶっ殺した」と一言伝える。
「あいつを倒すって・・・あんた、今の強さでも十分魔王の城に行けるわよ」
呆れた様子でレティーナは言う。
今の俺は魔王討伐だとか、世界平和だとかどうでもいい。
どんなに強くても、自分の大切な人の一人も守れないんじゃ意味が無い。
「まぁ今はゆっくり心を休めなさい」
いつもは子供みたいな発言が多く、威張り散らしているレティーナだが
この時だけはいつも以上に彼女の優しさが感じられた。
しばらくベッドの上で目を瞑り考える。
もし俺があの時、睡眠をとらずに一階にいればお姉さんを守れたのではないかと。
しかし、今から考えても結果は変わらないのである。
そういえばこんな事前にもあったっけな
俺は前世でも同じ過ちを犯している。
自分のせいで大切な人を失い自暴自棄になって自殺した。
もしかしたらと考えているときにはもうすでに手遅れなのだ。
それに俺には魔王を討伐するという死命がある。何時までもウジウジしてられない!
そうして俺が体を起こしたと同時のことだった。
「おい! 誰かおらぬか」
「一階の方からだな。 誰だろ」
「あんたが吸血鬼リベルを倒したから追っ手が来たんじゃない?」
あくまで他人事のようにレティーナがとんでもないことを言う。
いくら俺でも、今のまま追っ手と戦うなど断固拒否である。もう少し
お姉さんを失った悲しみに浸かっていたい。
「おい! おらぬのか!」
「あんた早く行きなさいよ」
「しかたねぇな。 面倒だけどいくか」
レティーナはそのまま部屋に残ろうとしていたが俺が無理やり連れて行く。
俺一人面倒ごとはごめんなので道連れだ。
俺は精神的に参っているのか、何時もより重たく感じる体を動かして一階へと下りたのだ。
一階に下りてまず目に入ったのが入り口付近に待機していた軍隊。
そしてその先頭に立つ五十代程の男。
「やっと下りてきおったか」
「あんた誰だよ」
何か上から目線でものを言ってくる男性に少々腹が立ったので
強く言い返す。
するとレティーナが驚いた顔をして俺に言い放つ。
「あんた、この方はカサリタン王国の国王カサリタンよ!」
「え、何?このおっさんの名前カサリタンって言うの?」
俺はあまりの変な名前に大笑いをする。するとレティーナはアタフタと慌て
目の前にいる兵士たちは俺に剣を向ける。
肝心の国王カサリタンは俯いているので表情が分からない。
「おい、おっさん。 悪かったって。 元気出せよ」
そう言い、カサリタンの近くに寄った刹那、鋭い剣が心臓に標準をあわせ飛んでくる。
「『絶対反射』」
すぐさまスキルを使用し、その攻撃を跳ね返す。
元々然程の威力が無かったためか、国王カサリタンに致命傷は見られなかった。
まぁ肩辺りから物凄い量の血が出てるけど。
「流石じゃな。 噂は本物であったか」
「噂?おい、レティーナ。 噂って何だよ」
「そんなの私が知るわけ無いじゃない。 あんたが私のことを閉じ込めていたんだから」
レティーナは俺を睨む。
まだ恨みを持っていたのかよ。面倒なやつだな。
「そんでおっさん。 その噂って何だよ」
「まぁ多少の無礼は許してやろう。 この国にある噂が広まっておってな。
何でも見た目が美しい少女が魔王の幹部、吸血鬼最強といわれたリベルを倒したと小耳
にはさんで、此処へ来たというわけよ」
あのときの戦いがもうそんなに広まってたのか。
てか、この国の噂が広まる速度が半端ない。何せ俺がリベルと戦ったのって
まだそんなに何時間も経っていないはずだぞ。
「それで?何もなしに来たわけじゃないんだろ?」
「実わな、この国に下位の魔物の軍隊が攻めて来るらしいのじゃ。
その数約一万人。 数だけでも厄介じゃが、一番厄介なのはその数を操っている指揮官。
それがどうも魔王幹部のミドルらしいのじゃ」
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俺達は今、城の城内にある応接間にいる。
場所を移して詳しい事情と敵の詳細について話し合うためだ。
「待たせてしまったのう」
カサリタンが書類を持ってきて対面においてある椅子に座る。
「では先ず、おっさんの要求は何だ?」
「お主の力を貸してほしい」
どうやら、今回の敵軍の将軍であるミドルは何とも厄介な相手らしい。
ミドルの知能は俺ら人間を遥かに上回っており、やつの強さはその完璧なまでの
計算能力にあるそう。
実際、過去にミドルと戦った者のデータが書類に残っているが、
彼に攻撃を当てれた人数は0人。彼はその計算能力によって相手の動きさえも
完璧に読んでくるらしい。
「ここまでの計算能力を持っているのは厄介ね」
レティーナが真剣な顔で呟く。
確かに攻撃が全て読まれるんだったら、勝ち目は無いだろう。
「そんで、俺がもしこいつを倒したら、其のときの見返りは何だ?」
「わしももう年じゃ。 若しおぬしが勝利した暁には国王の座を譲ろう。」
「本気か?子供に後を継がせるのが普通じゃ・・・」
「わしは結構臆病な性格での。 そんな男について来る女などいない。
元々わしが死んだら国民投票にて新たな国王を決める予定だった。
しかし、もしそなたがあのミドルを打ち負かしたのなら国民たちの信頼は
お前に注がれる」
「つまり、俺がミドルを倒し英雄になった場合、国民投票の結果は分かっているから
予め俺を国王にしようって訳ね」
まぁ確かに一国の王になれるんだったら、魔王幹部の討伐ぐらいお安い御用である。
しかも、今回の俺にはミドルを倒すための秘策もあった。
「じゃあ取りあえずおっさん。 俺がミドルを倒したら国王にしてくれるっていう
契約書を書いてくれ」
「疑い深いやつじゃなぁ」
カサリタンは渋々といった感じに契約書を書いてくれた。
今回俺が秘策を思いついたのは、ミドルと戦ったもののデータとミドル自身の
計算という点に注目した時の、その重大なミドルの欠点であった。
「あんた本当に勝てるの?」
「当たり前だろ?」
俺とレティーナは互いの顔を見つつ笑い合った。
幹部だろうがなんだろうが倒してやるよ。
そのとき、国王が契約を書くときに渋ったことについてもう少し
考えていれば後の悲劇は起こらなかったというのに、俺はまた同じ過ちを
犯すことになる。
そういえば、4話の伏線回収してない! ってなって急いで路線変更しました。
取りあえずは今日一日で3話分書いたのでもうお腹いっぱいです。