06話 かくして彼はまた失うのだ・・・
俺が目を覚ますと外はすっかり暗くなっていた。
隣で寝ていたレティーナを起こし一階へと移動する。
「あ、ディニアちゃんおはよう」
一階に降りるとお姉さんが笑顔で迎えてくれる。
そういや、俺って何か忘れていたような。
「よかったらディニアちゃん。 一緒にお風呂は言っちゃう?」
そうだ。俺が性別を偽る計画を立てた理由。
其れは、お姉さんに俺の美少女用紙を利用し女だと思わせ一緒にお風呂に入るためだ。
「そうしようかな」
「じゃあ、温泉にでも行く? だったらディニアちゃんも支度してね」
「はーい」
俺は内心ドキドキしつつ自分の部屋へと戻る。
ふと、視線が気になり後ろを向くと、滅茶苦茶引いてるレティーナがいた。
「何だよ! 文句あんのか?」
「文句って言うより、キモイわよ」
「うぐッ!」
直球で悪口を言われると精神的ダメージが大きい。
しかし、自分の気持ちには逆らえないのだ。俺はなんとしても
お姉さんと一緒にお風呂に入る!
そういや俺って着替えなんも持ってないや。
特に何もせずに俺は一階へと再び降りる。
「あれ?ディニアちゃん着替えは?」
「それが持って無くてさ」
「なら私が小さいときに来ていた服を貸してあげるわ」
そう言ってお姉さんが持ってきた服。
うん。 男心が其れを断固拒否している。
ゴスロリじゃないか。何であんなにフリルが多いんだよ。
しかし、そんなことは口には出せず、苦笑いでありがとう
一言だけ言って俺達は温泉へとむかった。
あ、因みにレティーナは、俺が男だとお姉さんに言いそうで怖かったので
蓋付のコップの中に閉じ込めてある。
温泉に着いた俺達は脱衣所へと向かう。
暖簾には女という文字が大きく書かれてあった。
俺はまるで敵陣に侵入するスパイのような感覚になる。
ようやく俺は女湯にいけるのか
そして中に入ると、其処には俺の期待通りの光景が!と思っていたが、
違うのだ。うん。なんていうか熟してるって言うか、俺の範囲外だ。
周りはお年寄りばっかで一気にテンションが下がる。それでもお姉さんの
裸を見ようと目をやったがもうすでに脱ぎ終えてタオルで体をかくしてる。
「さぁ、ディニアちゃんも早く脱いだら?」
(やばい、やばい、やばい)
体から汗がにじみ出てくる。
今此処で脱ぐと男だとばれた挙句、逮捕される。
まぁ、この世界に警察や裁判所があるかどうかは知らないが。
「あの、恥ずかしいから先にいっててくれ」
「あら。 なら先に入っておくわね」
そういうとお姉さんは浴場へと姿を消した。
危なかった。その一言に限る。今でも逃げ出したいし後悔しているが
いまさら帰れない。
俺は周りの客人にばれないように服を脱ぎすぐさまタオルで隠す。
よし! これでOK。
かくして俺も、浴場へと脚を踏み入れたのだ。
浴場につくと、其処にはとてつもなく広い空間が広がっていた。
お姉さん曰く、空間魔法で空間を広くしているのだとか。
つくづく此処は便利な世界だなと思う。
そして俺はお姉さんが浸かっているお湯へと体を入れる。
「ディニアちゃん、肌綺麗ね」
「あ、ありがとうございます」
少し上ずった声で、敬語になる。
直ぐ後ろにはお姉さんがいるのだ。胸が高鳴る。
全身にその振動が伝わる。
「私ね、ディニアちゃんと出会えてよかった」
「俺もお姉さんと出会えてよかったよ」
「だってね、偵察に着てみたらまさか貴方みたいなおいしそうな娘に会えると思わなかったからね」
「え?」
すると、お姉さんはその口を俺の首筋にあてがえ、血をすう。
何だこれ。 力が抜けてくる。
やばいな視界がぼやけてきた
もう直ぐで意識がなくなるなと自覚する。
最後の力を振り絞り一言呟く。
「お・・・まえ・・・はだれ・・・だ?」
すると、お姉さんは俺の首から口を離し、
火照った顔で言い放つ。
「我が名はリベル。 この世界で最も力を有した吸血鬼だ」
吸血鬼リベルは名乗ると同時に俺から距離をとる。
俺も何とか力を振り絞り、浴槽から体を出して距離をとった。
「もはや、お前は動けまい。 これでも食らえッ『吸血弾』」
リベルは手のひらに、血で作った大きな球体を俺に向かって投げる。
球速はそんなに速くはないがあたったら確実に死ぬだろう。
俺は何とか助かる方法は無いのか模索する。そういえば!
『方の持っているスキル。『絶対反射』はその名の通り、ありとあらゆる攻撃を
反射するわ』
という言葉を思い出す。
今の状況を打開するにはこれしかない。
「スキル!『絶対反射』」
そう言った刹那、俺の前に透明の結界が形成される。
そして、其処にリベルの吸血弾が触れたかと思えば、元の
倍以上の速度でリベルのほうへと向きをかえる。
「何!?」
リベルは完全に不覚だったらしく、俺の跳ね返した攻撃をまともに喰らい
横たわる。俺はリベルの前まで歩き、そこで止まる。
俺は鋭く固い一本の剣を頭に思い浮かべスキルを発動する。
「スキル『創造現送』」
すると目の前に俺が考えた者と全く同じ剣が現れる。
其れをリベルの首へと向け、見下した目で問いかける。
「ギルドの受付のお姉さん。 あの人を何処へやった」
「あいつか? 食ってやったよ。 最後までディニアちゃんにだけは手を下すな
と申していたな。 あいつのせがむ顔は面白かったぞ」
剣を持つ手に力が篭る。
俺は勢い良く剣を上げ、振りかざす。リベルの首は体と分離し、彼女は
目を大きく開いた顔のまま動かなくなった。
俺はまだ手に残った切る感触を不気味に思いながらも一人、その場でうずくまる。
俺の頭に鮮明に映し出されるのは、いつも微笑んでくれた彼女の笑顔。
気づいたら俺の目からあふれた涙は止まることは無かった。
後に、その戦闘を見ていた客人から、彼の強さが広まりカサリタン王国、国王の耳に入ることとなる。
今回は前半ハーレム回、後半はまじめに書きましたよ。
因みに受け付けのお姉さんの死亡推定時刻は、主人公が寝てから目を覚まし、
お姉さんの姿をしたリベルに会うまでの間となります。正確な死亡時刻は決まっておらず、
読者の皆様が納得行くような解釈をしてくれればと思います。